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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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123 嫉妬(しっと)

 時間はすでにかなり遅く、日付が変わろうとする頃だろうか?


 妹が部屋を照らすロウソクを交換してくれる。話し始めてかなりの時間が経過しているのだ。


 俺は、この日最大級の緊張感を持ってエイナさんの言葉を待った。


「……洋一様、私は……エルフが憎いのです」


「え……?」


 エイナさんの口から出たのは、俺が想像もしていなかった言葉だった。


 最初の頃からの仲間で、今までエルフの解放にさまざまな協力をしてくれたエイナさん。

 薬師さんを先生としたい、尊敬と憧れの眼差しを向けていたエイナさん。


 そのエイナさんが、エルフを憎んでいる?

 とてもにわかには信じられない話だった。


「洋一様、私は学校を卒業してから一年半。この国最高の知識人達と共に仕事をし、お互いに議論を深め、研究に情熱を注いできました。そして知ってしまったのです。薬学一筋に、医術一筋に50年間研鑽を積んできた人達でさえ、知識も技術もルクレア先生の足元にも及ばないという事に……」


 ああ、そりゃあね……。


 鉱山の医術・薬学見習いのエルフさん達がどのくらいでモノになるのか。薬師さんに訊いてみた事があるけど、『半人前まで30年。一人前まで100年だな』と言われたのを思い出す。


 それは数百年を生きるエルフだからこそ許される時間であり、人間にはどうやっても至り着けない領域だ。

 まして薬師さんは200歳以上。一人前から更に知識と経験を上積みして、熟練者の域に達した人だ。60年・70年くらいが限界の人間では並べるはずがない。


 エイナさんはうつむきがちに言葉を続ける。


「私は今なら、なぜ先人達がエルフをおとった亜人種とし、単純労働だけに使う奴隷にしたのかわかる気がします。それは劣等感の裏返しなのです、どんなに努力を重ねても絶対に埋める事のできない圧倒的な差。それに耐えられなかったのでしょう……」


 たしかに、知識や技術を修めるのは寿命が長い方が圧倒的に有利に決まっている。

 他にも、エルフさん達は力や敏捷性といった身体能力も人間より高いし、何百年も変わらず若々しい姿でいられるのなんて、世の女性からしたら発狂するほどうらやましいだろう。


 エルフは本当に、人間の上位互換と言っていい種族だ。もし彼女達に多少の狡猾こうかつさと支配欲があれば、この世界で奴隷にされていたのは人間の方だったに違いない。

 そういった感情がない事さえも上位互換なのかもしれないが、それがエルフさん達の悲劇に繋がっているのは皮肉な結果だと言える。


 俺はエイナさんになんと声をかけていいかわからず、ただエイナさんの言葉を聞いていた。


「私はイドラ帝国が攻めてくるという情報を掴んだ時、すぐ洋一様にお知らせしようと思いました。ですがその時、私の頭に浮かんだのは別の考えだったのです。

 それは『洋一様と香織様、お姉様だけを安全な場所にお連れして、エルフ達は放置しよう』という物でした。全滅はしないだろうが、相当数の被害が出る。多くはイドラ帝国に捕らえられ、再び奴隷の立場に落とされるだろう事を承知の上でです。むしろ、そうなればいいとさえ考えていました。

 それが洋一様に対する裏切り行為だとはわかっていましたが、自分の中の嫉妬心を押さえられず、『どうせ知らせても全員を逃がす事はできないだろう』『知らせたら洋一様達と共に、お姉様も鉱山に残って危険に晒されてしまうかもしれない』『今は大人しいが、もしエルフ達が奴隷にされた恨みから人間に復讐を企てたらどうなるのか……』などと自分に都合のいい仮定を並べ立て、今回の判断に至りました。

 お姉様にはお見通しだったようですが、全ては私の心の弱さゆえの事です。洋一様にはお詫びのしようもありません。どんな罰でも甘んじて受ける覚悟ですが、もし願えるのなら、お姉様と引き離す事だけはどうかお許しください……」


 そう言ってガチ土下座のエイナさん。


 いや、エイナさんをライナさんから引き離すとか、そんな恐ろしい事は考えてないよ。それ俺の死亡フラグじゃないか。


 そして、エイナさんの嫉妬は確かに大きな問題だが、俺にとっては致命的な問題ではない。

 エイナさんの中で最大のウエイトを占めているであろうお姉ちゃんの存在がある限り、嫉妬は制御できる感情だと思うからだ。


「……頭を上げてくださいエイナさん。嫉妬の感情なんて人間なら誰でも持っているものですし、部下でもないエイナさんに罰を与える権限なんて俺は持っていないはずです。

 今の所まだ実害は発生してないんですし、こちらこそお願いできるのなら、この先も助言や手助けを貰えるとすごくありがたいです。とりあえず、今目の前に迫っている事態にとか……」


「洋一様……はい! できる限りを尽くすとお約束いたします!」


 改めて頭を下げるエイナさん。それを見つめるライナさんの目は、優しい姉のものに戻っていた。


 エイナさんの中から嫉妬の感情が取り除かれた訳じゃないだろうけど、お姉ちゃんへの愛と依存はそれを上回るだろう。

 ライナさんさえいてくれたら、エイナさんが大きく道を踏み外す事はないはずだ。

 この姉妹は二人で一つ、よくバランスが取れていると思う。


 そして、俺にとってはエイナさんの全面的な協力が得られるようになったのはとても大きい。

 特に今目の前に迫っている問題。二カ国に同時侵攻を受け、国が滅びそうになっている件は、エイナさんの協力なしには乗り越えられないだろう。


 だが今日は色々ありすぎて疲れたし、すでに夜も遅い時間なので一旦各自部屋に戻り、休憩をとった後再び集まる事にする。

 俺を含めてみんな自分の考えをまとめる時間が必要だし、特にエイナさんには心を落ち着けてもらわないといけない。

 それには、大好きなお姉ちゃんと二人で過ごすのが一番だろう。


 これからどんな対応を取るにしても、明日からは忙しくなるだろうから、今のうちに仮眠をとっておく必要もある。


 話の続きは翌朝と決め、ひとまず各自の部屋へと引き上げていき、俺もベッドに仰向あおむけになって考えを巡らせる。


 俺にとってなによりも大切な妹の命。そしてそれに次ぐ恩人達の命。さらにはリンネと約束したエルフさん達の命。


 これらの優先順位を間違う事なく、なるべく多くを守る方法を考えるのだ。


 いくつか方策を考え、明日エイナさんの意見も聞いて方針を決める。

 エイナさんがいつもの冷静さを保って助言をくれれば、限りなく最善に近い手を打てるはずなのだ。



 二つ並んだベッドの隣から妹が伸ばしてくる手に自分の手を重ね、この温もりを守るべくあれこれ策を考えているうちに、俺はゆっくりと眠りの世界に落ちていくのであった……。




大陸暦423年7月7日

現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ31万2127人)(パークレン子爵領・エルフの村967ヶ所・住民13万2318人)

資産 所持金 1128億6768万

配下

リンネ(エルフの弓士)

ライナ(B級冒険者)

レナ(エルフの織物職人)

セレス(エルフの木工職人)

リステラ(雇われ商会長)

ルクレア(エルフの薬師)

ニナ(パークレン鉱山運営長)

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