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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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24 森の拠点

「洋一様。直せばなんとか住めるようになると思いますので、拠点はここでいかがでしょうか?」


 家に残っていた品々を丁寧に回収し、埃を払った箱に納めたリンネは、元気な声でそう言った。


「……リンネは大丈夫なの? 辛くない?」


 俺の言葉にリンネの長い耳が片方、ほんの少し下がる。


「色々思い出してしまって、辛くないと言えば嘘になります。ですが今は、またここに戻ってこられた喜びの方がずっと大きいです。ありがとうございます、洋一様……」


「ホントに大丈夫? 他の場所でもいいけど」


「いえ、ここがいいです。確かに辛い事も思い出しますが、それ以上に楽しかった記憶の方が多いですから。またここに住む事ができる日がくるなんて、夢のようです」


「……わかった。じゃあ近くの家から木材や使えそうな道具を集めてこよう」


「はい! 向こうに木材加工を生業なりわいにしていた人の作業場があるので、そこへ行けば加工済みの木や大工道具も残っているかもしれません」


 リンネは先頭に立って俺達を案内してくれる。空元気じゃないか心配だったが、耳がピンと伸びてピクピク動いているのは、初めて一緒に森へ行った時に見たのと同じだ。どうやらテンションは高めらしい。

 少し安心して、俺も前を向く。よし、リンネの家の修理がんばるか!




「……ねぇ、リンネってひょっとして不器用?」


 悲しそうに耳を垂らしたリンネが持つ、いびつな断面の木材を見ながら言う。


「申し訳ありません、あまりこういった事は経験がなくて……」


 森の中で、切った枝を使って簡易な小屋を作るのはすごい手際だったのに、どうやらナイフとノコギリは勝手が違うらしい。


「エルフの村って分業制なの?」


「はい。私はもっぱら狩りや採集をやっていました。他には木の加工が得意な人、糸や布の加工が得意な人、石の加工が得意な人、焼物作りが得意な人、薬の調合が得意な人、料理が得意な人など、各々自分の好きな事をやっていましたね」


 なるほど、やはりリンネは『料理が得意な人』ではなかった訳だ……。


「他はなんとなくわかるけど、石の加工ってなにやるの? 見た感じあまり石使われてないみたいだけど?」


「そんな事ないですよ。たとえばこれです」


 そう言ってリンネは、ポケットからやじりを取り出す。そういえばさっき家を片付けていた時、なにかを見つけて嬉しそうにポケットにしまっていたな。


「これは黒晶石と言って、とても硬い石で鋭く割れるんです。大量生産には向きませんが、人族が使う鉄のやじりよりもずっと丈夫で鋭いんですよ。エルフ族は金属を使わないので、ナイフもノコギリもみんなこれで作ります」


 言われてみれば、周囲のノコギリやノミもみんな刃が黒い。この村への旅の途中、リンネは使った矢を引き抜いて再利用していたが、それでも多めに買った矢が半分ほどに減っていた。リンネの弓の腕だと人間の矢は性能不足だったのだろう。黒晶石のやじりを見るリンネの目はキラキラ輝いていて、大切そうにポケットになおしていた。



「うう……お兄ちゃぁぁん……」


 妹の泣きそうな声に振り向くと、そこには片手にノコギリを、もう片方の手に大きく湾曲した切れ目を持つ木片を手にした香織の姿があった。おまえもか。

 よく考えたら、この妹は料理と裁縫以外は大抵なんでも不器用だった。この黒晶石のノコギリ、かなり切れ味いいんだけどな。


「……よしわかった、分業しよう!」


 別名器用貧乏とも言われる、大抵の事はそこそここなせるが、あくまでそこそこな俺が建物の修理を担当し、リンネは食料と資材の採集、妹には寝具の手入れと夕食の準備をお願いする。


 金属を使わないエルフの住居は、切った木材を接着剤のような特殊な樹液で貼り固めて作るのだそうで、俺が切り揃えた木材をリンネが採ってきてくれた樹液でくっつけて、壁の破れ目や屋根を直していく。

 道中おおむね役立たずだったので、ここでいい所見せておかないと兄の沽券こけんに関わるから真剣だ。


 妹はまず掃除をし、料理の傍ら家にあった大きな布の埃を払って干し、補修したあと枯葉を詰めてベッドを作る。リンネは食材の他にも、まきや各種の道具、手押し車まで集めてきてくれた。

 やっぱり適材適所大事だな。さっきまでとは作業の効率がぜんぜん違う。




 夕食を食べながら、みんなで意見の交換をする。


 リンネによると、村の周囲は食料が豊富で300人くらいならまとまって住めるそうだ。最近人族が進入した形跡も無かったらしい。


 妹によると、布は沢山あるしまきも食料も道具も問題ないそうだけど、水がないのが問題だそうだ。近くの小川までリンネが何度か汲みに行ってくれたが、炊事以外に洗濯もする事を考えると、近くに水場が欲しいとの事。


 俺からは、比較的状態のいい家を修理すれば、ここ以外に三軒ほど使えそうな事を報告する。ただし所詮素人仕事なので、できれば本職の人が欲しい所だ。


「リンネ、前は水どうしてたの?」


「少し先の沢から、といを使って引いていました。様子を見てきましたが、何箇所かで壊れてしまっているようです」


 なるほど、損傷具合によっては俺でも直せるかな?


「そうだ、話変わるけどフランの花ってこの辺にも咲いてるの?」


「はい。ここは山が近いので、小さな滝が沢山あります。時期的にそろそろお終いですが、もうしばらくは収穫できるかと」


「なるほど、じゃあリンネはフランの花をメインに、食材とか他に必要な物も適時集めておいて。10日間くらいはここに滞在する予定だから」


「了解しました」


「俺はといの修理に挑戦してみる。香織は……」


「わたしはお兄ちゃんのお手伝いと、服や下着作りをするよ。ここの布柔らかくて質がいいから、洗濯して使えばいいのができると思う」


「う、うん。じゃあそれで」


 この妹、たまにだけどすごく押しが強い。俺の手伝いを最初に持ってきたという事は、基本俺の近くから離れる気がないという事だ。裁縫は場所変えてもできるからな。


 そうして明日以降の予定を決め、その日は久しぶりにちゃんとした所で眠れる安心感もあって、大いに食べて夜更かしをした。

 リンネは元気で嬉しそうだし、妹の表情も明るい。森暮らし、ホントにいいかもな。


 でも、ここを本格的な拠点にするには足りない物が多すぎる。やはり何度かは、危険を承知で街へ行かなくていけないだろう。将来的な目標もあるしね……。




大陸暦418年11月17日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化)

資産 所持金 54万9200アストル

配下 リンネ:エルフの弓士 ライナ:冒険者(三ヶ月の専属護衛契約 2月6日まで)

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