107 ドラゴンの住処(すみか)へ
リンネをドラゴン狩りに送り出すに当たり、散々迷ったが、俺も同行する事にした。
明確な根拠がある訳ではなかったが、なんとなく直感的なもので、リンネだけを行かせたら二度と会えなくなってしまう気がしたからだ。
正直俺が同行しても別に役に立たないのだが、俺が同行するという事は自動的に妹が同行するという事な訳で、妹の危険察知能力は大いに役に立つと思う。
ドラゴンと対峙する時以外にも、大森林を抜ける訳だから、危険はいくらでもあるだろう。
森出身のエルフさん。特に採取ができるエルフさんは他の仕事でいっぱいいっぱいなので、牧場出身のエルフさんから古参のメンバー30人を選び、俺と妹、リンネを併せた33人で大山脈を目指す。
牧場出身エルフさん30人には分解した大砲と弾・火薬を運んでもらうのだが、内訳は採取見習いのエルフさんが27人。この人達はリンネの弟子で仲がいいのと、もしドラゴンを狩れた場合の解体と、干し肉への加工要員だ。
他の3人は木材加工見習いのエルフさん。現地で大砲の組み立てと、狩りに成功した場合はしばらくそこに留まる事になるので、その時の拠点作り要員だ。
セレスさんが優秀な子達を選抜してくれた。
道中順次鑑定してみたら、全員が弓術と採取、もしくは木材加工Lv2だった。
鉱山を買い取った時にいた子達なので、三年と少しでここまで成長したのは凄いと思う。
今まで色々な人を鑑定してきた経験だと、Lv1はそれが得意な人で、Lv2は職人級。Lv3になると達人級で、ぐっと数が少なくなる。Lv4は神技級で、人間にはほとんどいない。Lv5以上はエルフさんでしか見た事がないので、100年単位の修行がいるのだと思う。
短期間でLv2にまでなったのは、本人達が優秀な他に、いい師匠に恵まれたおかげもあるのだろう。
とはいえ弓術Lv2では、大森林に生息する獣や魔獣相手には心許ない。
荷物もあるので、必然道中の食料調達と襲ってくる相手への対処。昼夜を分かたぬ警戒と、道もない森での進路確保はリンネ一人の肩にかかってくる訳で、その負担はかなり大きい。
下手をしたらドラゴンと戦う前に消耗してしまいかねないので、警戒だけでも分担できる妹に来てもらったのは正解だったと思う。
夜ゆっくり眠れるだけでも全然違うからね。
実はこの遠征、リンネの妹であるレンネさんもすごく同行したそうにしていたのだが、右腕がなく弓を引けない体では役に立てないと、泣く泣く断念したらしい。
出発前に『お姉ちゃん、絶対無事に帰ってきてね……』と、泣きながら姉に抱きついていた。
リンネも妹を固く抱きしめて『必ず生きて帰ってくるよ……』と言っていたが、はたしてその胸中はどうだったのだろうか?
もちろん生きて帰ってきたいとは思っていただろうが、もしドラゴンを狩って秘薬を作る事ができれば、妹の失われた腕が戻ってくるかもしれないのだ。
その可能性があるのなら、リンネは自分の命よりもドラゴンを狩る事を優先させるだろう。
だがそれは、リンネ以外誰も幸せにしない結末だ。
リンネ本人はそれで満足かもしれないが、レンネさんにしてみれば、大好きなお姉ちゃんを失った代わりに右腕が戻ってきても、喜べはしないだろう。
それは俺や薬師さん、他の仲間たちも同じ事だ。
だからこそ薬師さんは同行すると言った俺を呼びつけ、特別製だという傷薬を20本も持たせてくれ、忙しい時間を割いて、ケガや火傷の応急手当について講義をしてくれたのだと思う。
正直俺にどれだけの事ができるかはわからないが、リンネが生きて帰れるように全力を尽くそうと、そう心の中で何度も確認するのだった……。
鉱山を出発して10日。大砲が重いので速度は比較的ゆっくりだが、旅路は順調に進んでいた。
正直俺は体力がないので、ゆっくりなのはありがたい。
リンネはさすが森のプロだけあって、動きが機敏で全員分の食料調達からルート確保、妹が知らせてくれた危険の排除まで、実に手馴れた物だ。
食料は基本現地調達で、妹が簡単な調理器具と調味料だけを持参している。
最低限の道具と調味料だけなのに、妹が作ってくれる料理は相変わらず絶品で、エルフさん達にも大好評だった。
ここ数年はマシになったとはいえ、牧場で生まれ育って鉱山で使われていたのでは、美味しい物なんて食べる機会なかっただろうからね。
道中色々珍しい物を食べたが、一番の当たりは7日目に襲ってきたライオンとアルマジロを足して2で割ったような生物だった。
大きさは4メートルほどもあって、どちらかと言うとライオン寄り。ライオンの皮膚を固く鎧っぽくして、ちょっと丸くした感じだった。
妹が危険を知らせてくれ、リンネがカッコよく皮膚の継ぎ目にピンポイントで矢を撃ち込んで仕留めてくれたのだが、その肉が柔らかくて臭みもなく、旨味たっぷりで最高に美味しかった。
リンネは脂っぽいのであまり好きではないと言っていたが、俺に言わせればしつこい類の脂ではなく、ちょっと塩を振って焼いただけでとろけるような味わいになる。最高級の和牛のようだった。
……いや、最高級の和牛食べた事ないけどね。
それからしばらくはその肉が食事に出てゴキゲンだったが、機会があったらまた食べてみたい。
獣自体は人間やエルフくらいなら頭からバリバリ食べてしまうような危険種らしいので、遭遇したくはないけどね……。
大森林にはすでにいくつもの移住村があるので、道中そのいくつかに立ち寄って様子を見る事ができた。
食料供給の都合上ちょっと移住を急いだので心配していたが、森出身のエルフさんを中核にして、たくましく村作りに励んでくれていた。
今はまだ住む家も満足にないけど、食事は十分に摂れているし、奴隷だった頃と違ってみんな目が生き生きとしている。
人間である俺を見て一瞬脅えた様子を見せたのは、まぁ仕方ないだろう。
リンネと他のエルフさん達に説明されて、謝ってくれたしお礼も言ってくれたが、そこは気にしていない。
程度の差こそあれ、みんな人間に辛い目に遭わされていたんだからね……。
とりあえず冬を無事に越せそうかどうかの確認をし、どの村でも『大丈夫です』と頼もしい返事をもらう事ができた。
これで安心して、鉱山にいるエルフさん達を食べさせる事だけに集中できる。
次第に風が冷たくなる中、大山脈の鋭い頂は徐々に大きく見えてきていた……。
大陸暦422年10月13日
現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ37万5135人-5600と+27)(パークレン子爵領・エルフの村391ヶ所+46・住民6万9201人+5600)
資産 所持金 25億6387万(-10億1993万)
配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)




