表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/323

138 反撃の狼煙(のろし)

 軍議はおおむねエイナさんの独壇場で終わり、開戦に向けての準備は最後の仕上げにかかっている。


 エイナさんは嫌がるファロス大公を説得し、解放軍の盟主に祭り上げる事に成功したらしい。


 侵略者に対して抵抗の軍を起こすという檄文げきぶんは、大公の名前で書かれて各地に送られたが、戦いに勝った暁には統治のための王家だけを残して、貴族制度はすべて廃止される計画らしい。


 大公家の他、戦いに協力した従属領主達には功績に応じて追加の領地を加え、その上でその領地をそのまま私有地とする形にして、貴族としての特権と肩書きは廃止にする。

 領軍はそのまま国軍に改変する計画だそうだ。


 大公は二年間国王をやったら、後は自由にしていいとエイナさんと約束したらしい。

 懲役みたいだな……。


 その計画は軍議の翌日に発表され、難色を示す領主達もいたようだが、貴族制度を嫌うエイナさんとリステラさん、自由に研究だけしていたい大公の利害が一致しての事だけに、同意せざるを得なかったようだ。


 爵位はなくなるとはいえ、広大な私有地が与えられて軍務などの負担もなくなるのだ。経済的には今よりずっと豊かになるし、資産家の名士として家名も存続できる。

 その気になれば私有地内では貴族然として振舞う事もできるだろうから、領主達にとっても悪い話ばかりでもないと思う。


 ただ、どうしても貴族としての肩書きにこだわりを捨てきれない人がいたようで、反発して大公を裏切り、サイダル王国と通じて作戦の情報を流そうとした人もいた。

 この五日の間に三人が摘発されて、裏切り者として処刑されたそうだ。


 だがそれで全員かどうかはわからないし、俺としては戦いの前の大事な時期に貴族制度廃止計画を公表するのはリスクが高いと思ったのだが、エイナさんいわく『たとえ情報を流されても、空を飛ぶ兵器など実際に見なければ誰も信じませんよ』との事だった。


 しかも発表した時の表情の変化で、エイナさんは不満を抱いている領主を何人か把握しているらしい。

 もし敵が謀略を仕掛けてくるなら当然不満を持っている領主達に接触するだろうから、監視する対象が絞られてむしろ助かるのだそうだ。


 ホントに恐ろしいわこの子……。




 そんなこんなで、軍議から10日後の8月29日。ファロス大公軍は出陣の準備を整えてトレッドを出発し、王都を目指す。

 五日後の9月4日。大公軍とサイダル王国分遣隊とが、旧大公領の境界付近で対峙した……。



「……おお、見える見える。敵の配置から動きまで丸見えじゃのう」


 楽しそうに響く大公の声。

 俺達は今、地上とロープで繋がれた偵察用の熱気球に乗って、500メートルくらいの高さに浮かんでいる。


「敵はだいぶ混乱しているようですな」


 太くて渋い声は、大公軍の参謀長さん。ゴンドラには他に、エイナさんと俺、妹とライナさんの計六人が乗っている。

 ……ていうか俺、こんな所にいていいのだろうか?


 エイナさんの部下という事で大公は気にしていないようだが、大公の方は護衛もいないのに……。


 まぁ、暗殺をするとしたらそれは権力のためな訳で、むしろむりやり王座を押し付けてきたエイナさんは、大公にとっては逆に最大の信頼を置ける相手なのかもしれない。

 せっかくの特等席なので、今はゆっくりと戦いを見学させてもらおう……。



「――よし、グライダー部隊を出撃させよ!」


 大公の声に、参謀長さんが命令を書いた紙を重りの石と一緒に袋に入れて投げ落とし、下でそれを拾った兵士が将軍の元へ走っていく、地上の司令部から、すぐに細い煙が立ち昇りはじめた。


 狼煙のろしと言われる、元の世界でも古い時代に使われていた通信手段である。

 煙がわずかにこちら側に流れているのを見るに、弱い向かい風らしい。

 風が強いとグライダーを積んだ状態で上昇するのが難しいので、状態としてはとてもいい。


 狼煙を見て、周囲に浮かんだ大型気球からは次々とグライダーが発進していく。

 気球のゴンドラには改造を加えて、グライダー発進用の短いスロープを取り付けてあるのだが、なにもない時に見ると先のない滑り台みたいでちょっと怖かった。

 だが今は、そこから次々とグライダーが大空へと飛び立っていく。


 熱気球という巨大な浮遊物体を見て、すでに恐怖で浮き足立っていたサイダル王国軍の兵士達は、そこから無数の飛行物体が飛び出してきて、恐ろしい音を立てながら自分達に向かってきた時。多くが腰を抜かして地面にへたり込んだ。


『魔獣だ!』『噂は本当だったんだ!』というような悲鳴が、気球の上までかすかに聞こえてくる。


 そして空から火の玉が落ちてきて、何人かが炎に包まれて地獄のような悲鳴を上げながら転げまわるのを見た時に、ついに恐怖が限界を超えたらしい。

 本来は兵士達を押し留めるべき部隊長までが、武器を捨てて我先にと逃走をはじめていた。


 人ばかりではなく、わずかにいる馬も音の恐怖に冷静さを失い、乗っている人間を振り落としてあらぬ方向へ駆け出していく。

 悲鳴や叫び声が混じって地鳴りのように響き、上空にいる俺達の所まで聞こえてくる。



「……予想以上の効果じゃのう」


 大公の声は、半ば呆然としている。

 地上では2万人の敵兵が恐慌きょうこう状態におちいって、我先にと王都の方向へ逃げだしていた。

 その光景は元の世界のテレビで観た、アフリカのサバンナを行くヌーの大移動を思い起こさせる。


「……よし、追撃に移るぞ。気球を降ろさせよ」


 大公の命令を参謀長さんが下に伝えると、地上の兵士達が敵を追って動き出し、気球はロープを引かれて徐々に高度を下げはじめる。


「緒戦は上々ですね」


 エイナさんがポツリと口にした通り、計画されていた後方の食料庫や地上軍による攻撃を行うまでもなく。わずか数時間で戦いはこちらの完全勝利となっていた。


 地上には見渡す限り、所々炎が燃えている平原に、逃げる兵士達が捨てていった剣や槍、弓矢やかぶとなどが無数に散らばっている。


 それらが太陽の光を反射し、まるで夜空の星のように、キラキラと輝いて見えるのだった……。




大陸暦423年9月4日

現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ31万2127人→25万人を森に避難中)(パークレン子爵領・エルフの村967ヶ所・住民13万2318人)

※鉱山とパークレン子爵領(大森林)の状況は不明なので、当面更新なし


旧マーカム王国回復割合 10%(南西部・ファロス大公領とその周辺貴族領+サイダル王国分遣隊撃破)


資産 所持金 615億4841万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ