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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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188 腕の傷

 めでたくエンシェントドラゴンのシェラを配下にし、握手をしたら右手を砕かれた。


 魔王の特殊スキルである『魔王の加護』で能力が向上し、その分の力加減を間違ったとの事でわざとではないようだが、わざとじゃなくても痛いものは痛い。それもとんでもなく痛い。冷や汗が吹き出て立っていられないほどだ。


「お、俺のかばんに薬師さんからもらった痛み止めが入っていますから、それを出してください……」


 なんとかそう言うと、リンネが飛びつくように鞄を開けて、小さな試験管のようなガラス筒を取ってくれる。


 ふたを開けてもらって中身をのどに流し込むと、強めの苦味と共に意識がぐらりと揺れた感じがした。


「……すまん、大丈夫か?」


 申し訳なさそうに訊いてくるシェラの声も、どこか遠くの世界の事のように聞こえる。

 ライナさんが手に傷薬をかけてくれたらしいのも、ほとんど感じなかった。


 体の感覚がなくなって宙に浮いているような錯覚さっかくに襲われるが、しばらくすると意識だけが徐々にはっきりしてくる。


 多分数分の短い時間で、腕の痛みはすっかり感じられなくなった。すごいなこの薬、さすが薬師さんが特別製だと言っていただけの事はある。


 ……しかし、おちついた所で改めて右手を見てみると、自分の手とは思えないほど酷い有様ありさまだ。

 親指以外は全部折れてあらぬ方向を向いてしまっているし、手の形そのものも酷くじ曲がっていて血で真っ赤である。ちょっとしたグロ画像だ。


 エンシェントドラゴンの力、ちょっと強すぎるだろこれ。薬師さんに頼んでも治るかどうか心配になるくらい、かなりぐちゃぐちゃである。


「洋一様、こちらに!」


 青い顔をしたリンネが、即席で作ったのだろう木の枝とつる担架たんかに、俺を横たわらせる。


 自分で歩けそうだから大丈夫だと言ったのだが、問答無用で担架に乗せられて、リンネとライナさんに担がれて全速力で鉱山へと運ばれるのだった……。



 ――鉱山へと向かう俺を乗せた担架。


 その上をクトルが寄り添うように飛び、横にはシェラがついてくる。

 リンネとライナさんはほとんど全力で走っているだろうに、平然とついてくる辺りはさすがである。


 ちなみにシェラが『ワシの背中に乗せて運ぶか?』と言ってくれたが、目立ちすぎるし、落ちたら死ぬ気がするので遠慮しておいた。


 視界を森の木々が流れるように移っていくのを見ながら、俺は考えを巡らせる。


 こんな姿で帰ったら、妹はなんと言うだろうか? シェラに思いっきり敵意を向けてしまったりしないだろうか?

 ただでさえ勇者と最強の魔獣で、相性最悪に近いのだ。


「……クトル」


「はい、魔王様」


 一声呼ぶと、クトルはすっと高度を落として俺の顔の前へとやってくる。


「一足先に鉱山に帰って、エンシェントドラゴンを仲間にするのに成功したって伝えてきて。特に香織に、仲間だから絶対に攻撃しないようにって。あと、ちょっと怪我しちゃったからって言って薬師さんを呼んでおいて」


「はい!」


 返事をするやいなや、クトルはぐっと高度を上げて木々の上へと姿を消した。

 フェアリーが飛ぶ速度は人間が走るよりかなり早いので、これで先に情報が伝わるだろう。


 あとは右手に布でも被せて妹に見られないようにして、薬師さんに処置をしてもらおう。

 包帯を巻いて手の形をしていれば、大した事はないと誤魔化す事もできるだろう。

 鑑定されて『負傷(強)』とか出たらバレてしまうので、なるべく平静を装わないとな……。


 幸い薬のおかげで痛みはないし、血も止まっている。指を動かす事もできるしなんとか……って、あれ?


 違和感を覚えて右手を見ると、乾いた血で汚れてはいるものの、ぐちゃぐちゃだったはずなのに普通に手の形に戻っていた。

 握ったり開いたり、ピースサインをしてみたりするが、いつもと同じようにちゃんと動く。


「……リンネ、ライナさん。ちょっと止めて」


 そう声を出すと、担架が停止して地面に降ろされる。


「――なにかありましたか?」


 心配そうに、表情を曇らせてのぞきこんでくる二人の顔には、12月の末だというのに汗がにじんでいた。

 全力で走ってくれていたのだろう。申し訳ない……。


「あの……なんか、腕治ったっぽい?」


 そう言って手を伸ばし、握ったり開いたりして見せると、二人ともキョトンとして俺の右手を凝視する。


「まさか、あれほどの傷が……」


 ライナさんが俺の手を取ってまじまじと眺め、続いてリンネも同じようにするが、二人が見ても治っているようだった。


 ライナさんが安堵あんど6割に驚愕きょうがく4割くらいの表情で。リンネは歓喜かんき10割くらいの表情で、目に涙を浮かべて喜んでくれるが、いったいなにが起こったのだろうか?


 多分今で、負傷して30分くらいだろう。薬師さん特製の傷薬をかけてもらったとはいえ、いくらなんでも回復が早すぎる。


 あの薬はリンネの妹を助けに行った時。酷い傷を負わされていたレンネさんにも使ったけど、ここまでの効果ではなかったと記憶する。


 という事は……やはりあれだろうか。特殊スキルにあった『身体自動再生』。痛そうだから実験をしなかったあれの効果なのだろうか?


 ……とりあえずリンネとライナさんには魔王の能力っぽいと説明し、シェラになにか知っているか訊いてみたら、『魔王の能力なぞ知らんが、魔石が十分に育った状態のワシならこのくらいの速さで回復するな』との事だった。


 しかし、これが本当に魔王の能力なのだとしたら凄いけど、30分という時間はどうなんだろう?

 今はこの上なくありがたいけど、シェラみたいな打たれ強さのない俺は、戦闘の最中だったりしたら回復する前にやられてしまうんじゃないだろうか?

 それとも、魔王のレベルが上がったら能力も向上したりするのだろうか?


 気にはなるけど、あまり試したくはない。気を張っていたからなんとか持ちこたえたけど、ホントに泣くほど痛かったからね。

 それに、魔王のレベルもあまり上げたくない。



 ……なにはともあれ、これで無傷の状態で鉱山に帰る事ができそうだ。

 妹に心配をかける事もないし、シェラと必要以上に敵対する事もないだろう。


 念のためにと強硬に主張するリンネに従って鉱山近くまでは担架で運んでもらい、そこからは歩いて鉱山に戻る。

 シェラには『これから勇者と会うけど、俺の妹で仲間だからね』と、二回念を押しておいた。


 魔王と勇者が兄妹だというのには少し驚いていたが、ドラゴンともなると細かい事を気にしないのか、問題なく受け入れてくれたようだ。


 これであとは、妹の反応次第である。


 仲良くなってくれるといいなぁ……。




大陸暦425年12月28日

現時点での大陸統一進捗度 36.2%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・大陸の西半分を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児こじ用の土地を確保)


解放されたエルフの総数 78万39人

内訳 鉱山に13万9562人 大森林のエルフの村4592ヶ所に53万1897人 リステラ商会で保護中の沼エルフ10万8580人(一部は順次大湿地帯に移住中) 保護した孤児2万2273人


資産 所持金 211億4913万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

エイナ(パークレン王国国王)

クトル(フェアリー)

シェラ(エンシェントドラゴン)

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