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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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137 軍議

 ライナさんとの事は結局棚上げにしたまま、俺はエイナさんと一緒にあちらこちらと、戦いの準備を見て周る。


 グライダー部隊は精兵を集めて猛訓練をやっているらしく、すでにかなり自在に飛ぶ事ができていて、事故や着陸時のケガもかなり減ってきているらしい。


 それでもまだかなりの危険を伴う事には変わりなく、大公が自分も飛びたいと言うのを押さえ込むのに苦労しているそうだ。


 大公は間近に迫った戦いの総指揮官なんだから、なにかあったら大変だもんね。

 押さえ込む役をやらされているエイナさんは結構苦労しているようだが、がんばって欲しいと思う。


 あちこちを周りながら時々エイナさんに意見を求められ、可能な限りのアドバイスと知識を提供する。

 実際に戦いが始まったら俺にできる事はほとんどないので、今が働き所なのだ。


 大公に目をつけられないように、全てエイナさん経由で情報を出すので、こういう機会はとても貴重だ。

 大公は今、近隣の従属領主達との会議に出席しているらしい。


 各地から届く情報によると、旧マーカム王国はイドラ帝国とサイダル王国に二分割され、それぞれ統治が進められているとの事。

 妹には聞かせられないような酷い話も聞こえてきている。


 一方で、イドラ帝国軍とサイダル王国軍はにらみ合ったままで、互いに争わせて戦力を消耗させるという作戦は上手くいっていないらしい。

 いくらエイナさんでも、なんでも思い通りにはいかないという事だろうか。




 そんなこんなで時は過ぎ、8月も半ばを過ぎた19日。大規模な軍議ぐんぎが開かれるとの事で、俺達もエイナさんのお供として同席する事になった。


 舞踏会でもやるような巨大な部屋に大きなテーブルが置かれ、何枚もの地図が広げられている。


 正面に大公とエイナさんが並んで座り、テーブルにはズラリと、大公に従属する近隣領主達、大公軍の将軍や参謀達、官僚達が並ぶ。

 そしてその外側をさらに囲むように沢山の椅子が並べられ、それぞれの副官や部下達がギッシリと並んでいる。


 俺達の場所はエイナさんのすぐ後ろ、かなりの好位置だ。

 右隣は妹とライナさん。後ろはリステラさんと見知ったメンバーだが、左隣にいるのは大公領の財務部副部長さんらしい。なんか緊張する。


 ピンと張り詰めた空気の中、大公が立ち上がって集まっている皆にねぎらいの言葉を発した後、軍議の開始を告げた。


 ……まずは大公軍の参謀長だという人が、地図の上にコインを置きながら敵情を説明する。

 おおむね今までに聞いている情報通りだが、新しい情報としてはイドラ帝国の騎兵隊が西部の平定を進め、そのまま南西部に向かって、大公領に迫りつつあるのだそうだ。


 大まかに現状の確認が済んだ所で、大公の合図を受けてエイナさんがスッと立ち上がる。


「大公閣下より、特別相談役兼今次戦争における主任参謀を任されております、エイナ・パークレン元子爵です」


 エイナさんの言葉に、領主達を中心にざわめきが起こる。

 一つはまだ若いエイナさんの肩書きに。一つは有名人であるエイナさんの名前に。そしてなにより、『元』子爵だと自己紹介した事にだろう。


 マーカム王国はこの世界から消え去り、王国から与えられた爵位も無実むじつの物になってしまった事を、はっきりと口にしたのだ。

 ファロス『大公』と呼んでいるのも、今や便宜的なものに過ぎない。

 従属領主達にも子爵や男爵の肩書き持ちは多いらしいので、彼らの動揺は大きいだろう。


 だがエイナさんは、更なる爆弾を投げ込んでいく。


「これより今後の作戦計画を説明させて頂きます。我々は戦備が整い次第なるべく早く、およそ10日後を目安にここトレッドを出撃し、サイダル王国の分遣隊二万、本隊八万、旧王都に篭るイドラ帝国軍五万に対し、順次正面決戦を挑みます」


 一瞬会場全体がシンとした後、次の瞬間には領主達から嵐のような異論が噴出した。


「馬鹿な、我々はせいぜい三万。サイダル王国の分遣隊二万はともかく、本隊や王都に篭るイドラ帝国軍相手に正面から戦って勝てるはずがないではないか!」


「兵力に勝る相手と正面決戦など、正気の沙汰ではない! 兵法の常識で言えば、サイダル王国軍に対して最小限の兵力を残し、主力をもって王国の西方。我々から見て北方から来るイドラ帝国の騎兵隊を討ち。分散している敵騎兵を各個に撃破しつつ北方から大きく迂回して、各地の兵を糾合きゅうごうして兵力差を埋めるべきであろう!」


「そうだ! 王都へ攻め上って、その隙に留守にしている領地をイドラ帝国の騎兵隊に襲われたらなんとする!」


「10日後など、いくらなんでも早すぎる! まずは防衛に徹しつつ、イドラ帝国とサイダル王国の軍を互いに争わせて戦力をぐようにするべきだ!」


 戦略的な異論から、無策な正面決戦を批判する言葉。果ては若いエイナさんの資質を疑う言葉や侮辱の言葉まで混じって、騒然となる。


 だがエイナさんは表情一つ変える事なくそれらを受け止め。反論が一段落したとみるや、全く変わらない調子で言葉を発する。


「従来の兵法論は、一旦全て捨てて頂きたい。皆様にもすでにごらん頂いているはずですが、我々がこれから行なうのは新しい兵器を使った新しい戦争です。もちろん多くの部分で従来の兵法を用いる事にはなりますが、あくまで新兵器と新戦術とを基本にし、それに付随する形で従来の兵法を用います。私は軍学については素人ですが、大公閣下と軍の皆様の助力を得て作戦計画を策定しましたので、これから御説明させて頂きます」


 エイナさんが口にした『軍学については素人』の部分に、大公は苦笑にがわらいを浮かべ、居並ぶ将軍や参謀達は遠い目をする。

 事前に行なわれた大公軍内での軍議で、エイナさんかなり猛威を振るっていたからなぁ……。


「まず留守を騎兵隊に突かれる可能性ですが、極めて低いと考えます。イドラ帝国軍は現在、旧王都の南方に位置しているサイダル王国軍主力を最大の脅威と見ているでしょう。もし攻撃を受ければ即座に騎兵隊を呼び戻し、後背こうはいを突かせる算段を整えているはずです。そのためには、騎兵隊をあまり遠くに行かせる訳にはいかないでしょう。ファロス大公領は旧王国の南西端ですから、そこに伝令を送って騎兵隊を呼び戻すとなると一ヶ月近くかかる可能性があります。その間に旧王都を攻め落とされてしまっては元も子もありません」


「むむ……」


 理路整然としたエイナさんの反論に、領主達の勢いは急速に削がれていく。


「そして今回の戦争において我々は、敵軍の兵力ではなく戦う力に対して攻撃を加え、これを撃破する事によって勝利を得る事を目的とします。具体的には、敵軍の士気と統率とを標的にします」


 いつしか領主達の反論の声は静まり、エイナさんが淡々と語る作戦計画に全員が聞き入っている。


 エイナさんの語った作戦計画は大まかに、


・前段階として、敵軍に対して『大公軍は魔人と契約をし、魔獣を使役するらしい』という噂を流しておく。この時点では信じられなくても良い


・戦いの当日。敵前で多数の巨大気球を浮かべて見せ、魔獣の噂と関連付けさせる事によって、敵に恐怖と混乱を引き起こす


・気球から発進したグライダー部隊は、翼に取りつけた笛の音を響かせながら敵軍の上空を旋回し、さらに恐怖と混乱をあお


・グライダー部隊は敵兵の矢の届かない高さから一方的に油壺による攻撃を加え、恐怖と混乱を拡大させる


・グライダー部隊は敵陣の後方にある食料庫の位置を探り、発見したら地上の騎兵隊と協力して急襲。可能であれば奪取、難しければ焼き払う


・敵軍の状況を熱気球による高所からの偵察で観察し、弱点を発見すればすかさず地上軍で攻撃を加え、反撃を受ければ撤退するの繰り返しで敵の戦力を削ぐ


・気球からの偵察で敵軍の司令部の位置を把握し、動向を監視すると共に、隙があれば急襲を加える


・仮に敵が秩序だった反撃に出てきた場合、戦わずに後退する


・三日を目安に敵に消耗をい、しかる後に地上軍による総攻撃をかける


 というのが主な所だ。

 短期決戦で、奇襲効果を重視した戦い方になっている。


 敵軍に対して正面から決戦を挑むが、敵兵に対して正面からぶつかる事はしないという、ちょっとややこしい戦術だ。


 気球の数は大型が30機、小型が20機と、グライダーが今月末時点で60機揃えられる予定。

 グライダー一機に積める油壺は二つなので、フル稼働しても敵に与えられる実害は微々たる物でしかないだろう。


 だがエイナさんによると、心理的な効果は多大な物が見込めるのだそうだ。謀略の達人が言うと説得力がある。


 すでにリステラ商会のネットワークを使い、食糧や物資を輸送する御者ぎょしゃや行商人にふんして、イドラ帝国軍・サイダル王国軍双方に噂を広めつつあるらしい。


 リステラ商会は今度の戦争で、多数の高性能馬車を提供して進軍と補給の補助もするそうで、エイナさんの紹介でリステラさんが挨拶をしていた。

 こちらも結構な有名人なので、軍議の出席者には知っている人も多いようだ。


 だがその頃になると、呆然としたように話を聞いていた領主達が、ようやく我に返ったのかポツポツと異論を口にしはじめる。


「しかし、そう上手くいくのか?」


「初めて用いられる戦術ですので、予測は困難です。ですが仮に失敗したとしても、こちらの損害は大きな物にはならないはずです。改めて正攻法なり、別の手段なりを試す余力は残るでしょう」


「……新戦法を用いるのはわかったが、10日後に発動とは、そんなに急ぐ必要があるのか? イドラ帝国軍とサイダル王国軍を争わせて、消耗させた後でもよいのではないか?」


「皆様に忘れないで頂きたいのは、今度の戦争は我々の国が戦場になるという事です。戦争が長引けばそれだけ国が荒れ、国力が低下します。たとえ侵略者を追い払ったとしても、後に残るのが荒廃した廃墟では意味がないのです」


 この点は、可能な限り早く決着を付けたいという俺の事情をエイナさんに話してあるので、それに配慮してくれているのもあるのだろう。

 だが言っている事自体は正論なので、領主達からも異論は出ない。


 ……俺がまだ引きこもる前の中学時代。よく友達とカードゲームをやっていた時の事を思い出す。

 ゲームでは初期ライフ20点中19点を攻撃力に変換し、攻撃力1のクリーチャーに補正を与える事で20点ダメージを通し、成功したらワンターンキルなんてコンボもあった。


 ゲームならそれでも勝利には違いなかったが、戦争はゲームとは違う。

 残りライフ1対0での勝利など、勝利とは言えないのだ。


「だ、だが、現状ではイドラ帝国軍もサイダル王国軍もほとんど無傷だと聞いている。無傷の両軍と正面からぶつかるのは、さすがに危険が大きいのではないか?」


「従来の軍学の常識で言えばその通りです。ですが、新戦術は敵軍の精神に打撃を与えて混乱させ、統率を失わせる事を主目的にしております。ひとたび混乱させる事ができればむしろ大軍であるほど統制が難しく、立て直す事が困難になります」


「むむ……」


「さらに付け加えれば、仮にイドラ帝国とサイダル王国軍を争わせて消耗させる戦略をとった場合、両軍が弱った所で我々の軍が迫れば、挟み撃ちにされる形になるサイダル王国軍は陣地を移動させるでしょう。三軍がにらみ合う形になってしまったらうかつに動く事が難しくなり、また新戦術を用いる所をもう一つの軍に見られてしまう。

 新戦術は敵に対策を立てられる前に、可能な限り迅速に行使をし、最大限の効果を追求するべきであると考えておりますので、これは大変よくない事です」


 領主達の異論を片っ端からバッサリ切り捨てるエイナさんに、領主達は次第に言葉を失っていく。

 大公と、大公軍の将軍や参謀達が遠い目をしているのは、領主達の姿が数日前の自分達と同じだからだ。


 俺が提供した知識を最大限に活用してくれて、エイナさんホントに頼りになるなぁ……。




大陸暦423年8月19日

現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ31万2127人→25万人を森に避難中)(パークレン子爵領・エルフの村967ヶ所・住民13万2318人)

※鉱山とパークレン子爵領(大森林)の状況は不明なので、当面更新なし


旧マーカム王国回復割合 8%(南西部・ファロス大公領とその周辺貴族領)


資産 所持金 615億4841万


配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

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