182 人間側の共犯者
ライナさんに計画を打ち明けてから3日後。
季節は12月に変わり、雪が積もりはじめた道を通って、俺達は王都へやってきていた。
経済の首都がオーサルに移ったとはいえ、大陸の半分を支配する政治の首都になった街は、以前よりかなり賑わっている。
イドラ帝国との戦争で焼き払われてしまった街壁外の住居なども元より立派に立て直されていて、スラム街っぽい所もあった面影はまるで残っていない。
住民の表情も明るく、市場は賑わっていて、エイナさんの統治がとても優良である事を物語っていた。
夕方に王都の家に着き、エイナさんに会って話がしたい旨の連絡を送ると、その日の夜には早速姿を見せた。
王様なのにフットワーク軽いなぁ……まぁ、俺が来てるって事はライナさんも来ている訳で、お姉ちゃんに会いたいからってのが大きいんだろうけどね。
まずは妹が作ってくれた料理に舌鼓を打ち、おちついた所で本題となる用件を切り出す事にする。
まずは、こっそり持ち込んだクトルの紹介からだ。
レナさんが作ってくれた大きな鞄を開くと、中からクトルが出てきて俺の隣に浮く。
「はじめまして。フェアリーのクトルと申します」
礼儀正しく自己紹介をしたクトルに対し、エイナさんも『洋一様の臣下で、この国の王をやっているエイナ・パークレンです』と普通に自己紹介をした。動じないなこの人。
「エイナさんはフェアリーを見た事あるんですか?」
「以前に、当時のファロス大公のお屋敷で剥製を見た事があります。生きている個体は初めてですね」
……本人の前でそういう物騒な事を言うのはやめてあげて欲しい。クトルが脅えて俺の影に隠れてしまったじゃないか。
「ええと、実はこのクトルは俺が生成しました。今は俺の配下です」
その言葉にはさすがのエイナさんも少し表情を動かしたが、すぐに平静に戻って話の続きを促してくる。
俺は魔王と勇者の話をし、鉱山で起きた事を話す。
そして魔獣を使って人間とエルフの共闘関係を築き、それを土台に共生を実現させる計画を話すのだった……。
「…………」
俺が話を終えると、エイナさんはしばらくの間考え込む。
この人はある意味一番の強敵だ。気を引き締めてかからないといけない。
緊張して反応を待っていると、やがてエイナさんがゆっくりと口を開く。
「この場にお姉様がいらっしゃるという事は、この話はお姉様も了承済みという事なのですよね?」
「はい。条件付きではありますが、協力を約束して頂いています」
「なるほど、さすが洋一様は私の扱い方をよく承知しておられる。いいでしょう、私はなにをすればよいのですか?」
「……まずは大森林と大湿地帯、東方の大密林にエルフの国を建てる事について、国内と他国の有力者への根回しを。そして人間とエルフの共闘部隊を作るための下準備と、人間とエルフが共に暮らせるようにするために、一般住民への啓蒙活動に協力をお願いできたらなと思います」
「承知しました、他には?」
わりと無茶ばかり並べた気がするが、一言で了承されてしまった。けっこう無理を言った気がするんだけどね……。
「他には……犠牲者をなるべく少なくできるように知恵を貸してもらえたらなと思います」
「……なるほど。ところで洋一様、魔獣を生成できるというお話でしたが、最強のものをと言ったらどの程度をご用意頂けますか?」
「ご所望とあれば、ドラゴンでも」
「ほう……」
エイナさんの目がすっと細まる。
王都へ来るまでの馬車の中で、いつも非常食として持ち歩いているドラゴンの干し肉を素材に魔獣生成を発動してみたら、リストの一番下から二番目にある『ドラゴン』の項目が点灯した。
クトルに訊いてみた所、大型の魔獣は一度には生成できないかもしれないが、毎日少しずつ素材に魔力を送り込んでいけば、いずれは生成可能になるだろうとの事だった。
ただし、ドラゴンは性格が非常に凶暴なので、配下にしてちゃんと制御できるかどうかは未知数らしい。
それでもインパクトは絶大だし、一応は一度倒した実績もあるので、もし大勢の前であれを再現できれば、人間達の考えを一変させるほどの影響力はあると思う。
すごく危険だし、火薬の存在も知られてしまうからあまりやりたくはないけどね。
ドラゴンも生成可能だという俺の返事に、しばらく考え込んでいたエイナさんがおもむろに口を開く。
「洋一様。少し考えをまとめたいので、しばらく時間を頂けますか?」
「はい、よろしくお願いします」
「では後ほど、お部屋にお伺いいたします」
そう言って、エイナさんはライナさんと一緒に一旦部屋へと引っ込んでいく。
……俺が見た所、エイナさんの考えはすでにまとまっている様子だった。
それなのにあんな事を言ったという事は、ライナさんと二人だけで話をしたい事があったのか、あるいはライナさんを外して話をしたいのか。もしくは他になにかあるのだろうか?
妹が危険察知で警告してこないので、命を狙われているとかではないと思うけど、なんか色々と不安ではある。
とりあえず妹と交代でお風呂に入り、部屋で待っているとしばらくしてエイナさんが一人で訪ねてきた。
様子を観察すると、なんか肌が生き生きツヤツヤしている気がするので、お姉ちゃん分をたっぷり補給できたのだろう。
という事はライナさんと難しい話はしなかったはずだから、時間を空けたのはライナさんを外して話をしたかったからなのだろう。
緊張する俺を前に、椅子に座ったエイナさんはおもむろに言葉を発した。
「洋一様。さきほどの人間とエルフの共闘関係を築き、もって人間とエルフの共生を図る話ですが。もしも一人の犠牲者も出す事なく実現できたら、臣下への褒美として私の願いを一つ叶えて頂けませんか?」
「…………は?」
あまりに予想外の言葉に、俺は言葉を失って呆気にとられるのだった……。
大陸暦425年12月2日
現時点での大陸統一進捗度 36.2%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・大陸の西半分を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児用の土地を確保)
解放されたエルフの総数 77万5140人
内訳 鉱山に13万9562人 大森林のエルフの村4592ヶ所に53万1897人 リステラ商会で保護中の沼エルフ10万3681人(一部は順次大湿地帯に移住中) 保護した孤児2万1053人
資産 所持金 211億6203万(-6万)
配下
リンネ(エルフの弓士)
ライナ(B級冒険者)
レナ(エルフの織物職人)
セレス(エルフの木工職人)
リステラ(雇われ商会長)
ルクレア(エルフの薬師)
ニナ(パークレン鉱山運営長)
エイナ(パークレン王国国王)
クトル(フェアリー)




