199 大陸統一計画
いきなり『反乱』という不穏なワードが飛び出したが、エイナさんは平然として計画を語る。
「反乱と言っても、もちろん偽装ですからご心配なく。計画の第一段階においてはとにかくドラゴンの存在を強烈に印象付ける事が必要ですから、そのための舞台装置であるとご理解ください」
「舞台装置……ですか?」
「はい。反乱が起きたとなれば、鎮圧のために大軍を差し向けてもなにもおかしくありません。後に噂が効率よく広まるよう、国内各所から満遍なく集めた兵を差し向けます。一方で、他国の注目も集まる事でしょう」
「国境の街での反乱となればそうでしょうね」
「はい。反乱が起きたとなれば各国はもちろん、各地の大商人や有力者なども情報収集のために人を送ってくるでしょう。加えて、反乱を装って鎮圧のための軍を差し向け、そのまま偽装反乱軍と合流して国境を破り、隣国に奇襲をかけるなど古来より使い古された常套手段ですから、ダフラ王国は当然警戒して軍隊も送ってくるでしょう。大陸中の耳目が集中し、人数も敵味方多数が集まる。ドラゴンが登場するのにこれ以上ない最高の舞台となる事でしょう」
「……ちょっと都合がよすぎて逆に疑われませんかね?」
「結末まで全てを知り、安全な状況下でゆっくり考える事ができる後世の歴史家は疑うでしょうね。ですが実行段階で。ドラゴンの襲来という脅威に直面した状況で、しかも大陸の統一とエルフの国の建国という我々の目的を知らない者が感付くなど不可能でしょう。ましてドラゴンを自在に操る存在がいるなど、考えもつかない事のはずです」
なるほど、魔王の存在を知らない人達にはそうだろうな。
そして実行段階で問題なければ、後世の歴史家にどう思われようと問題はない。
「なるほど、了解しました。……ドラゴンが登場したあとはどうしますか?」
「我が国の兵士、他国や他勢力の情報官、ダフラ王国軍が見ている前で、シェラ殿に街を焼き払っていただきます。もちろん、住民を街の外と地下倉庫に避難させた上で」
「……この計画のキモの部分ですね」
「そうですね。巨大なドラゴンの襲来を目の当たりにすれば、兵士達は一も二もなく逃げ散るでしょう。戦ってどうこうなる相手ではありませんからね。我が国の兵士は全土から集めますので、彼等は国中にドラゴンの恐ろしい姿を広めてくれるはずです。向こう側で逃げ帰るダフラ王国軍の兵士達も同じ事をしてくれるでしょうし、将軍や情報官達は各地の中枢に急を告げてくれるでしょう」
「どんな対応が予想されますか?」
「なにもないでしょうね。襲来するドラゴンに抗う術などありません。せいぜいどこかへ避難する程度でしょう」
……まぁそうだよね。
エイナさんは時折チラチラとシェラに視線を向けながら、計画の続きを語る。
すごく気にしてもらっているっぽいのに悪いけど、シェラはお肉を入れていた容器の底に残っているタレを舐めようとして、行儀が悪いと妹に怒られている。
正直、威厳の欠片もない。
「……我々が取る行動としては、逃げ散る敵軍の後を追う形でダフラ王国内に侵入します。街で避難誘導に当たる人員と、エルフ達と共同でドラゴンと戦う部隊だけの少数精鋭で。目的地はダフラ王国の首都ザルートですが、そこへ向かう途中に追加で一つ二つくらい街を焼き払っていただくと、より恐怖と混乱を助長できて良いかと思います」
さらっと恐ろしい事を言うが、一応理屈はわかる。
なんか、俺よりエイナさんの方がよっぽど魔王適性ありそうだ。
現にこんな話を、眉一つ動かす事なく話し続ける。
「ダフラ王国内の混乱を拡大しつつ、ザルートにはドラゴンよりも我々の方が先に到着します。パークレン王国からの対ドラゴン人間エルフ混成部隊だと名乗って国王に謁見を求め、後の事は向こうの対応次第ですね」
「……もし謁見を拒否されたら?」
「その次元で愚か者なら大変楽でよいですが、イドラ国王は独裁的ではあるものの頭は悪くないと聞いております。可能性の高い経過としては、パークレン王国から派遣された人間エルフ混成の対ドラゴン部隊として謁見し。実際に襲来して首都の半分ほどを焼き払ったドラゴンを撃退して見せる事で圧倒的な優位性を確保し、強い影響力と民衆の支持の下、最終的に我が国に併合するというのが一番可能性の高い流れかと想定します」
「素直に応じますかね?」
「話の持って行き方次第ですが、目の前で首都の半分が焼き払われてしまうのを見れば、よほどの胆力の持ち主であっても心が折れるでしょう。そして我々がドラゴンを追い払えば、成す術もなかった王からは民の信頼が失われ、逆に我々は英雄となります。ドラゴンの脅威は去っただけで無くなった訳ではないのですから、抵抗しようとした所で地位を維持するのは難しいでしょうね」
「なるほど……他の国もそういう感じで併合するのですか?」
「基本はそうですね。ダフラ王国を併合すれば我々の支配領域は大陸の8割に迫ります。おまけにドラゴンの脅威も利用できるとなれば、後は目を瞑っていてもできる作業になるでしょう」
……エイナさんの語る計画は、とりあえず俺には問題点を見つけられないものだった。
なのでこの計画でいく事を決定し、今年の夏を目処に各自準備をする事になる。
俺としてはドラゴンは用意したので、あとは人間と一緒に戦うエルフ部隊の編成くらいだ。
妹に怒られてしょんぼりし、拗ねたようにさっき噛み砕いた骨の欠片をガリガリ齧っているシェラが切り札だと思うと、なんか不思議な感じがするな。
……というかシェラ、あんなに食べたのにまだ食べ足りないのか?
リンネに獲物を狩ってきてもらおうにも、さっきシェラがドラゴンの姿に変身したせいで、辺りの鳥や動物は逃げ散ってしまっているだろう。
シェラは果物とか野草とか食べないしなぁ……。
「シェラ、お腹すいてるならちょっと飛んで獲物狩ってきてもいいよ。森の中にはエルフさん達の村があるから、それは気をつけてね」
「いや、別に腹が減っておる訳ではないのじゃが、旨いものはもっと食べたいと思うじゃろう?」
ああなるほど、そういう事か。
たしかに香織の料理は美味しいもんな。エンシェントドラゴンさえ虜にするとは、恐るべし……。
そんな俺達のやりとりを見ていたエイナさんが、不意に言葉を発した。
「洋一様。ドラゴンを撃退してみせる方法については、なにかお考えがおありですか? どうせ仕込みですからなんでもいいと言えばいいのですが、できれば離れて見ている者達にも対ドラゴン部隊の活躍が伝わるような、派手なものがあるとよいのですが」
ドラゴンを撃退する派手な演出かぁ……。
正直心当たりはある。
あまり広めたくない知識だけど、誤魔化して使えば大丈夫かな?
「一応心当たりがありますので、計画実行までに用意しておきます」
「それは頼もしい。参考までにどのようなものかお訊きしても?」
「ええと……上手くいくかどうか自信がないので、成功したらでいいですか? なくてもなんとかなるのでしょう?」
「……ええまぁ、それなりになんとかはなりますね。わかりました、成功を楽しみにしております」
「はい」
視線で妙なプレッシャーをかけられ、ちょっと緊張した所で会議は終了となり、鉱山へ帰る事になった。
行きは体力がと言ってライナさんに背負ってもらっていたエイナさんが、帰りはなにか考え込んでいる様子で普通に歩いていたので、やっぱりあれは作戦だったんだなと納得しながら、俺達は鉱山へと戻るのだった……。
大陸暦426年1月20日
現時点での大陸統一進捗度 36.2%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・大陸の西半分を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児用の土地を確保)
解放されたエルフの総数 78万39人
内訳 鉱山に13万9562人 大森林のエルフの村4592ヶ所に53万1897人 リステラ商会で保護中の沼エルフ10万8580人(一部は順次大湿地帯に移住中) 保護した孤児2万2273人
資産 所持金 211億4913万
配下
リンネ(エルフの弓士)
ライナ(B級冒険者)
レナ(エルフの織物職人)
セレス(エルフの木工職人)
リステラ(雇われ商会長)
ルクレア(エルフの薬師)
ニナ(次期国王候補)
エイナ(パークレン王国国王)
クトル(フェアリー)
シェラ(エンシェントドラゴン)




