164 規格決め
リステラさんと話をし、最も大切な輸送に使う箱の規格を検討する。
相談の結果、一人で持つ用の箱と二人で持つ用の大きな箱の二種類について、扱われる事が多い品物の大きや馬車に積む時の扱いなどを考慮した結果、40センチを基準として、小さい方は40センチ×40センチ×40センチの立方体。大きい方は80センチ×40センチ×40センチと決定された。
倍数になっていると積む時に無駄がないからね。
この世界にも一応定規や巻尺のような物はあるが、わりと誤差があっていいかげんなので、俺達で『これが40センチ』と定めた規格の棒を作り、それを基準にして鉱山のエルフさん達に製作をお願いする。
エルフさん達の仕事なら、バラつきも少なくいい物を作ってくれるだろう。
ちなみに納入価格は、小さいほうが500アストル。大きいほうが1000アストルとなった。
鉱山運営の足しになるだろう。エルフさんたちとニナに手紙を書いて、製作と販売をお願いする事にする。
それにしても、40センチ四方の箱は単純計算で容量64リットル。外寸だから中はもう少し狭いにしても、水で満たしたら60キロくらいの重さになる。
入れる物によっては一人で扱うの辛いんじゃないかと思ったが、この世界は体感的には重力が半分くらいだし、リステラさんによると荷物を扱う人は体を鍛えているので十分扱える重さだそうだ。
さすがはクレーンもフォークリフトもない世界である。人間がたくましい。
そう言えばさっき抱きついてきたリステラさんも、力強かったもんな……。
……なにはともあれ規格が決まり、もう一つの問題は値段をどうするかだ。
俺にはさっぱり見当がつかなかったが、リステラさんがたっぷり熟考した末、箱に荷物を詰め放題で小さい方は1万アストル。大きい方は2万5000アストルを基本価格として、馬車での移動目安となる距離一日につき1000アストルを加算にしたいという事だった。
この前の話で出た塩の例だと、小さい方の箱に塩の小袋50個分入るとして、距離が5日だから1万5000アストル。一袋あて300アストルになる。おお、今までの三分の一だ。
塩という需要が約束された品を大商会が効率よく運んだ値段三分の一だから、間違いなく安いのだろうが、問題は採算性だ。
「その値段だと、どのくらいの利益が見込めますか?」
「そうですね……洋一様にお渡しする金額として、小さい方で一つ2000アストル。大きい方が5000アストルでいかがでしょうか?」
基本価格の2割か。
どれだけ需要があるかわからないが、とりあえず一年で1万個と5000個の扱いがあったとしたら、合計で4500万アストル。
必要としている資金に比べれば圧倒的に不足だが、ほぼリステラさんに丸投げでそれだけ稼げるのなら文句はない。
とりあえずだから、将来的に事業が拡大するかもしれないしね。
「わかりました、それでお願いします。……ところで、リステラ商会の採算の方は大丈夫なんですか?」
「はい。まずはわが商会が定期的に荷馬車を運行している街の間に限って扱いをはじめようと思っていますから。護衛は専属がいますし、扱う数が少量であれば他の荷馬車に追加搭載し、多ければ他の荷物を運ぶ中型馬車を大型馬車に変更するなどして、なるべく安く上げますからご心配なく。そういった工夫は商人の本分ですから」
そう言って、自信満々の笑顔を見せるリステラさん。
リステラさんの商人としての才覚は今更疑うまでもないので、全面的に信用しよう。
この新商売がいきなりはじめられるのも、リステラ商会の信用と、すでにある支店とそれを結ぶ流通網があるからだからね。
他に、箱にはリステラ商会の紋章を焼き印し、似た大きさでもそれがない箱では受け付けない事。
配達時には中身だけを引き渡して箱は回収する事。
受取人が見つからずに配達できなかった場合は発送人に返送し、料金の半分を返金する事などの運用方法も決めた。
ゆくゆくは地方の街から村へのネットワーク拡大と、120センチ×40×40サイズの箱の導入なども検討するが、それは商売が軌道に乗ってからだ。
そこまで決めて、俺はふと気になった事を訊ねてみる。
「リステラさん。この方法を村にまで拡大すると、行商人の仕事を奪っちゃわないですかね?」
「そうなるでしょうね。大きな村には商店を兼ねた常設の支店を置き、小さな村には何日おきにと日を決めて、移動商店をかねて定期的な巡回をしようと考えていますから」
「それって、恨みをかって襲撃されたりしませんかね?」
「商人にはよくある事ですが、その時には行商人をリステラ商会で雇用して村々を周ってもらえばよろしいかと。いつ来るかわからない行商人よりも定期巡回のほうが村人もありがたいでしょうし、雇用形式のほうが行商人の生活も安定します」
「なるほど。上手い事双方の利益になるといいですね」
「はい。本来商人が儲けるという事は、生産者に生活の糧となるお金を支払うと同時に、お客さんには必要としている品を提供して互いの生活を向上させ、ひいては国全体を豊かにする事なのです。一部の悪徳商人以外はね」
悪徳商人……やっぱりいるんだろうな。
俺の脳裏に、薬師さんがいた鉱山を買い取った時の光景がよみがえってくる。
あの商会はなんって言ったっけ……ああそうだ、ラドガン商会だった。
「リステラさん。話し変わりますけどラドガン商会って知ってます?」
「はい。洋一様が実質所有しておられる鉱山の元所有者ですよね」
「今どうなっているかご存知ですか?」
「あそこは先の内戦で第三王子派についた貴族と関係が深かったので、内戦のあと没落して、イドラ帝国が攻めてきた時の混乱で完全に潰れてしまいました。元従業員6人をうちで雇っていますが、なにか御用ですか?」
「いえ、ちょっと気になっただけです」
そうか、潰れてしまったか……。
この話を薬師さんが知ったら喜ぶだろうか? ……無理だろうな、そんな事でどうにかなるような傷じゃないし。
薬師さんの心の傷を癒す方法があるとしたら、それは一人でも多くのエルフを奴隷の境遇から助け出す事だろう。そしてそれはリンネとの約束を果たす事でもある。
そして、そのためにはやはり莫大な資金が必要になる。
今回の運送業以外の金策も考える必要があるだろう。
俺は決意を新たに、あれこれ考えを巡らせるのだった……。
大陸暦424年4月2日
現時点での大陸統一進捗度 31.4%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領大森林地帯・イドラ帝国をファロス王国に併合・サイダル王国をファロス王国に併合・ファロス王国に強い影響力)
解放されたエルフの総数 44万8377人 ※情報途絶中
内訳 鉱山に30万6251人(森に避難していた人達帰還) 大森林のエルフの村1112ヶ所に13万2318人 リステラ商会で保護中の沼エルフ9808人(内一人は鉱山に滞在して山エルフと情報交換中)
旧マーカム王国回復割合 95% ※情報途絶中
資産 所持金 605億4679万
配下
リンネ(エルフの弓士)
ライナ(B級冒険者)
レナ(エルフの織物職人)
セレス(エルフの木工職人)
リステラ(雇われ商会長)
ルクレア(エルフの薬師)
ニナ(パークレン鉱山運営長)
エイナ(ファロス王国財務大臣)




