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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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147 イドラ帝国侵攻作戦

 月が変わって11月の1日。イドラ帝国への侵攻予定を2日後に控えて、俺達は国境付近のファロス王国軍本陣にいた。


 遠征軍の隊長は、元ファロス大公軍の第一軍団長だった現ファロス王国の軍務大臣。

 そして国王代理の総指揮官として、エイナ・パークレン財務大臣だ。


 総指揮官が財務大臣とか違和感しかないが、みんな王国の解放戦争を共に戦ったメンバーだけに、だれも異論を唱える人はいない。


 遠征軍の兵力は歩兵と騎兵を合わせて二万人ほど。

 国内の治安維持と警備、わずかに残っているイドラ帝国軍の残党対策にも兵力をかなければいけなかったが、王国北西部でネグロステ伯爵家がイドラ帝国軍に抵抗を続けて健在だったので、その兵力を吸収して国内任務に当たってもらう事により、旧大公軍の主力をほぼ全て動員できている。


 ネグロステ伯爵家は旧マーカム王国軍がサイダル王国軍に大敗した戦いで当主が戦死し、軍の主力も失って子供達だけで領地を守っていたそうだ。だが戦いは苦しく、領都にこもって抵抗を続けるだけで精一杯だったらしい。


 以前に三女さんを治療しに行った時に会った家令さんやデンジャラスメイドさん。長女さん辺りを思い出せば簡単には負けはしなかったと思うが、それでもかなり厳しい状況だったらしい。

 領都に立てこもるのもあと数ヶ月で限界という状況だったそうだ。


 なのでエイナさんが交渉の結果、旧伯爵領の半分を私有地として認める条件で貴族制度の廃止に同意してくれ、生き残っていた長男がファロス王国の北方軍団長となる事で、北部と西部の治安維持を任せる事ができたらしい。


 多少なりともあの家の家風を知っている俺としては、よく貴族制度の廃止に応じたなと思ったが、エイナさんによると『事実上領地と領民を守れなかったのに、どのつら下げて再び領主だなどと言えましょうか』と、むしろ協力的だったそうだ。


 この国の貴族としては本当に珍しいタイプだが、俺としてはとても好感が持てる。

 もし機会があったらまた会ってみたいものだ。三女さんかわいかったしね。

 長女さんは怖かったけど……。


 しばらく昔の思い出に浸っていたが、今は目の前に迫った戦争の事である。


 俺は遠征軍総指揮官として忙しそうにしているエイナさんを、こっそり呼び出した……。



「エイナさん、王都で頼まれていた進軍中に地平線の向こうに隠れた別働隊の位置を把握できて、できれば簡単な連絡もとれる手段ですが、これでどうでしょう?」


 そう言って渡したのは、鉱山で作ってもらったたこである。四角いやつではなく、小型のグライダーのような形をしたゲイラカイトというやつだ。小学生の時に買ってもらって遊んだ記憶から引っ張り出してきた。


「これは……小型のグライダーですか?」


「大体その理解で合ってますけど、これは地上からでも上昇させる事ができるんです」


 この手の話は実演が手っ取り早いので、妹に凧を持ってもらって糸を伸ばし、離してもらうと同時に全力で走る。


 風はほとんど吹いていなかったが、なんとか上昇して安定したので、足を止めてエイナさんの元へ戻り、糸を渡す。


「こんな感じで上昇するんです。強風にはちょっと弱いですが、熱気球と違って基本ずっと浮かべていられますし、グライダーと違って地上からでもすぐに上昇できます。多少引っ張ったほうがいいので移動中はむしろ好都合ですし、この糸に色のついた布でも結んで上げれば、その組み合わせで簡単な連絡ならできると思うんです。どうでしょうか?」


 凧の材料は気球やグライダーと基本同じで、糸はレナさんに頼んで丈夫な物を用意してもらった。

 以前に聞いたコウセンチョウという鳥の羽から作った糸で、試してみたらすごく丈夫だったので、かなり高く上げても糸が切れる心配はないと思う。


 凧は目立つようにと赤く塗ってもらったのでかなり毒々しい雰囲気だが、大きさもかなりあるし、これならかなり遠くからでも見えるはずだ。


 この世界は地球より小さいらしく、10キロメートルも離れたらお互いの姿どころか旗を立てても見えなくなってしまうが、さすがに100メートル200メートルと上げれば、かなり遠くからでも視認(しにん)できるだろう。

 電線とかないから、凧を揚げたまま走っても問題もないしね。


 ちなみに連絡手段としての色のついた布は、旗旒きりゅう信号をヒントにした……というかほぼそのままパクっている。

 昔、海上で船同士の連絡をとるのにマストに掲げる旗の組み合わせを使っていたというのを冒険小説で読んだ記憶があったので、拝借させてもらった。



 ……エイナさんは一旦降ろした凧を自分でもう一度上げてみたり、糸の強度を調べたりしているが、夢中になっているのを見るとかなり気に入ってくれたようだ。


 しばらくして例のごとく質問攻めにあい、できる限り答えた結果無事に正式採用となったらしく、鉱山で作ってもらった40個全部を引き渡した。


 エイナさんは『ありがとうございます。これで計画していた作戦を実行する決断がつきました』と言ってご機嫌だった。

 ちなみに俺がこの凧をなにに使うのか知ったのは、翌日の軍議の席上での事である……。




 翌11月2日。明日に迫ったイドラ帝国侵攻作戦を前に、緊急の軍議が開かれた。


 居並ぶのは遠征軍総指揮官のエイナさんをはじめ、隊長以下将軍や部隊長などが30人ほどである。なぜかリステラさんの姿もあった。今回も輸送と後方任務を手伝うらしい、商売の方は大丈夫なのだろうか?


 俺は隅っこの方で大人しく成り行きを見守る事にし、事前にエイナさんから渡された、現状を解説した資料を読み直す。


 こちらの兵力は、主力が歩兵1万7000に騎兵が3000の計2万人。

 気球が大型小型各20に、グライダーが120機。

 他に志願兵からなる後方部隊が1万に、先の戦争で降伏したイドラ帝国騎兵2万3000と馬2万1000頭の中から、兵士1万人と馬2万頭を後方輸送に使用可能。


 確認されている敵兵力は、国境の川を越えた所にあるとりでに歩兵が2000。もっともこれは防衛用の砦ではなく、こちらに攻め込む時用の拠点であって物資集積所の要素が強く、攻略は難しくない。


 だがその先は、イドラ帝国の帝都まで馬車で順調に走って40日ほど。前の戦争でのファロス大公領から王都までよりも長い距離があり、その大半は草原と荒野で、食料はおろか水の調達にさえ不自由をきたす不毛の大地が広がっている。


 帝都には緊急に集めた兵士を含めて歩兵30万の守備隊が予想され、他に2万から3万の騎兵隊が存在見込み……。


 以前エイナさんに教わった知識によると、イドラ帝国は大陸中央部に広大な領地を有する国だが、その多くは農耕に不向きな土地であり、遊牧が主な産業。その優れた乗馬技術によって周辺国を度々(たびたび)侵略し、略奪を繰り返す国だという話だった。


 そんな国なので歴史上逆に攻められる事も数多かったが、ほぼ唯一農耕に適した土地が広がる帝都周辺に人口の多くが集中していて、その帝都は全ての国境から馬車で40日以上の距離がある。

 それを利用して人口密度の希薄な広大な国土の奥深くまで敵軍を引き込み、敵の動きがにぶった所を機動力のある騎兵隊で急襲するという作戦でほとんどの侵攻軍を撃退してきたし、仮に帝都まで辿り着かれても、一転してそこは大陸有数の大都市だ。多くの人口から膨大な数の予備兵を動員でき、長距離の進軍で消耗し尽くした侵攻軍は、なすすべもなく殲滅(せんめつ)されてしまう。


 そうして、今まで全ての侵攻を跳ねけてきたらしい。

 聞くだけで厄介な相手だ。


 いつ襲ってくるかも分からない騎兵隊に脅えながら荒野を延々と進むなんて、考えただけでもゾッとするし、本国からの補給も難しいだろう。

 距離があるし、なにより輸送隊が騎兵に襲われたらどうしようもない。

 兵力で負けているのはもちろん、地勢ちせい的にもこちらが不利だ。


 ……大丈夫かこれ?

 本当に勝てるのだろうか?


 とはいえ、心配しても俺にどうこうできる話ではない。

 エイナさんから求められた知識には答えを返したのだから、後はエイナさんを信頼して任せるだけだ。

 俺は、俺の仕事の事を考える。


 俺の仕事。それは旧マーカム王国の三倍以上の面積を誇るイドラ帝国から、マーカム王国以上の数がいると予想されるエルフさん達を救出する事。

 一度には無理だろうから段階を踏んで。それでもなるべく迅速にだ。


 ……方法をあれこれ考えていると、エイナさんはいつもの淡々とした調子で続けていた話を一旦止め、ぐるりと一同を見渡して言葉を発した。




大陸暦423年11月2日

現時点での大陸統一進捗度 4.0%(パークレン鉱山所有・旧マーカム王国領大森林地帯・ファロス王国に密かな影響力)


解放されたエルフの総数 44万8377人

内訳 鉱山に29万9077人(25万人は森に避難中) 大森林のエルフの村1112ヶ所に13万2318人 鉱山に移送中の山エルフ7174人 リステラ商会で保護中の沼エルフ9808人(内一人は鉱山に滞在して山エルフと情報交換中)


旧マーカム王国回復割合 95%(南東部の一部を残すのみ)


資産 所持金 605億4709万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

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