2 ここはどこ?
「お、お兄ちゃん……ここ、どこ?」
顔を上げて周囲を見回した妹が、声を震わせながら訊いてくる。
だが、そんなの俺が訊きたいくらいだ。
「どこって言われてもなぁ……」
「わたしたち家にいたよね? それで突然、家がぐにゃって歪んで……」
どうやら妹も直前の記憶は同じらしい。
動揺して震えている妹より俺が多少冷静なのは、特に失うものがないからと、引きこもっている時に読んだネット小説でこういう展開を知っていたからだろう。
「とりあえず立ち上がるぞ」
重なって密着している状態は色々よろしくないので、妹に手を貸して立ち上がらせる。立ち上がると体に当たる風が強くなり、冷たさに思わずぶるりと身震いした。
視界が高くなったおかげで見通しはよくなったが、辺りは一面の草原である。草が所々枯れはじめているのと風の冷たさからすると、秋の終わり頃だろうか?
だがそれはおかしい。さっきまで俺達がいた世界は四月だったし、そもそも夜の七時頃で、もう外は暗かったはずだ。
なのに今俺達がいる所は、曇っていてよくわからないが、少なくとも夜ではない。
改めて辺りを注意深く見ると、地平線の彼方にほんの少し、建物らしい影を見つける事ができた。
「香織、向こうに街が見える。とりあえずそこへ向かおう」
「え……どこ?」
俺の指差した方向に、しかし妹はなにも見えないようだった。
一瞬蜃気楼や幻覚の可能性もよぎったが、引きこもりの時に覚えたネット知識で、身長170センチの人が見える地平線は、4.6キロメートルくらい向こうだと書いてあったのを思い出す。案外近いんだなと思って、印象に残っていた。
そして、身長が150センチの人だと、見える距離が300メートルくらい手前になるはずだ。
無駄に背だけ伸びて170台後半の俺と、小柄で150センチもない妹だと、その差はさらに大きくなるだろう。
背伸びをして必死に俺が指した方角を見つめる妹は小動物みたいでかわいらしいが、つまりそのあたりの微妙な距離が、ここと街との間隔なのだろう。
向こうの建物の高さもあるので、実際の距離は10キロ以上はある事になる。
とにかくじっとしていても始まらないので、妹を促して歩きだす。
一年ぶりに見る妹は背もあまり伸びておらず、小学生の時からつけている髪留めをまだ使っている。こんな妹にずっと心配をかけていたのかと思うと、心にズキリと痛みが走った。
妹は不安気に視線を周囲に動かしながら、俺の服の袖を掴んで後をついてくる。小学生の頃はよくこうしていたなと、懐かしい気持ちになった。あの頃の俺とは、全然変わってしまったけどな……。
自己嫌悪に陥りながら、俺達は遠くに見える町へと歩みを進める。
とりあえず泥で汚れた服を着替えたいし、体も洗いたいな……。
現時点での大陸統一進捗度 0%
資産 所持金 ゼロ
配下 なし