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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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160/323

160 大都市の闇

 エイナさんが俺の配下になった翌日の3月11日。俺達は元サイダル王国の首都、オーサルの市場を歩いていた。


 メンバーは俺と妹に、ライナさんエイナさん姉妹。他に護衛の兵士10人ほどが、少し離れて着いてきてくれている。


 周辺の建物は所々に焼け焦げた跡があったりするが、市場はかなりの人でにぎわっていて、並んでいる品物も多い。

 活気だけ見れば、つい先日まで戦場だったというのが嘘のようだ。


 エイナさんが俺のお願いに配慮して早期決着を目指してくれたおかげで、住民はもちろんエルフさんにも飢え死にする人はほとんど出なかったらしい。

 犠牲者が少なかったというのも立ち直りの早さに繋がっているのだろう。


 今も近隣の都市から続々と物資が運び込まれているようで、荷物を満載した馬車が頻繁ひんぱんに行きっている。リステラさんがいたら商売の匂いを感じてはしゃぎそうだ。



 お金は大陸共通であるらしく、手持ちの物が使えたので妹と焼き菓子のような物を買って食べたり、店を眺めたりとゆっくりした時間を過ごす。

 妹は長旅の間に消耗した調味料の補充や、この国特産の珍しい食材に興味深々だった。


 それはそれで楽しそうだからいいのだが、兄としては服とかかわいらしい小物とかにも興味を示してほしいなと、ちょっと心配になる。

 料理全般を任せっきりにしている俺が言えた事じゃないかもだけどさ……。


 なのでライナさんにそっと耳打ちし、どこか良さそうなお店を選んでもらって、そこに入る事にした。


 ライナさんは今でも暇さえあれば槍の鍛錬たんれんを欠かさない武人だけど、実は女の子らしい一面もあって、かなりセンスも良かったりもする。


 ライナさんが選んでくれたのは小さなアクセサリー店で、起きているのか眠っているのかわからない老婆が一人で店番をしていた。

 並んでいるのも数百アストルから、高い物で数万アストルくらいの一般向けのお店だ。だがさすがライナさんのお目に適っただけあって、なにやらよさげな品が並んでいる。

 ……まぁ、俺アクセサリーの善し悪しとかさっぱりわからないんだけどね。


 ともあれ、俺は店に入って言葉を発する。


「みんなにはいつもお世話になっているので、俺が代金を持つから好きな物を選んでください。あ、エイナさんの分はライナさんが選んであげてくれますか?」


「……え?」


 呆気にとられたエイナさんの表情は、なかなかレアだ。

 ファロス王国の財務大臣であり、次期国王最有力候補のエイナさんにしてみれば、この店に並んでいる品なんて玩具おもちゃみたいな物だろう。

 だが、大好きなお姉ちゃんに選んでもらった一品となれば、そこには金銭に換算できない価値が宿るはずだ。


 実際、俺の言葉に驚いた表情でこちらを見たエイナさんだったが、今はめったに見られないほどうれしそうに、照れくさそうにほほを赤らめてライナさんにあれこれ品を選んでもらっている。


 ……こうして見ると、エイナさんも普通の女の子だよな。とても陰謀いんぼうを巡らせたら大陸で三本の指に入るだろう策略家とは思えない。

 ともかく、これで少しでも俺に好印象を持ってくれたらいいなと思う。主人になった所で、俺がエイナさんにしてあげられる事なんてほとんどないからね。


 一方で、妹もライナさんに相談しながら熱心にアクセサリーを物色ぶっしょく中だ。

 こんな穏やかな時間、久しぶりだよな……。



 ……えてして女の子の買い物とは時間がかかるものであるらしく、体感で3~4時間ほどかかってようやく選定が終了したらしい。

 俺、店主のお婆ちゃんと並んで寝る所だったわ。


 結局妹が銀色をした髪留め、ライナさんが青いガラス玉のついた飾りひも、ライナさんが選んだエイナさんへの品が、小指にはめる小さな指輪となったらしい。しめて3万6400アストルだ。


 今までのお礼と考えるとあまりに安いが、妹は髪留めを早速前髪に着けてご満悦だし、ライナさんは愛用の槍に飾り紐を結んでくれた。エイナさんに至っては、指にはめた指輪をぼーっと眺めてうっとりしている。すっごいレアな光景だ。


 なにはともあれ、みんな喜んでくれたようでなによりである。



 基本昼食という概念がいねんがないこの世界だが、お昼ごはんの代わりに屋台で軽く食事をし、引き続き店を見て周る。

 次は服かなと思いながら歩いていると、不意に近くで大きな怒鳴り声が響いた。


「待て、泥棒!」


 見ると、声の主はパン屋の主人らしい大柄な中年男性。叫ぶ方向には、体の半分くらいの長さがある大きなパンを抱えて走る、裸足はだしの子供がいた……。


 そして必死に走る子供の前に、二人の影が立ちふさがる。


「あぐっ!」


 次の瞬間、重い打撃音と同時に子供の悲鳴が聞こえてきた。

 よく見ると立ちふさがったのは街の衛兵で、持っていた槍で子供を打ち据えたらしい。

 地面にうずくまり、それでもパンを抱えて放さない子供に、パン屋の主人が追いついてくる。


「ありがとうございます。ちくしょう、このガキめ!」


 パン屋の主人は衛兵にお礼を言うと、態度を豹変ひょうへんさせて地面に横たわる子供を容赦なく蹴り飛ばす。

 それも一度だけではなく。二度、三度とだ。殺してしまいそうな勢いである。


 周囲には沢山の人が歩いているのに、誰もそれを止めようとしない。

 むしろ関心がないかのように、足を止める人すらほとんどいなかった。


 衛兵も、パン屋の主人が追いついたのを確認すると、あとは任せたとばかりに歩き去ってしまう。まるで、いま行われているのが当然の事であるかのように……。


 俺は、気がついた時には現場へ向かって駆け出していた。そりゃ確かに泥棒はいけない事だけど、あれは明らかにやりすぎだ。


 駆け寄って、近くで見た子供は初めて会った時のニナよりも小さく、7、8歳くらいに見えて痩せた体をしている。ボサボサに伸びた髪のせいで、男の子か女の子かもよくわからない。


「あの、お金なら俺が払いますからその子を許してやってもらえませんか?」


「ああん?」


 俺の言葉に不愉快そうにこちらを見たパン屋の主人だったが、一瞬で表情を変えた。俺の後ろを、護衛のファロス王国兵が追ってくるのが目に入ったのだろう。


 この街にとってファロス王国兵は、占領者である。

 エイナさんの命令で略奪などは厳禁げんきんされていて、それを破った元イドラ帝国兵が数人縛り首になったという話も聞いているが、それでもこの街の住民にとっては恐ろしい存在に違いないだろう。


 明らかに動揺の色を見せるパン屋の主人に、パンの値段がわからなかったのでとりあえず銅貨5枚を渡すと、主人はそれを受け取ってそそくさと店に戻っていった。

 それを見送って子供に目を向けると、パンを抱えたままヨロヨロと立ち上がり、路地ろじへ逃げ込もうとしている所だった。


「あ、待って」


 そう声をかけたが、子供はおびえたように足を速めて走り去ってしまう。


「……あれだけ動く事ができるなら、重度の傷は負っていないと思います」


 いつの間にか隣に来ていたエイナさんが、難しい表情でそう言葉を発する。

 見ると、妹とライナさんも複雑そうな、悲しそうな表情をして子供が消えていった路地を見つめていた……。


「エイナさん、あの子は戦争で親をなくした孤児とかでしょうか?」


「いえ、あの服の痛みと伸びた髪を見るに、ここ一ヶ月や二ヶ月でああはならないでしょう。おそらくはかなり以前からあのような生活を送っているのだと思います」


「そんな、この街は食料が豊富で豊かな所じゃなかったんですか?」


「食料が豊富である事と、それが全住民に公平に行き渡るかどうかは別の話です」


「…………」


 エイナさんの言う事は、俺も元の世界知識でよく知っている。

 食べ残された料理がたくさん捨てられる一方で、お腹をすかせた人がゴミをあさるような状況は、豊かと言われた先進国でも明白に存在していた。


「お兄ちゃん……」


 すぐそばで聞こえる、妹の悲しそうな声。

 視線を移すと、目に涙を浮かべて俺を見上げている妹がいる。ああ、そんな目で見られたら俺は……。


「エイナさん、相談したい事があるのですが」


「承知しました。一旦城に戻りましょう」



 こうして楽しかった外出は重い雰囲気の中で終わりを告げ、お城に戻った俺達はエイナさんの執務室に集まって話をする事になるのだった……。




大陸暦424年3月11日

現時点での大陸統一進捗度 31.4%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領大森林地帯・イドラ帝国をファロス王国に併合・サイダル王国をファロス王国に併合・ファロス王国に強い影響力)


解放されたエルフの総数 44万8377人 ※情報途絶中

内訳 鉱山に30万6251人(森に避難していた人達帰還) 大森林のエルフの村1112ヶ所に13万2318人 リステラ商会で保護中の沼エルフ9808人(内一人は鉱山に滞在して山エルフと情報交換中)


旧マーカム王国回復割合 95% ※情報途絶中


資産 所持金 605億4705万(-4万)


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

エイナ(ファロス王国財務大臣)

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