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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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106 ドラゴン狩り

 季節が夏から秋へと移る頃。リンネが深刻な表情で俺を訪ねてきた。

 用件は聞くまでもない。不足する見込みの食料を補うために、ドラゴン狩りに行かせてほしいという話である。


 ……一応、この時に備えての準備はしてある。

 薬師さんは黒色火薬を完成させてくれたし、セレスさんは試作一門、本番用一門で二門の木製大砲を作ってくれた。

 大森林を通り、大山脈の頂上近くまで運ぶ事を考慮して、分解搬送はんそうが可能な力作である。


 弾は土加工村で焼いてもらったセラミックをベースにし、先端に石加工エルフさん達が丹精たんせい込めて作ってくれた刃をつけた。

 重量による運動エネルギーと鋭い刃で、ドラゴンの固いうろこを貫くのだ。

 一通りの装備は、去年のうちに揃っていた。



 完成した直後、本当にドラゴンの鱗を貫けるかどうかテストをする事になり、リステラさんに頼んでドラゴンの鱗でできた盾を手に入れてもらった。


 鱗一枚でできた盾が6800万アストルもした時点で、ドラゴンの素材がいかに希少かわかる。きばを削って作った剣や目玉を磨いた宝石なんかは、国宝扱いだそうだ。


 ドラゴンのうろこは鈍い赤銅色で、薄くて軽い。本当にそんな強度があるのだろうかと疑問を抱かせる物だった。


 だが、ためしに俺がハンマーで叩いてみてもビクともしなかったし、リンネが弓で撃ってみても傷一つつかなかった。

 火にくべても変化なしだし、鉱山に残っていた鉄製のノミとハンマーでカンカンやってみたが、凹みもしない。


 ドラゴンのうろこが本物である事と、そのすさまじい強靭さを十分すぎるほど思い知った所で、大砲での試験に供してみる事にする。


 とりあえず盾を100メートルくらい先に固定して試射をしたが、発射の凄い爆発音に、見ていたエルフさん達のほとんどが驚いて腰を抜かしてしまった。

 平気そうだったのは自ら火薬を調合した薬師さんと、大砲を操作していたリンネくらいだったと思う。


 ちなみに結果は、見事貫通に成功した。リンネが黒晶石のやじりをつけた矢で何回撃っても歯が立たなかったので、威力としてはかなりの物だと思う。

 縦横1メートル近くあるとはいえ、100メートル先の鱗一枚に命中させた精度も凄い。


 砲を操作したリンネによると、弓の照準と共通する部分が多いのだそうだ。どっちも撃った事ない俺にはよくわからないけど、そうなのだろうか?


 発射後もしばらく煙を上げている大砲を、薬師さんが難しい表情をして見つめていたのは、争いに使われた時の事を考えていたのだろう。自分が調合した火薬が人を傷つけるとなったら、命を救う立場の薬師さんとしてはそりゃ複雑だよね。


 そしてリンネが、いつになく厳しい表情で見つめていたのは、これを使ってドラゴンと対峙する時の事を考えていたのだろう。


 試射の後みんなで結果を検討してみたが、鱗を貫ける事は分かったものの、それでドラゴンを一撃で倒せるかどうかは別の話。

 もし一撃で倒せなかったら、ドラゴンが吐く炎に焼かれて死ぬのはこっちになってしまうだろうとの事だった。


 薬師さんがドラゴンの絵を描き、心臓の位置を推定してくれたが、動く相手にピンポイントで当てるのはかなりの難易度だ……。



 あの時はたしか、そこで微妙な沈黙に包まれて一旦保留となった。だが今再び、命がけの冒険を行うかどうかの決断が迫られている。


 話に聞く限り、ドラゴンは全長100メートルに達する巨大生物。

 手練てだれのエルフ弓士100人がかりでも、人間の兵士一万人がかりでも全く相手にならず、村や街を襲われた時にはただ逃げまどい、去り行くのを待つしかないという、マジ物の厄災である。


 ドラゴン狩りは一つ間違えたらどころか、一つの可能性を掴み取れなければ死ぬのはこちらという、危険極まりない行為なのである。

 どうしてもリンネを行かせるにはためらいがあり、一度は『一晩考えさせてほしい』と言って帰ってもらう事にした。


 リンネを一旦帰し、俺は考え込む。

 ……一応の対応としては、エルフさん達に支給する食料を減らせば、リンネをドラゴン狩りに行かせなくても済む。


 だが十分に供給できる量は17万人分。総数が36万人だから、十分な量から半分以下だ。

 こういう事に詳しい妹に訊いてみたら、『働かせたりせずにじっとしているだけなら、飢え死にする事はないと思う。でも寒さに晒されたら体調を崩す人はかなり出ると思うし、寒さ次第では凍死する人が出るかもしれない。体力が落ちている人は冬を越せないかも……』との事だった。


 何十万人ものエルフさんが、空腹を抱えて辛い冬を過ごす事になる訳だ。

 せっかく奴隷の立場から解放されたのに、ここで凍死なんて事になってしまったらあまりにも悲しすぎる。

 そしてもしそんな事になってしまったら、俺は無責任極まりない行為をした事になる。

 リンネや薬師さん、一緒にがんばってくれた他のエルフさん達にも申し訳が立たない。


 でもなぁ……。


 俺はどうしても最後の決断ができず、頭を冷やそうと散歩に出かけた。

 すでに外は暗く、カンテラの薄暗い灯りを頼りに辺りを歩く。


 燃料はわりと貴重なので、ほとんどの建物は暗く静まり返っている。

 病室で小さな灯かりが動いているのは、薬師さんが患者を見回っているのだろう。


 と、たしか倉庫だった建物から細い灯かりが漏れているのに気づく。

 なんだろうと思ってそっとのぞいてみると、そこにはリンネがいて、一心不乱に大砲を磨いている所だった。


 自分の命を預ける道具となれば、必然手入れに気合が入るのはわかる。

 だがそれにしても、リンネの表情はどこか鬼気迫るものがあった。


 昼間採取に走り回って疲れているだろうに、分解された大砲の部品一つ一つを、台座にいたるまで丁寧に手入れしている。

 ……これは多分、じっとしているのが辛く、なにかせずにはいられない状態なのだろう。あまりよくない精神状態だ。


 複雑な思いで見ているとリンネは不意に手を止め、自分の右手をじっと見たかと思うと、左手でギュッと握り締めてその場にうずくまってしまった。


 俺はその時、苦しそうに表情をゆがめるリンネの目に、涙が光るのをはっきりと見た。

 考えるまでもなく、妹のレンネさんの事を、なくなってしまったレンネさんの右腕の事を考えているのだろう。


 俺の前では元気な様子を見せているが、薬師さんからの情報によるとレンネさんを救出してしばらく経った頃、夜中にたずねてきて『……私の腕を切り取って、妹につけてやる事はできませんか?』と言ってきた事があったらしい。


「馬鹿な事を言うな! 大体そんな事をして、姉の腕を奪ってレンネが喜ぶと、本気で思っているのか!」


 とキツイ調子で怒ったらシュンとして帰っていったそうだが、なんとも危うい話である。

 その後薬師さんに頼まれて、同じ村出身で年上でもあるヒルセさんが優しく慰めたそうだが、付き合いの長いヒルセさんは『少し精神が不安定な感じがする』と言っていた。今俺が見ている光景は、まさにそれだ。


 ……これは、なんとかしてあげないとダメだよな……。


 しばらくして立ち上がり、また黙々と大砲の手入れを再開するリンネを見ながら、俺の中で結論が硬く固まるのだった……。




大陸暦422年9月30日

現時点での大陸統一進捗度 2.2%(パークレン鉱山所有・エルフ37万9708人)(パークレン子爵領・エルフの村345ヶ所・住民6万3601人)

資産 所持金 35億8380万

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)

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