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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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116 春の訪れ

 冬の間ずっと鉛色だった空がときおり青くなり、鉱山の周辺に積もっていた雪が融けはじめる。

 リンネ達がいい香りのする草木の新芽を採取してきてくれるようになった頃、最も困難が予想された一年目の越冬えっとうが終わろうとしていた。


 冬の間にそれなりの数の病人が出たが、薬師さんの働きと、ニナが頑張って集めてくれた備蓄食料。リンネが狩ってくれたドラゴンと、他のエルフさん達の働きもあり、一人の死者も出さずに済んだのは本当に良かったと思う。

 亜人追放令以降に送られてきたエルフさん達も、苛酷な環境によく耐えてくれた。


 寒さ対策とはいえ過密状態の部屋に押し込められ、一人一枚の毛布すらなく寒さに震えていたのに、暴動どころか文句の一つも出なかったのだ。


 俺としてはありがたかったが、牧場で産まれて奴隷として育てられ、人間に使われてきた結果による従順さだと思うと、複雑な気持ちになる。

 今は困るけど、余裕が出てきたらわがままの一つでも言ってほしいものだ。


 もう少し温かくなれば外を出歩く事もできるようになるし、首輪外しは冬の間にほとんどのエルフさんが終わっているので、春からはかなり自由に過ごしてもらえるだろう。


 まだまだこの先幾多いくたの苦難が予想されるとはいえ、とりあえず大きな山を一つ越えたのだ。


 北部はまだまだ寒いが、南部では春小麦や豆の収穫がはじまる季節との事で、ニナは食料の買い付けを増やしてくれている。


 ドラゴンの肉の在庫はまだあるけど、干し肉にすれば長期間保存できるとの事なので、なるべく来年以降に温存しておきたい。


 食料の買い付けにはお金が必要だが、ライナさんに頼んでリステラ商会に持ち込んでもらったドラゴンのうろこは、リステラさん直々の入念な鑑定の結果、一枚4000万アストルという高額で買取ってもらえた。


 これは人が隠れられるくらいの大きいサイズのうろこで、大型の盾や高級貴族の馬車の装甲などに使われるらしい。

 値段はほぼ大きさに比例するそうだが、片手で持つ盾サイズのうろこは需要が高いので一枚3000万アストル。指や尾の先端付近についている手のひらサイズの小さなうろこでも100万アストルで買ってくれるそうだ。


 運んでくるのは肉を優先したので、山にはまだ沢山たくさんの素材がある。

 雪融けを待って輸送隊を派遣すれば、当分資金の心配はしなくてすむだろう……。




 大陸暦423年の3月も下旬になると、寒さが緩んでエルフさん達は小屋を出て鉱山内を自由に歩き回れるようになった。

 ほぼ四ヶ月ぶりに広い空間に出て自由に手足を伸ばすエルフさん達はとても嬉しそうで、首輪が外れて身軽になったおかげもあるのだろう、生き生きとしていて俺をホッとさせてくれた。


 病室に入っていた人達もほとんどが回復し、それぞれ採取に木工に、布加工に石加工に革加工に調理にと、得意分野を見つけて技術を学んでいる。

 土加工村も新たに二つ新設予定だ。


 薬師さんにも医術・薬学を学びたいというエルフさんが10人ほど弟子入りし、熱心に学んでいる。

 教える薬師さんはかなり嬉しそうだ。


 医術や薬学は物になるまで何十年とか100年とかかかるそうだが、他は二~三年でとりあえず半人前になってある程度の事ができるようになるので、この先が大いに楽しみである。


 大森林への移住も再開され、住人の再編も含めて村の数がどんどん増えている。

 それにともない、作るだけ作って放置状態だったパークレン子爵領の領都館を活用する計画も立案中だ。


 領都と言っても住民0人で、現状は近くのネグロステ伯爵領の村から使用人が数人来ているだけ。

 なので、大森林での採取素材を取引してもらう計画を立て、具体的な話を詰めるべく、王都のリステラさんに相談しに行く。


 色々話した結果、なるべくエルフと人間の接触を少なくするため、館の近くを流れている川沿いにしばらく上った場所に交易用の小屋を建てる事になった。

 エルフさん達がそこに素材を積んでおき、人間は小船で定期的に回収に行く。


 大森林の中でも川沿いは魔物がよく出る危険地帯だが、距離的には数キロ入っただけのごく浅い部分なので、危険は少ないだろう。森との境に住む村人が、まき拾いや薬草採取に入ったりする範囲だ。

 むしろ無関係の人に見つからないように気をつけなくてはいけない。

 周辺の進入禁止を徹底し、館で使うまきなどは近くの村から買う事にする。


 人間側からは必要とされる量の塩を供給し、希望する素材の連絡や情報交換などは書き置きで行う。

 受け取った素材は金額を計算し、王都のリステラ商会本部から鉱山の俺あてに代金が送られてくるシステムだ。


 リステラ商会から領都館に駐在員を。なるべくエルフに対する偏見が少なくて信用できる人をとお願いしたら、リステラさんはしばらく考えて口を開いた。


「わかりました。セシルを派遣いたしましょう」


 ……なんか聞いた事がある名前だ。

 たしか、リステラ商会の最初の従業員だった人。そして、リステラさんとエイナさんが親友兼共犯者になるきっかけを作った人だ。


「……って、副商会長さんじゃないですか。いいんですか?」


「はい。一番適任だろうと思います」


 それは確かにそうかもしれない。

 セシルさんは俺と妹が十日熱から回復した後、リンネや薬師さんと一緒の快気祝いに同席してくれたし、リンネ達と一緒に行動した事も何度かある。

 間違いなく、この世界ではトップクラスにエルフに対する偏見が少ない人間だ。


 でも、この仕事は誠実さこそ求められるものの、難易度としてはさほど難しくない。

 リステラさんの片腕でもある副商会長が直々に、しかも常駐してもらうほどの案件じゃない気がするのだけど……。


「あの、ホントにいいんですか? わざわざセシルさんに来てもらうほどの事じゃない気もするんですが」


「エルフを相手に大森林産の素材を扱おうというのです。今はそうではなくとも、将来的には大きなあきないに発展する可能性を秘めているのではありませんか? 私が最も信頼する部下を派遣する価値がある程度には」


 ……なるほど、新しい商売と言えばそうなのかもしれない。

 今まで大森林の素材は一部の冒険者が細々と採取してくる物だったし、大森林がパークレン子爵領になってからは冒険者ギルド経由で必要な品の依頼を受け、リンネが採取してきてリステラ商会とギルド経由で供給されている。


 価格はそれなりだが依頼は少なく、中にはリンネをして『それは聞いた事がありませんね……』と言わしめる、実在しない素材も含まれている。


 供給はあっても需要がないと成立しないのが商売だけに、大きく成長するかどうかは未知数だけど、こと商売にかけては俺が知る限りこの世界最強のリステラさんが可能性を感じているのだから、俺がどうこう言う事ではないだろう。


 ありがたくセシルさん派遣に感謝の言葉を告げ、商会を後にする。


 大森林は運営を全面的に任せてもらっているとはいえ、表向きパークレン子爵領なのだから、一応エイナさんにも会って報告をしておく。


 エイナさんは王立学校高等部をそれはもう優秀な成績で卒業した後、あちこちから結婚の申し込みやら研究者としての招聘しょうへいやらで大変だったそうだが、結局『王立学校高等部・理事兼講師』『王立医学研究所・名誉研究員』『ファロス大公家特別相談役』の三つを引き受けたそうだ。

 毎日忙しそうに働いている。


 本人が『講師か研究員か、どちらかだけでよかったのですが……』と言っていたので、多分なかば強引に頼み込まれたのだろう。

 特にファロス大公家特別相談役とか、むりやりねじ込まれた気配しか感じない。


 王都のこの屋敷は今、表向きパークレン子爵家王都館という事になっているが、中は以前のままでなにも変わっていない。

 貴族家らしく高価な調度品がある訳でもなく、居間のテーブルや椅子は最初に買い揃えた時のままだし、エイナさんとライナさんの部屋にいたっては、ここに越してくる前から使っていた二段ベッドがそのまま使われている。


 さすがに門の脇には警備の兵士二人が常駐しているが、それ以外はメイドさん一人雇われていない。

 普段はエイナさん一人だけ。ライナさんが戻って来た時は二人だけで暮らしているのだ。


 エイナさんいわく、『王立学校高等部と医学研究所、ファロス大公家の王都館にそれぞれ部屋をもらいましたから、人に会う時などはそこを使っているので問題ありません』との事だが、どうもエイナさんはここをお姉ちゃんと二人で過ごせる愛の巣的に認識している気がして、ちょっと怖い。


 今も俺と妹がいるのを気にする様子もなく、子猫のようにライナさんに甘えている。

 疲れているのか、最近あまり表情がえない気がしていたが、ライナさんといる時だけは満面の笑みだ。

 ライナさんも苦笑を浮かべつつ、まんざらでもない様子で膝枕をしたエイナさんの髪をでてやっている。


 こうして見ると、優秀なB級冒険者と知略無双の子爵様にはとても見えないな。


 もしかして俺邪魔なのかなと思うが、気にせず甘えているという事は、俺に見られるのは問題ないという事なのだろう。

 一応、火掻ひかきき棒持って殺意を向けられながら、お姉ちゃんの事、『護衛として』よろしくお願いされた仲だからね。


 思い出すだに恐ろしいけど、気を許してくれる関係になれたというのは嬉しくもある。


 本人の人格は置いておいて、仲むつまじい姉妹というのはいいものだ。見ているだけで心がほっこり温かくなる。


 だが俺にとっては一つ問題があって、甘えるエイナさんにうちの妹がなにやら刺激を受けるらしく、いつも以上に俺に甘えてくるのだ。


 俺としても頭をでてやるくらいはやぶさかではないが、一緒のベッドはちょっとハードルが高いし、一緒にお風呂は断固無理だ。

 ライナさんの所は姉妹だけど、うちは兄と妹だからな……添い寝はこの前妹の誕生日にやったけど、あれは誕生日だから特別だ。


 普段は二つくっつけたベッドで、手をつないで寝るくらいが限界である。

 それでもちょっとどうかと思うのに。



 そんなこんなで平和な空気の中、この年の春は気候のように穏やかに過ぎていくのだった……。




大陸暦423年3月27日

現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ35万7168人-2508)(パークレン子爵領・エルフの村525ヶ所+21・住民8万7209人+2508)

資産 所持金 8億3268万(+5548万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ商会長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)

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