179 魔王と魔獣
名前をもらってはしゃぐクトルがおちついた所で、情報収集を再開する。
「クトル、魔獣ってどういう存在なのか知ってる? エルフは魔獣じゃないよね?」
「魔獣というのは、生き物や物体に魔力が宿って変異を起こしたものです。私は魔王様から直接魔力を頂いて誕生しましたが、通常は稀に魔力溜まりのような場所が発生して、そこから誕生します」
「繁殖したりはしないの?」
「しません。自然に誕生する分だけです」
生成した時に見たクトルの裸が女性型だったから、てっきりするのだと思っていた。
なるほど、それならエルフさん達とは根本的に違う存在だ。
「魔力ってどんなものなの?」
「あらゆる場所にごく薄く存在していて、なんらかの要因で濃くなると様々な影響を発現させます。長い時間を生きた魔獣の体内で徐々に濃縮され、魔石といわれる塊になる事もあります」
おお、ずっと前に聞いた魔法を使うのに必要な魔法石の事かな?
リンネの火傷とレンネさんの腕を治したドラゴンの秘薬があったが、あれの材料になった珠もその類なのかもしれない。
「魔王にはレベルってのがあるらしいんだけど、どうやったら上がるか知ってる?」
「申し訳ありません、それは分かりかねます。私の知識はフェアリー種の魔獣として一般的なものだけですから」
なるほど、よく考えたらまだ生まれて1時間くらいだもんね。色々知ってるほうが不思議か。
「魔王についてなにか知ってる事はある? 魔獣の生成能力についてとか」
「ごく稀に誕生する、私達魔獣の王であるという事くらいしか……」
「う~ん。魔獣の王って事は、他の魔獣も従える事ができたりするのかな?」
「それは……私は魔王様に生み出して頂いた存在ですし、配下にもして頂きましたから絶対の忠誠をお誓い申し上げますが、他の魔獣は難しいかと。魔王様の武威を持って従わせる事は可能かもしれませんが……」
ああ、スキルの洗脳とか威圧とかってそれに使うのかな?
だとしたら今の俺には無理なので、現状できるのは自分で生み出した魔獣を従える事だけらしい。
俺が一日にどれだけの魔獣を生み出せるのかわからないが、人間とエルフ共通の敵となる、強大な魔獣の群れを作り上げるのはかなり大変そうだなぁ……。
「できた!」「うわ!」「ひゃっ!」
考え込んでいた所、突然響いた声にびっくりして振り向くと、妹が人形に着せるような小さな服をもって嬉しそうにしていた。
ずっと静かだなと思っていたら、カレサ布を使ってクトルの服を作ってくれていたらしい。
そういえば昔、よく人形の服とか手作りしていたな……。
少し懐かしい気持ちに包まれながら、俺よりびっくりして部屋の隅、壁と天井の境目まで全力で飛んでいったクトルを呼び寄せて、服を合わせてもらう。
クトルはまだ香織の事が怖いようで、涙目で俺に縋るような視線を向けてきたが、大丈夫だからと説得して一緒に香織の元へ向かう。
「うん、よく似合ってる! かわいいよクトルちゃん」
なんか、妹がテンション高めですっごい楽しそうだ。こういうの好きそうだもんなぁ……。
服はちゃんと背中の羽にも配慮されたデザインで、詳しくないからなんていうか知らないけど、おヘソの上くらいまでの肩から吊る上着に、短めのスカートだ。
ちょっと肌面積が多いけど、裸に布を巻いただけよりはずっといい。
「クトルちゃんのサイズなら端切れで色々作れそうだね。ワンピースとか、ドレスタイプもいいなぁ。下着つける習慣あるよね? あ、ちょっとサイズ測らせて」
妹がノリノリだ。
クトルの表情が勇者に対する脅えから、着せ替え人形にされる困惑へと変わっていく。
妹には最近心配をかけたり悲しませたりしてしまっていたので、クトルには悪いがしばらく我慢してもらおう。
俺にとっても楽しそうな妹を見ているのは、難しい状況下で一時の安らぎになる穏やかな時間だ……。
しばらくして妹がおちついた所で、どのくらい魔力を消費しているのか確かめるべく鑑定を発動してみる事にする。
魔力の消費は自覚症状がないので、残量がわからないのだ。多分もうかなり減っていると思う。
そう心配した通り、鑑定を発動した俺は意識が遠のき、そのまま気を失ってしまった……。
意識が戻った時、なぜかベッドの上で妹に膝枕されていて、胸の上ではクトルが俺にしがみつくようにして眠っていた。
それはまあいい……のかどうか分からないけどとりあえずいいとして、今日は鑑定3回と魔獣生成2回を発動していたので、魔獣生成は鑑定と同じくらいの魔力消費だったらしい。
とはいえスライムとクトルが同じだったとは限らないし、もっと大型だったり上級の魔獣だったりすると、また違うかもしれないけどね。
ともあれ基本的な能力の確認が済んだ所で、計画の具体的な実行方法を考える。次に必要なのは協力者だ。
強大な脅威が出現したからといって、それですぐ人間とエルフの共闘関係ができるわけではない。
その流れに持っていくためには根回しも下準備も裏工作も必要だろうし、人間と一緒に戦うエルフさん達も選抜しなければいけない。
牧場産まれのエルフさん達は人間を見ると脅えるし、能力的な事を考えても大森林や大湿地帯、大密林産まれのエルフさん達にやってもらう事になるだろう。
だが、多くは人間の奴隷にされた経験を持つ人達だ。わだかまりもあるだろうし、争いを好まないという性格もあって、人選びは難しそうである。
多くの犠牲を出すであろう計画。できれば俺一人でやるのが望ましいが、それはどう考えても不可能だ。
陰謀を共有して手を貸してくれる人が、少なくとも人間とエルフ一人ずつは必要になるだろう。
体裁を作らずに言えば、協力者ではなく共犯者である。
清濁併せ呑み、俺と一緒に罪を背負ってくれる人。
そして能力に優れた優秀な人……。
俺はこの世界に来てから知り合った人達の顔を、順に思い浮かべるのだった……。
大陸暦425年11月28日
現時点での大陸統一進捗度 36.2%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・大陸の西半分を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児用の土地を確保)
解放されたエルフの総数 77万5140人
内訳 鉱山に13万9562人 大森林のエルフの村4592ヶ所に53万1897人 リステラ商会で保護中の沼エルフ10万3681人(一部は順次大湿地帯に移住中) 保護した孤児2万1053人
資産 所持金 211億6209万
配下
リンネ(エルフの弓士)
ライナ(B級冒険者)
レナ(エルフの織物職人)
セレス(エルフの木工職人)
リステラ(雇われ商会長)
ルクレア(エルフの薬師)
ニナ(パークレン鉱山運営長)
エイナ(パークレン王国国王)
クトル(フェアリー)




