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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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18/323

18 ライナ

「あ、洋一様香織様。お帰りなさい……ませ」


 宿に着くとリンネが迎えてくれるが、ライナさんの姿を見た瞬間一瞬見せた親しげな空気を瞬時に消し、客と従業員のものに。もっと言えば人間とエルフの奴隷のものに変える。敏感に空気を読んでもらえて大変ありがたい。


 今日の宿代と夕食代を払い、ライナさんも手続きをして、道すがら買ってきたちょっといいお肉を夕食用にと渡す。夕食用の食材は森からの帰りに買ったけど、そっちはリンネのおやつなり主人の食事なりで消費されるだろう。今日はお祝いだ、お祝いにはいいお肉なのだ。


 ライナさんとはいったん各部屋に別れ、夕食時にまた集合という事になった。外出時にはライナさんに声をかける事も約束する。


 とはいえ今日はもう出かける予定もないので、部屋でまったりとして過ごす。妹は熱心に裁縫をして、俺の下着パンツを縫い上げてくれた。

 妹手縫いのパンツ……なんか穿くの緊張するな。


 妹は続けて自分の下着も縫いにかかるが、見ているとなんかすごくいけない気持ちになってくる。

 目のやり場に困って視線をさまよわせているうちに、夕食の時間になったらしくリンネが呼びに来てくれた。


 今日はライナさんと三人で夕食のテーブルを囲む。一番活躍してくれたリンネが同席できないのは残念だけど、後日改めてお礼をしよう。


 夕食は黒パンに、ギルドからの帰りに買ってきたいい牛肉と、牛の骨で出汁をとったスープだ。ちなみにこの世界にも、牛豚鶏などは普通にいるらしい。


 昨日までと違って、今日は高いお肉だから期待できるはずだ。俺は勢い込んで分厚い肉にかじりつく――。


 ……視線の先で、妹も悲しそうにこちらを見つめていた。残念なお知らせ、問題があったのは食材ではなくリンネの料理の腕だったもよう。


 素材がいい分昨日よりは多少マシだが、あまりにもカチカチに焼かれすぎていて台無し感がすごい。ライナさんはと見ると、平然と食べている。たくましいな……。


 結局今日も肉とスープのトレードが行われ、俺のアゴは連日の試練に直面する事になった。

 食事をしながら、アゴのリハビリを兼ねてライナさんに話を振ってみる。


「ライナさんって食事の食べ方がきれいですよね。もしかしてどこかのお嬢様だったりするんですか?」


 鑑定で没落貴族の娘さんである事を知った上で、あえて訊いてみる。さっき助けてもらったのに意地悪をするようで心苦しいが、情報は大切なのだ。


「はい。幼い頃は男爵家の令嬢として育ちました。今はもう、家も両親も存在しませんが……」


 あっさり答えてくれたが、重い。とりあえず元貴族というのは秘密ではないらしい。

 さすがに両親の話を掘り下げるのは気が引けたので、違う部分を掘り下げる。


「それは失礼しました。冒険者になられたのはやっぱり、家の再興を目指してとかなんですか?」


「いえ。冒険者ではたとえS級になっても、よほどの功績を挙げなければ叙爵される事はありません。冒険者になったのは私が元々武術が得意だったのと、妹の学費を稼ぐためです」


「妹さんがいるんですか?」


「はい。私と違って頭がいい妹で、今は王立学校の中等部に通っています。主席なんですよ。家を再興できる可能性があるとしたら、妹でしょうね」


 妹の話をするライナさんは、自慢気で楽しそうだ。きっと妹の事がかわいくてしょうがないのだろう。他人とは思えない。


 妹に一年も心配をかけ続けた俺が言えた義理ではないが、強い親近感を覚える。

 それからしばらく、ライナさんの妹自慢を楽しく拝聴し、俺もちょっと妹の自慢をしたら、香織は顔を真っ赤にして照れていた。

 リンネが出してくれたデザートのトウの実も美味しくいただいて、とても楽しい夕食だった。


 明日の予定を確認し、その日はそれで解散となる。なんか俺、ライナさんと仲良くなれそうかも。



 翌日は昼までのんびりと体を休め、午後から買い物に行く事にする。ちなみに毎晩気を失うまで鑑定を発動しているが、回数は一日6回が限界のようだ。それでも翌朝に結構なだるさが残るし、昨日からは筋トレもはじめたので体がガタガタだ。


 痛む体を引きずって、妹とライナさんも伴って街へ出る。雲ひとつなく晴れ渡った空に、俺はこっちの世界も空は青いんだなと、妙な感慨に浸っていた。


 朝昼兼用のご飯を食べ、表通りの商店が並ぶ場所に向かう途中、俺はずっと気になっていた事を妹に告げる。


「なあ香織。お金も入ったし、代わりのくしと鏡を買いに行こうか。前のほどコンパクトなのはないだろうけどさ」


 この世界に来た翌日。その日の食事と寝床のために妹のエチケットセットを売らせてしまってから、妹はずっと手櫛てぐしで髪をいていた。実はかなり気になっていたのだ。


 妹は目を輝かせ、何度も『いいの?』と確認して、店を順に巡っていく。その楽しそうな表情に、俺も自然と嬉しくなった。


 あ、街壁の中に入ればもっといい店があるのかな? 失敗したか?

 一瞬そう思ったが、楽しそうにあれこれ品定めをしている妹を見ると、まぁいいかという気になる。また別の機会もあるだろうし。

 今は妹の笑顔を見られればそれでいい。ライナさんとも盛んに相談して、まるで仲のいい姉妹のように見える。ライナさんも楽しそうに小物を見ているので、凛々しい空気をまとっていても、やっぱり女の子なんだな……。




 ……女の人の買物は長いとは、本当によく言ったものだと思う。


 雑貨屋から古道具屋まであらゆる店を回り、最終的にくしと鏡を買うまでに四時間はかかった。

 途中何度も『もうこの一番高いやつでいいじゃないか』と言いかけたが、きっとそういう事を言う男はもてないのだろう。現に妹が選んだのは値段的には中の下くらいの、華美ではないがかわいらしいデザインの物だった。


 ちなみにお金を渡して買わせようとしたら、上目使いで『お兄ちゃんに買って欲しいな……』と言われてしまい、一瞬意味がわからなかったが、結局俺が買ってプレゼントとして渡す形になった。

 妹は嬉しそうに受け取ると、『ありがとう、大事にするね』と輝くような笑顔を見せてくれた。なにこれ、うちの妹かわいすぎる。


 他に石鹸の代用になる木の実や日用品なども調達し、宿に帰る途中で意を決し、ライナさんに話かける。


「ライナさんは、エルフ族と一緒に食事のテーブルを囲むのは嫌ですか?」


 俺の言葉に、ライナさんは不思議そうな表情を浮かべてこちらを見る。

 勝算なく訊ねた訳ではない。昨日今日とライナさんを見て、もしかしたらという可能性を感じたからこその質問だった。


「……そうですね。違和感があるというのは否定しませんが、特別嫌という訳でもありませんよ。実は私、子供の頃は馬小屋に忍び込んで馬と一緒に寝たりした事もあるんですよ」


 やはりエルフ族は動物という基本認識は変わらないらしいが、悪くない反応だと思う。


 そしてその日、リンネを半ばむりやり誘って四人で囲んだ食卓でも、ライナさんが特別嫌悪感などを見せる事はなく、むしろリンネと対等に会話をしてさえいた。元貴族のわりには、かなり柔軟な思考の持ち主らしい。


 俺の中で、一つの選択肢が徐々に大きくなっていく……。




大陸暦418年11月5日

現時点での大陸統一進捗度 0%

資産 所持金 265万400アストル(-22600)

配下 なし

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