198 ピクニック
大森林の中、雪の上に広げられたゴザに妹主導でたくさんのお弁当が並べられていく。
なんか昨日の夜から忙しそうにしているなと思ったら、この準備だったのか。
ここへ来たのはシェラを紹介するためだったが、妹的には半分ピクニックという認識だったらしい。
「エイナさん、お好きだった干魚のオリーブオイル煮がありますよ、少し暖めますね。あ、シェラさんには特製のタレに漬けた超特大ステーキが50枚あるから、順次焼くね。一応生でも食べられるから、何枚か先に食べる?」
「おお、食べる食べる! 30枚くれ!」
妹は手際よく、下ごしらえがされた料理の仕上げをしていく。……ていうかシェラ、30枚って半分以上じゃないか。
まぁ、ドラゴンは本来生肉を食べるものだろうからいいけどさ。ドラゴンの吐く炎は肉を焼くには強すぎるからね。炭になってしまう。
一瞬リンネが大火傷を負った時の事を思い出してしまうが、そのリンネも今では元気にお弁当を並べている。
「ニナちゃん、好きだって言ってた卵焼きいっぱいあるよ。こうやってバターを塗ったパンに挟んで食べても美味しいから。あ、リンネさんやライナさん達も遠慮なく食べてくださいね。クトルちゃん、果物のハチミツ漬けあるよ」
妹はゴキゲンで、お弁当を次々に勧めていく。
妹の料理の腕前はみんなも知る所なので、昼食を摂る習慣があまりないこの世界の人達も次々と手を伸ばし、幸せそうに口に運んでいる。
エイナさんまで、会議の事を忘れたかのようにお魚を食べてご満悦である。
大陸の将来を決める重要な会議のはずなんだけどな……。
「お兄ちゃん。このカラアゲ自信作なんだ、食べて感想聞かせてくれると嬉しいな」
妹が、期待とわずかな不安の入り混じった表情で、おずおずとカラアゲを差し出してくる。
……うん、大事な会議の前には腹ごしらえも必要だよね。考えてみれば、ニナの思い出作りにもなっていいかもしれない。
そうと決まれば俺もゴザの上に腰を下ろし。妹が差し出してくれるカラアゲを口に含む……直前で気付いて、慌てて手で受け取った。
危ない。ごく自然に『あーん』されてしまう所だった。
お肉に夢中なシェラ以外全員の視線が集中しているのに気付かなかったら、そのままパクリといっていただろう。
なぜかちょっと残念そうな妹からカラアゲを受け取り、口に入れて噛むと、柔らかく心地いい弾力が歯から伝わってきて、じわりと肉汁が口いっぱいに広がる。それと同時に、スッといい香りが鼻に抜けた。
「……うん、おいしい」
お世辞でもなんでもなく、ごく自然にその言葉が口から出た。
瞬間、妹の表情がパッと明るくなる。
「よかった。冷めても美味しいようにって、衣と下味に工夫したんだよ。もう一個食べる?」
そう言って箸でカラアゲをつまんで差し出してくるが、微妙に高さが高い。
つい手ではなく口で受け取ってしまいそうになる位置だ。
なんとか指で受け取って口に運ぶと、うん。やっぱり美味しい。カラアゲ屋だけでも生計が立つんじゃないかと思うくらいだ。
皆が見ていたのが俺と妹だったのか、それともカラアゲだったのかはわからないが、そのあとカラアゲは全員に振舞われて大好評を博した。
なんでもこの世界、フライドポテトみたいな素揚げ系の料理はあるが、衣をつけて揚げる料理はあまりないらしい。
シェラが吸い込むように次々と食べるのを、みんなの分もあるからと妹に阻止されていた。
ついさっき巨大で恐ろしい姿を見せたエンシェントドラゴンが恨めしそうに見つめる中でカラアゲを食べるのはかなりのプレッシャーだったと思うが、それでもどんどん減ってあっという間に完食された辺り、どれだけ美味しかったのかがよくわかる。
というかシェラ、すでに自分の体の二倍くらいの量のお肉を食べていたのに、どこに消えたのか相変わらず不思議でしょうがない。
そして妹よ、よくシェラからカラアゲ取り上げたな。それけっこう懐いている犬でも噛まれかねない案件だぞ。
なんだかんだで半分くらいはシェラが食べたし、『また今度作ってあげるから』という言葉が通じたにせよ、わりと命知らずな行動だったと思う。
まぁ妹は危険察知の特殊スキルを持っているので、本当に危なかったらわかるんだろうけど、なんか俺より妹のほうがシェラの主っぽいよねこれ……。
そんなこんなで一時間ほど楽しいピクニックタイムを過ごし、ニナの思い出も作れた所で、いよいよ本題に戻る。
妹が沸かしてくれた温かいお茶を飲みながら、ついに会議が開催されるのだ。
話し合う議題の主な所は、
・大陸を統一する方法
・全てのエルフさん達を解放する方法
・エルフの国を建てて解放されたエルフさん達を収容する方法
・人間のエルフに対する認識を改善させる方法
・その後の世界を安定的に統治していく方法
などなど、どれも重要な事ばかりだ。
気持ちを切り替えて、真剣に臨む。
「エイナさん、そちらの『ゴリッ』……そちらの準備はどの程度『バキッ』……進んでいますか?」
カラアゲを取り上げられたので物足りないのか、シェラがステーキについていたわりかし太い骨を豪快に噛み砕いて中の髄を食べる音が大きく響きわたる。
……それを食べ終わるのを待って、会議が再開された。
「こちらの準備は順調ですよ。予定通り夏には行動に移せるでしょう」
さすがはエイナさん、こういう時は実に頼りになる。
「ちなみに、どんな感じで実行予定ですか?」
「大雑把に説明しますと、まずは東のダフラ王国との国境近くの街で反乱を起こさせる所から始める事になるかと思います」
「……反乱……ですか?」
出だしから思いっきり不穏な単語が登場した。
本当に犠牲者を一人も出さずに実行できるのだろうか?
俺はめいいっぱい不安を感じながら、エイナさんの言葉の続きを待つのだった……。
大陸暦426年1月20日
現時点での大陸統一進捗度 36.2%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・大陸の西半分を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児用の土地を確保)
解放されたエルフの総数 78万39人
内訳 鉱山に13万9562人 大森林のエルフの村4592ヶ所に53万1897人 リステラ商会で保護中の沼エルフ10万8580人(一部は順次大湿地帯に移住中) 保護した孤児2万2273人
資産 所持金 211億4913万
配下
リンネ(エルフの弓士)
ライナ(B級冒険者)
レナ(エルフの織物職人)
セレス(エルフの木工職人)
リステラ(雇われ商会長)
ルクレア(エルフの薬師)
ニナ(次期国王候補)
エイナ(パークレン王国国王)
クトル(フェアリー)
シェラ(エンシェントドラゴン)




