表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

171/323

171 一人のエルフが死んだ日

 ベッドの上で目を覚ました俺は、隣にいた妹に言葉を発する。


「香織、あの後どうなった?」


「……エルフさんが息を引き取った後。お兄ちゃんは泣きながら大きな声で叫んで、そのまま気を失っちゃった。遺体はルクレアさんが病室に運んでいって、お兄ちゃんはリンネさんとわたしでここに運んだ。そんなに時間は経ってないよ」


「そうか……」


 ――俺の手にはまだあの時の感触が。スルクトさんの手から力が抜けていき、スルリと滑り落ちた時の感覚が、生々しく残っている。


 俺にとって、目の前で人が死ぬというのは初めての経験だった。


 元の世界では経験がなかったし、この世界に来てから戦争に従軍したが、戦いは遠くから見ているだけだった。鉱山を買い取った時には手のほどこしようがなかった重症患者が2人死んだが、俺はその場に立ち会っていない。

 見学に行ったエルフの牧場も、リンネの妹が捕らわれていた地下室もそれはもう酷い場所だったが、目の前で人が死ぬ光景に遭遇する事はなかったのだ。


 生まれて初めての当たりにした人の死は、俺にとてつもなく大きな衝撃を与えた。

 加えてその死の原因が俺にあるという事実が、俺の心にすさまじい重荷となってのしかかってくる。


 鑑定で見たスルクトさんは、183歳だった。エルフの寿命を考えれば、あと100年や200年は生きられたはずなのだ。


 それなのに、重い首輪をつけて満足に呼吸もできない体を引きずって、二ヶ月近くもほとんど飲まず食わずで森の中を歩き続けたあげく、ボロボロになって死んでしまった。

 そしてそれは、俺に会いにこようとした結果なのだ。


 俺の存在を知らなければ、スルクトさんがこんな行動に出る事はなかっただろう。

 奴隷の暮らしも悲惨なものだっただろうが、それでもこんなに早く死ぬ事はなかったはずなのだ……。


 そしてなにより辛いのは、そんなスルクトさんの命がけの行為に対して、今の俺にできる事がほとんどないという事実である。


 申し訳なさと不甲斐ふがいなさのあまり、涙が出て体が震えてくる……。


「お兄ちゃん……」


 妹が手を強く握ってくれなかったら、俺はこの場で泣き崩れていただろう……。


 ――その時。ドアが強めに開かれて、慌てた様子のリンネが部屋に飛び込んでくる。


「洋一様、お目覚めになりましたか」


「リンネ……ごめん、心配かけて」


「いえ、私達エルフのためにあれほど心を痛めてくださった事、心からうれしく思います……それより洋一様、ルクレアさんと他のエルフ達が言い争いをしているのです。仲裁ちゅうさいに入っていただく事はできないでしょうか?」


「え……」


 エルフさん達は元々、俺が心配になるくらいに温和な性格をしている。

 例外的に気が強い薬師さんはともかく、他のエルフさん達が言い争いなんてただ事ではないのだろう。

 リンネの慌てた様子からしても、ふつうにあるような事ではないのだとわかる。


 俺はベッドから立ち上がり、一瞬ふらついたのを香織に支えてもらって、病室へと向かうのだった……。



 病室ではスルクトさんの遺体を囲んで、薬師さんと数人のエルフさん達が言い争っていた。知らない顔だが、少しだけ大人びた外見からすると森出身のエルフさん達だろう。


 病室にはニナやライナさんもいたが、困惑の表情で立ち尽くしているだけである。

 とにかく話を聞いてみると、どうやら争いの原因はスルクトさんの遺体の取り扱いであるらしい。


 エルフは基本、死んだ仲間の体は自然に返すとの事。

 山エルフなら大森林に、沼エルフなら大湿地帯に。そして多分森エルフは大密林に。


 今回は大密林は無理なので、大森林へ返す事になる。

 それは問題ないのだが、問題はその前だ。


 薬師さんは『奴隷の首輪をつけたまま埋葬するなんて嫌だ! 死んだあとくらい自由にしてやりたい、一旦首を切ってでも首輪を外す!』と言い、他のエルフさん達は『こんなにボロボロの体になってまでここにやってきたのに、これ以上体に傷をつけるなんてかわいそう!』と主張して言い争っているらしい。


 ……ああ、これは難しいな。ニナやライナさんが口をはさめずにいたのもよくわかる。


 俺も一瞬考え込んでしまったが、言い争う光景を悲しそうに見るリンネの姿に気付いて、とにかく間に割って入る。

 この場は俺に預けて欲しいと言うと、こんな俺でも一応ここで一番偉い人なので、薬師さんも他のエルフさん達もうなずいて了承をしてくれた。


 ……正直どちらの言い分もわかるだけに対応が難しいが、どちらかというと俺の感覚は薬師さんに近い。

 やっぱり首輪なんてつけたまま埋葬するのはかわいそうだ。


 俺はしばらく考えて言葉を発する。


「……薬師さん。首輪を外した後、首を元通りにくっつける事ってできますか? ついでに他の傷の修復も」


「それは……傷痕に貼る皮膚ひふさえ確保できるのなら可能ではあるが」


「うん、じゃあそれをお願いします。皮膚は俺の体から取ってください。他のエルフさん達も、この場は俺の顔を立ててそういう事で納得してもらえないでしょうか?」


「…………」


 一瞬の沈黙の後、真っ先に声を上げたのはリンネだった。


「洋一様にそこまでしていただく訳にはまいりません! 皮膚は私のを使ってください!」


 その声が呼び水になったように、他のエルフさんたちが次々と『それなら私のを!』『私の皮膚も!』と騒ぎ出す。


 俺は自分が言い出した事なので俺のをと主張したが、リンネが必死に止めるのと、妹に『お兄ちゃんがやるなら私もやる!』と言われるにいたって、引っ込まざるをえなくなった。


 俺の体はともかく、妹の体に傷をつけるのは嫌すぎる。



 結局、皮膚は最初に薬師さんと言い争いをしていたエルフさん達が提供する事になり、スルクトさんの首輪を外す手術が行われる事になった……。




大陸暦425年11月16日

現時点での大陸統一進捗度 36.2%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領並びに旧イドラ帝国領の大森林地帯を領有・旧サイダル王国領の大湿地帯を領有・大陸の西半分を支配するパークレン王国に強い影響力・旧サイダル王国領東部に孤児こじ用の土地を確保)


解放されたエルフの総数 77万5140人

内訳 鉱山に13万9562人 大森林のエルフの村4592ヶ所に53万1897人 リステラ商会で保護中の沼エルフ10万3681人(一部は順次大湿地帯に移住中) 保護した孤児2万1053人


資産 所持金 211億6209万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

エイナ(パークレン王国国王)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ