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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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152 交渉ではなく脅迫

 俺達が帝都の郊外にたどり着いてから3日後の12月7日。気球から見渡す帝都は酷い事になっていた。


 街の北西部分から西部にかけては茶色い泥水に覆われ、逆に他の地域では深刻な水不足が起きているらしい。

 この辺りは本来乾燥地帯で、水路の水がなければ木も満足に育たない草原地帯なのだ。


 グライダーから投下される油壺によって起こされた火災は、消される事もなくあちこちで巨大な大火となって燃え広がっている。

 飲み水さえ足りないのに、消火用に使う水などあるはずもないのだろう。


 飲み水を求める人達が、家を焼かれた人達が、街が泥水に覆われて暮らせなくなった人達が、長い列を作って北の湖へと避難していくのが見える。


 一方で、水路の復旧は遅々として進んでいない。グライダー部隊の妨害に加え、スライム状になって水をき止めているヌタ粉が柔らかいゼリーくらいの固さなので、穴を掘る事も細い水路を通す事もできずに全量を除去をするしかなく。とんでもなく手間がかかるのだ。


 おけやタライを使ってバケツリレーのように除去を試みているが、水を吸って小山のように盛り上がったスライムは容易に崩せないし、リレーの列はグライダーからの攻撃で頻繁ひんぱんに切断される。


 グライダーの音と姿に恐れをなして、あるいは近くで同僚が火だるまになるのを見て、逃亡する兵士も後を絶たないようだ。


 最初の日にはお城前の広場にすごい数の兵士が集められているのが見えたけど、今日の広場は閑散かんさんとしている。

 人間、食べ物は数日食べなくてもなんとかなるけど、水はそうはいかないのだ。渇きは飢えよりも速く、確実に人を消耗させていく。


 そして水路の復旧に当たっている兵士達も動きがにぶく、不安そうに頻繁に空を見上げているし、グライダーに着けた笛の音だけでも四方に逃げ散ってしまったりする。


 敵は明らかに窮地に陥っているが、こちらも食料は残り少なく、グライダー用の油壺も残弾が乏しくなってきた。


 そんな中、エイナさんがやってきてとんでもない事を口にする。


「洋一様。明日イドラ帝国の皇帝と会う事になったのですが、一緒に来て頂けませんか?」


「…………は?」


 あまりに衝撃的な言葉に、俺はたっぷり10秒は硬直したと思う。


「グライダーを使って通信を試みた所、会談を受け入れると合図を送ってきました。明日の朝出発して相手の居城きょじょうに出向きますので、身の安全のためにもぜひご一緒頂けたらと思うのですが」


「……身の安全、ですか?」


 敵の本拠に乗り込むのに身の安全? エイナさん働き過ぎでおかしくなってしまったのだろうか?

 一瞬そんな考えさえ頭をよぎってしまう。


「はい。敵騎兵隊主力の位置は現在も不明ですから、もし私の留守中に攻撃を受けて防衛線を突破されてしまうような事があったら、一番安全な場所になるかと思います。私は遠征軍の総指揮官ではなくただの使者として、十日熱の薬の共同発明者エイナ・パークレンとして出向きますので、いざという時には敵に取り入る事もたやすくなりましょう」


 エイナさん今さらっと、とんでもない事言ったな。


 だが、万一の場合の備えとしては理に適っているのも確かだ。

 十日熱の薬の製法を知っているとなれば、帝国もそれなりの待遇で迎えてくれるだろうし、コウセンチョウの糸で張った罠だけで敵騎兵隊の主力を防げるかは怪しい所でもある。


 エイナさんの見立てではまだ引き返してくるまでには時間があるとの事だが、あくまでも予測であって絶対ではない。

 エイナさんとしては、俺と一緒に行動するライナさんを一番安全と思える場所に置いておきたいのだろう。


「……わかりました、同行しましょう。それで、なにを話しに行くのですか?」


「降伏を決断させに行きます。ちなみに、このような内容を書いた紙を王城付近を中心に空中から撒きました」


 降伏を決断させにとはずいぶん直球だけど、現状でそこまで一気に話を持っていけるのだろうか?

 そう不安に思いながら、渡された紙に目を走らせる。


『ファロス王国軍東方遠征隊長が、イドラ帝国皇帝に。もしくは軍人官吏かんり諸君に告ぐ。我々は貴国に対し、降伏を許す用意がある。今降伏を受け入れるなら皇帝の助命じょめいを約束し、軍人や官吏も我々の配下となる事を条件に現職の維持を保証しよう。だがもし降伏を拒むなら、諸君の頭上には恐るべき死の雨が降り注ぐ事になる。明日詳細を伝える使者をつかわすので、受け入れる用意があるなら城の中庭に毛皮などを並べて円を描き、街の入り口まで迎えをよこせ。なお、話をする相手は皇帝に限らぬ。円の中心に皇帝の首を置けば、配下の者を皇帝の代行者として認めるものである』


 ……これ、かなりとんでもない事が書いてあるよね?

 思いっきり上から目線なのはともかく、間違いなくエイナさん起案だとわかる内容のえげつなさだ。


 特に最後の一文は酷い。こんなものをバラ撒かれたら皇帝はとても生きた心地がしないだろうし、部下に絶対の信頼がなければ使者を拒否する事なんてできないだろう。


 戦況が有利ならともかく、今イドラ帝国は危機的な状況なのだ。皇帝と心中するよりも、新しい主の下で今の地位を保とうと考える者がいてもなにも不思議はない。

 この短い文章で、はやくも君臣くんしん間に亀裂を生じさせているのだ。


 ホント、エイナさんって人の心を揺らす事にかけては右に出る人いないよね……。




 翌12月8日の朝。俺達は陣地を出発して帝都へと向かう。

 メンバーは俺とエイナさんの他、妹とライナさん。あとは護衛の兵士が3人だけだ。


 護衛の数が少なすぎると軍務大臣さんが騒いでいたが、エイナさんに

『敵の本拠地に乗り込むのです。向こうが我々を殺すか捕らえるかしようとしたら、護衛の数など3人でも1000人でも変わらないでしょう』

 と言われて二の句が継げなくなり、この人数に決まった。


 ちなみにエイナさん的には、護衛の数が少ない方が自分が重要人物ではないただの使者だと思わせられるし、向こうに取り入る事態になってしまった時もやりやすいという思惑であるらしい。


 そんな訳で、俺達7人は泥水があふれて沼地のようになっている場所をいかだのようなもので越え、街の入り口で迎えの帝国兵と合流して皇帝の居城へと向かう。


 お城の周囲はひときわ立派な街並みだが、住民は水を求めてか俺達の攻撃を恐れてかどこかへ行ってしまったらしく、ひっそりと静まり返って不気味な雰囲気だった。



 お城に到着したのはお昼頃で、俺達はすぐに謁見えっけんの間へと通される。


 謁見の間なんて以前にファロス大公の居城で入って以来だが、あそこと比較しても格段に大きくて豪華な部屋だった。

 槍を持ってよろいに身を固めた兵士がずらりと並び、奥には多分将軍クラスの軍人や、大臣クラスであろう男達が並んでいる。

 軍人の中には女の人もいた。


 そして正面の高い場所で豪奢ごうしゃ椅子いすに座っている白髪はくはつの男性が、おそらくイドラ帝国の皇帝だろう。


 本物かどうか一応鑑定をかけてみたら


 メクテス・オラント・イドラ7世 人間 65歳 スキル:謀略Lv4 政治学Lv4 カリスマLv3 礼儀作法Lv3 乗馬Lv2 状態:警戒 地位:イドラ帝国皇帝


 と出た。

 影武者とかではなく本物らしい。しかもかなりの高スペックだ。


 ――皇帝の前へと進む俺達に向けられるのは、周囲からの強い敵意の視線。そして使者が若い娘である事をいぶかしむ空気と、あなどりの笑み。

 すごく居心地が悪くて今すぐ帰りたくなってくるが、なんとか耐えてエイナさんの後に続いて進む。


 エイナさんは適当な場所まで進むと、軽く頭を下げて声を発した。


「私はファロス王国軍から派遣された使者で、エイナ・パークレンと申します。我が国では貴族制度を廃止しましたので、爵位などは持ち合わせておりません」


 その言葉に、一際ひときわ派手はでな鎧を着て皇帝に近いところに立っている軍人が、顔を赤くして大声を出す。


「皇帝陛下の御前ごぜんで無礼であろう! ひざまずいて頭を下げよ!」


 威圧的な声に思わずひざを折ってしまいそうになったが、エイナさんが平然と立っているのに気づいて踏みとどまる。


「私はわが国のやり方で振舞うようにと命じられておりますので、その要望にはお応えできません」


 多分そんな事命じられていないし、そもそも遠征軍でエイナさんに命令できる立場の人なんていないから、これはブラフなのだろう。駆け引きはもうはじまっているのだ。


 派手鎧の軍人さんがまたなにか叫びかけたのを、皇帝自身が静止する。


「よい。エイナ・パークレンと申したか。余がイドラ帝国皇帝、メクテス・オラント・イドラ7世である」


 低く、威厳いげんに満ちた重い声。

 声だけで人を従わせるような威圧感があるが、エイナさんは物怖ものおじする事もなく言葉を返す。


「早速ですが、こちらの意向をお伝えいたします。降伏の条件として皇帝は退位し、近親者と共にファロス王国へ移って頂きます。そこで旧伯爵領ほどの私有地を与えられ、以後はそこで暮らして頂く事になります。他の軍人や官吏かんりの方々は汚職や不正が確認されない限り、ファロス王国の臣下となる事を条件に現職を保証いたします」


 エイナさんの言葉に、謁見の間にざわめきが広がる。


 いち早く声を発したのは、皇帝のかたわらにいた男の人。多分宰相かなにかだろう。


「その物言いはあまりに一方的に過ぎるのではありませんか? とても交渉の場で発せられるものとは思えません。まるで脅迫きょうはくではありませんか」


「お感じの通り、これは交渉ではありません。そもそも私は意向を伝えるよう命じられただけで、交渉の権限など与えられておりません。おどしと取られるのならその通りでしょう」


 その言葉に表情をゆがめる宰相(多分)。

 そして我慢の限界を迎えたように、派手鎧の軍人さんが再び大声を出す。


 エイナさんと皇帝との会見は佳境に突入しつつあった……。




大陸暦423年12月8日

現時点での大陸統一進捗度 4.0%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領大森林地帯・ファロス王国に密かな影響力)


解放されたエルフの総数 44万8377人 ※情報途絶中

内訳 鉱山に30万6251人(森に避難していた人達帰還) 大森林のエルフの村1112ヶ所に13万2318人 リステラ商会で保護中の沼エルフ9808人(内一人は鉱山に滞在して山エルフと情報交換中)


旧マーカム王国回復割合 95% ※情報途絶中


資産 所持金 605億4709万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

前話の誤字報告を下さった方、ありがとうございました。

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