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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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23 リンネの故郷

 リンネの故郷への旅は、まず王都の近くを流れる川沿いに上流に向かう所から始まり、途中で支流の一つにルートを変え、さらに上っていく。

 やがて雪を頂いた美しい山々が見えはじめ、それが間近に迫ってきた所で川から離れ、今度は森の中を進んでいく。



 この間の旅でわかった事は


・リンネの弓の腕前すごい


・リンネのサバイバル術マジ優秀


・妹の料理の腕前すごい


・妹の危険察知マジ優秀


・俺なんの役にも立たない


 の五点だ。


 とにかくリンネの弓の腕はすごい。視力0.9(引きこもり前)の俺はもちろん、2.0が自慢の妹でも見えない遠くの鳥を100発100中で射落としてしまうし、大きなシカやイノシシも急所を一撃で倒してしまう。そして獲物を解体して肉にするまでの手際も、グロいのを忘れて見惚れるほどだ。


 一度は妹の危険察知の後襲ってきた大きな魔獣を、弓の三連射を三発とも眉間に当てて倒してしまった。

 鑑定してみた所、


 キングイボイノシシ 魔獣 57歳 スキル:突進Lv4 状態:死亡 地位:突然変異を起こし巨大化したイボイノシシ


 と出た。項目は人間でも動物でも同じらしい。


 中型トラックほどの巨体を、リンネがナイフ一本で解体し始めた時はさすがにどうかと思ったが、あっという間に10キロほどの肉塊を切り出してしまった。


「一番美味しい部分です。今は寒い時期なので日持ちしますから、多めに持って行きましょう」


 血だらけの手で嬉しそうな笑顔を向けられた時は、頼もしいと思うと同時にちょっと引いてしまった。まだこの世界に慣れないな……。

 妹も解体中は脅えていたが、見慣れた肉になってしまえばなんでもないようで、手際よく調理して美味しい料理にしてくれた。ある意味俺より馴染んでるかもしれない、初めて妹をたくましいなと思った瞬間だった。


 俺の身長以上もある巨大なキバは、価値があるらしいが一人では持ち上げられないほど重かったので、とりあえず近くに隠しておいて、可能なら後日運ぶ事にした。

 リンネいわく、本来なら5・6人集まって運ぶ物だそうだ。地球の重さ換算で100キロはありそうで、重力半分説を採用するなら本来の重さは200キロだ。それが二本なので、引きずって隠すだけでも一苦労だった。

 残った大量の肉は、森の動物達がきれいに食べてくれるらしい。食物連鎖というやつだ。


 リンネは他にも食べられる野草やキノコ、果物などを採ってきてくれるので、買い込んだ保存食にはほとんど手をつけていない。調味料だけで十分だったかもしれないくらいだ。


 最初は心配していた野営も、リンネがナイフ一本で木の枝やツタを切って、屋根つきの簡易寝床をあっという間に作ってくれるので、思いの外快適だった。さすが森がホームだけあって実に頼りになるし、本人も生き生きとしている。

 ライナさんお勧めだったテントは分割すると一人分のポンチョになるので、雨の日も安心という万全の体制だった。


 妹は初めて見る食材でも、味見をして美味しい料理に仕上げてくれる。王都で店を出したらそれで食べていけるんじゃないかと思う腕前だ。

 なお、シカ肉のステーキに『もうちょっとレアのほうが好みかも』と注文をつけたら、火を十分に通していないシカ肉は病気の原因になるとかで、妹とリンネの二人がかりで怒られた。豚肉と同じようなものらしい。リンネはともかく、香織はよくそんなこと知ってたな。


 そんな事はあったが、全体としてはいっそこのまま旅暮らしでいいんじゃないかと思ってしまうくらいに、快適な旅だった。

 森の中を歩きながら、リンネに訊いてみる。


「リンネはどうして宿屋で働いてたの? こんなに色々できるなら、言い方悪いけど森を探検する冒険者のパーティーなり、隊商の護衛なりもっと適正のある所に需要があったんじゃないの?」


「……人族は、エルフ族の奴隷を買う時に個別の特性など考慮しませんから。ただ順にせりにかけられ、順に買い取られていくだけです。考慮されるとしたら、鉱山には小柄な者を、農場には体付きのしっかりした者をくらいでしょうか」


 リンネは悲しそうな目をして話を続ける。


「私の村から一緒に連れてこられた人達も、布織りや縫製の技術があった人が商会に、木工の技術があった人が農場に、薬草の調合に長けていた人が鉱山に買われていきました。自分の技能を活かす機会など与えられず、なにかを訴えようと口をきけばエルフのくせに生意気だとむちで打たれ、荷運びや肉体労働に使われるのです。人族にとってエルフ族とはそういう存在なのです。エルフ一人一人に個性があるなんて、考えた事もないのかもしれませんね」


 ……リンネの言う事は決して嘘や大げさではないのだろう。狩猟採集に長け、能力を活かせばあっという間に大金を稼げたリンネが、あの扱いだったのだから。

 そのおかげで俺達は助かったともいえるが、なんともやりきれない話だった……。




 旅を始めて九日目の昼。俺達は予定より一日早く、リンネの故郷だという場所にたどり着いた。


 そこは林立する大木に寄り添うように、小屋サイズの小さな家が点在している、ほとんど森と一体化した村だった。

 20年近い歳月の間に建物は朽ち、森に飲み込まれようとしているという意味でも一体化している。


 だが、一つだけ焼けた形跡のある家があるものの、ほとんどの家は古びているだけで戦闘で破壊された感じは受けなかった。

 そういえば、リンネはあんなに弓が上手いし身軽なのに、どうして捕まってしまったのだろう?


 遠慮がちに訊いてみると、悲しそうに耳を垂らしながら話してくれた。


「不意を襲われて、村の外で遊んでいた子供達を人質に取られたのです。そのせいでみんな満足な抵抗もできず、捕らわれの身になってしまいました」


 ああなるほど。それなら納得だ……。

 やりきれなさを胸に村を歩く。いくつか家を覗いてみると、炊事場や調理器具、食器類や小物など、確かにここで人が生活していたのだという痕跡が残っていて、心が絞めつけられた。


「ここが私の家だった所です」


 リンネが案内してくれた小さな家は、ツタが絡んではいたもののまだ原型を留めていた。

 八畳ほどの広さに炊事場が併設された空間。ここでリンネと母親の二人で暮らしていたそうだ。


「……あれ、妹さんは?」


「妹は、もう一人の母と一緒に暮らしていました」


 一瞬意味がわからなくて困惑するが、そういえば以前、エルフは女性しかいなくて、女性同士で子供を作ると聞いたのを思い出す。

 なるほど。それで母親が二人で、同時に二人子供ができるから、先に産まれた方がお姉ちゃんという訳だ。


 ほとんど双子のようなものなので、子供の頃からいつも一緒で仲良く育ったのだと、懐かしそうに話してくれる。


 リンネは思い出を語りながら、所々破れた壁を撫でたり、割れた食器の欠片を拾い上げてじっと眺めたりしていた。壁には色褪いろあせたカレンダーがかけられていて、それは大陸暦399年8月で止まっていた。21の所まで×が書かれている。きっとそれが、この村が平和でいられた最後の日。リンネ達家族が笑って暮らせていた最後の日なのだろう……。


 道中明るく元気だった妹が、俺の袖をギュッと握って悲しそうにうつむいている。

 俺は言いようのない悲しさに襲われて、散らばった陶器の破片を一つずつ拾い集めるリンネを、ただ黙って見守るのだった……。




大陸暦418年11月17日

現時点での大陸統一進捗度 0%

資産 所持金 54万9200アストル

配下 リンネ:エルフの弓士 ライナ:冒険者(三ヶ月の専属護衛契約 2月6日まで)

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