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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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148 分進合撃(ぶんしんごうげき)

 イドラ帝国軍侵攻作戦の軍議で、エイナさんが改まった調子で言葉を発する。


「国境の砦攻略後に改めて決めるとしていた帝都への進軍方法ですが、軍を10個に分割し、それぞれ独立して帝都を目指す方法を提案します」


 その言葉に、居並ぶ将軍や部隊長達の顔色が驚きに染まった。


「――し、失礼を承知で申し上げますが、兵力を分散するのは軍学上愚行であるとされています。ただでさえ我々は兵力に劣るのに、敵地でそれをさらに分散してしまっては各個撃破かっこげきはしてくれと言わんばかりではありませんか!」


 軍務大臣でもある遠征軍隊長さんの言葉。他の軍人さん達もみんな同じ意見らしく、うなづいたりエイナさんに批判的な視線を向けていたりする。


 だがエイナさんは動じる様子もなく、淡々と言葉をつむぐ。歴戦の老将のような落ち着きだ。


「進軍に当たっての一番の問題点は、帝都に通じる道が一本しかない事でしたね? 一本の道を馬車をつらね、歩兵が列を作って進軍した場合、長く延びた隊列の一点を騎兵に急襲されたら、前後の部隊からの救援が間に合わないと」


「はい……ですがそれをさせないように荒地でも進める騎兵隊が周囲を警戒するのですし、仮に襲われても各個に包囲されて殲滅されるよりはマシです。上手くいけば敵を逆包囲する事ができるかもしれません」


「機動力を誇る騎兵相手に逆包囲など無理でしょう。先の戦いでは、事前の準備が十分にあったからこそ騎兵を包囲殲滅できたのです。警戒の騎兵を立てた所で、襲ってくるまでのわずかな時間では十分な準備を整える事などできません。そもそも我々の兵力2万に対して敵の騎兵は最大3万なのですから、長く延びた隊列に側面から総攻撃を受けたら、多少の備えがあっても押し切られてしまうでしょう。

 それに、3000しかいない我々の騎兵では後方の補給隊まで警戒を張り付ける事はできませんし、攻撃に対して警備に当たる兵士も足りません。本隊にしても、夜襲に備えてはやめに行軍を止め、ある程度の数でまとまって簡易の陣を作って……と繰り返していては、帝都に着くまで何日かかるのか見当もつきません。時間は敵に利しますし、のろのろとした行軍は敵に襲撃の機会を多く与え、我々の消耗を強いるばかりです」


「それはそうですが……しかしそれは部隊を分割しても解決する問題ではないのでは?」


「それを解決できるように部隊を再編するのです。具体的には、後方での輸送に使う予定だった元イドラ帝国騎兵の捕虜1万人と馬2万頭を一線部隊に組み込みます。食料と物資も馬に搭載し、歩兵も馬に乗せて、補給なしで一息に帝都まで駆け抜けられる編成にします。補給隊をなくしてしまえば補給隊を襲われる心配はありませんし、全て騎乗した部隊であれば、行軍速度も飛躍的な向上が見込めます」


 エイナさんの言葉に、場がシンと水を打ったように静まり返る。


「……いや、それは無茶です! そのような編成替えすぐには実行できませんし、イドラ帝国兵が寝返ったり逃亡するリスクもあります! 第一、本当に実現可能かどうかさえ……」


「編成についてはすでに済ませてあります。部隊に番号を振ってありますから、今から配る紙の通りに各指揮官は配下の部隊を掌握しょうあくしてください。イドラ帝国兵については捕虜2万3000人の中から私が選んだ1万人であり、奴隷の首輪もつけてあります。イドラ帝国が滅びるという話を受け入れた者、任務の後は解放するという条件に興味を示した者達を選びました。実現の可能性についてはすでにイドラ帝国兵から話を聞き、馬に搭載可能な物資の量と帝都までの日数から、兵士の数まで計算してあります」


 俺の所にも回ってきた紙に、いろいろな情報が書いてある。


 帝都までの進軍は30日を予定。食料35日分と水3日分の他、各種物資や武器、歩兵も積む。一隊宛元イドラ帝国兵1000人に馬2000頭。歩兵800人に、ファロス王国軍の騎兵100人をつける編成。


 元イドラ帝国騎兵一人には、乗る馬一頭と手綱を引く馬一頭の計二頭を扱わせる。乗る馬には騎手の他に歩兵一人か一人分の重さの物資を積み。引く馬には歩兵一人と半人分の重さの物資か、一人半分の重さの物資を積む。


 道中食料を消費して荷物が減れば空いた馬も食料とし、必要なくなった元イドラ帝国兵には首輪のネジを渡して、適時適当な場所で解放する事でさらに食料の消費を減らす。


 気球だけは大型馬車がないと運べないので、気球とグライダーは馬車を伴った部隊で道を進む。積む荷物を軽くするのと、予備の馬を用意して交代で引かせる事で、他の部隊と同じく30日での帝都到着を目指す。

 そしてこの部隊は、ファロス王国軍の騎兵2000で守る。


 まとめると、元イドラ帝国兵1000人に馬2000頭。歩兵800人に騎兵100騎の部隊が9部隊で、合計歩兵7200人と騎兵900騎。

 馬車を伴う部隊が、元イドラ帝国兵1000人に馬2000頭。気球とグライダーを積んだ大型馬車20台に、その他物資を軽めに積んだ馬車20台。歩兵800と護衛の騎兵が2000。

 残りの騎兵100には伝令を任せ、総数が歩兵8000に騎兵3000だ。

 騎兵は全力だが、歩兵はここに集まっている1万7000の半分以下である。


 当然、将軍や部隊長の皆さんは渋い顔だ。


「たしかにこれなら速度は出せるでしょうが、敵の襲撃はどうするのです? もしや10隊のうち半数が無事に着けばいいというお考えか?」


「仮に無事に着いたとして、30万の守備兵が見込まれる帝都を1万と少しの兵力でどう攻めるのです? 包囲の維持さえままなりませんぞ」


「これでは敵騎兵の問題が片付いておりません。道中で襲われなくても、帝都の郊外で守備兵と挟み撃ちにされたらどうにもなりませんよ」


「やはり国境を越えてとりでを占領し、そこに陣取って奪還にやってくる敵軍を迎え撃つ作戦の方が良いのでは?」


 次々に上がる反対の声。


 大きな部隊をいくつかに分けて進撃させ、目的地の近くで合流させるやり方は分進合撃ぶんしんごうげきと言って、ナポレオンの伝記で読んだ記憶がある。進撃の速度が速くなるが、各個撃破されてしまうリスクも高まる戦法だと書かれていた気がするけど……。


 そんな事を考えているうちに、エイナさんの反論がはじまった。


「まず、国境を越えた所で敵を迎え撃つのは不可能です。イドラ帝国にしてみれば、国境の小とりでを落とされたところで痛くもかゆくもないでしょう。慌てて奪還にくる必要などなく、二年でも三年でも放置しておいて、戦力を再建したのちに我々の国もろとも飲み込めばいいだけの事です。ですから我々は、あくまでも敵国深く侵攻して帝都を陥落させる必要があります。

 そして、ただでさえ少ない兵力を捨て駒に使うつもりもありません。この点は敵の立場に立って考えてみて頂きたいのですが、先の戦いで送り出した精鋭の騎兵3万と歩兵5万を一日で討ち破られ、今また数十万の守備兵がいる帝都に逆侵攻をかけてこようとする軍隊が、1万や2万の数だと思うでしょうか? 少なくとも20万以上。30万や40万の兵力を見積もっていてもおかしくないはずです」


 エイナさんは居並ぶ将軍や部隊長達を見回しながら話を続ける。なんか凄い威圧感があるな。明らかに国王の器だと思う。


「イドラ帝国にはすでに、我々がサイダル王国と結んだという偽情報を流しています。信じるかどうかは向こう次第ですが、大兵力が向かってきているという幻は信憑性しんぴょうせいを増すでしょう。そして、20万もの大軍となれば当然動きは鈍い。戦いに備える時間は十分にあると考えるでしょう。我々はその隙を突き、敵が想定していない速度で帝都に迫ります」


「……しかし、敵も当然偵察隊は出してくるはず。いくら高速でも見つからずに進むなど不可能ですよ」


「そうでしょうね。では、20万以上の大軍が予想される敵に対し、想定位置よりはるか前方で2000の騎馬部隊を発見したらどう考えますか?」


「それは……先行偵察部隊としては大規模すぎますし、なんらかの意図を持った別働隊だと判断するかと」


「はい。ではその対処は?」


「……5000程度の騎兵を出して殲滅せんめつしてもいいですが、移動する騎馬部隊は捕捉が困難です。騎兵隊には敵の本隊か後方の補給隊を奇襲するという任務がありますから、いたずらに戦力をいて拘束されるような真似まねはしないでしょうね。2000程度なら兵力的に大した脅威ではありませんから、歩兵に拠点の守りを固めるよう伝え、せいぜい少数の監視をつけるくらいかと……」


 エイナさんが話している相手は軍務大臣であり、50歳くらいに見えるベテランの軍人だ。なのに、エイナさんが教師で軍務大臣さんが生徒みたいに見える。


「軍務大臣殿の見立てに異論のある方はいらっしゃいますか?」


 エイナさんの言葉に、手を上げる人は一人もいない。

 この軍隊はほぼ昔の大公軍のままであり、大公の人柄を反映してか上位者相手にも自由に意見を言う風潮があるので、異論が出ないのは上司への遠慮えんりょなどではなく、本当に同意をしているからだろう。


 それを確認し、エイナさんが話を続ける。


「いま軍務大臣殿がおっしゃった通りであるのなら、敵が2000の部隊に攻撃をかけてくる可能性は極めて低いと思われます。別働隊は無視して本隊か補給部隊を探そうとし、それへの攻撃に備えて騎兵隊を温存するでしょう。それが伝統的なイドラ帝国の戦い方です。ですが我々には、敵が捜し求める本隊も補給隊も存在しません」


「……し、しかし、いつまでも目標を発見できなければ小部隊に襲い掛かってくる可能性もあるのでは?」


「敵にしてみれば、最終的には我々を帝都の郊外まで引き込んで歩兵と騎兵で挟み撃ちにする戦術でもいいのです。そうあせって襲ってはこないでしょうし、なにより敵の想定する本隊。20万からの歩兵部隊の位置を推定すれば、その場所は騎乗して進む我々よりずっと後方になるはずです。幻の敵を探してそこに向かえば、我々を攻撃しようと考えを変えてもすぐに追いついてくる事はできません」


「……つまり、分散した部隊で敵騎兵隊の警戒網をかいくぐり、すり抜けて帝都に迫ろうという事ですか?」


「平たく言えばそうなりますね」


 エイナさんの答えに、軍務大臣さんは、難しい表情でしばらく考え込む……。


「……作戦としては成功する確率が高いと思います、だが確実ではない。もとより作戦に絶対を望む事など不可能ですが、それでも許容できる危険とできない危険があります。一歩間違えば我々は全滅してしまう。そしてその可能性は高くこそないものの、無視できるほど低くもない。私としては、全軍の命運を預けるにはいささか不安が残ると言わざるを得ません」


「おっしゃる通りです。ですから私も、先日までこの作戦を採用するかどうか迷っていました。決断させてくれたのはこれの存在です」


 そう言ってエイナさんが持って来させたのは、鮮やかな赤色で塗られた三角形の物体……俺が提供したたこだった。


 それを怪訝けげんな表情で見つめる、将軍達と俺。

 いや、なんでここで凧が出てくるのか。わりと本気でわからない。


 エイナさんは困惑する一同を前に、さっきまでとは違って少し楽しそうに話をはじめるのだった……。




大陸暦423年11月2日

現時点での大陸統一進捗度 4.0%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領大森林地帯・ファロス王国に密かな影響力)


解放されたエルフの総数 44万8377人

内訳 鉱山に29万9077人(25万人は森に避難中) 大森林のエルフの村1112ヶ所に13万2318人 鉱山に移送中の山エルフ7174人 リステラ商会で保護中の沼エルフ9808人(内一人は鉱山に滞在して山エルフと情報交換中)


旧マーカム王国回復割合 95%(南東部の一部を残すのみ)


資産 所持金 605億4709万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

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