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 ……ここ、どこだ?

 目の前に広がるのは視界いっぱいの灰色の雲。俺は妹の香織を抱えて呆然と空を見上げていた。


 体の下には、グチョグチョとした冷たい泥の感触。少し高い所から落ちた感覚があったが、体がなんともないのはこの泥のおかげだろうか?

 俺は混乱する頭で、自分の身になにが起きたのかを必死に考えていた。





 ……俺、高倉洋一たかくら よういちは16歳。本来なら高校二年になっている頃だが学校には行っておらず、いわゆる引きこもりをやっている。

 今日もいつも通り自分の部屋で、パソコンに向かってゲームをしたり小説を読んだりしていたはずだ。


 中学まではそれなりに優秀だった俺が引きこもりになったのは、高校受験の失敗が原因だった。

 それまで周りから褒められてばかりで生きてきた俺は、人生初の挫折に大いに動揺した。


 自分が無価値な存在に思え、周りから嘲笑あざわらわれているという妄想に取り付かれて、それまでの交友関係を全部絶ち、家族と顔を合わせるのも極力避けるようになった。


 滑り止めで合格していた高校の入学式にはなんとか出たものの、そこでも周囲の笑い声が全て俺に向けられている気がして耐えられず、翌日から完全な引きこもりになった。

 それから一年。ほとんどの時間をパソコンの前で、ゲームをしたりネットをやったりして過ごしている。


 最初は俺を部屋から出そうと色々してきた両親もすっかりあきらめてしまい、永らく声も聞いていない。


 そんな俺に朝晩二回の食事を運んでくれ、気にかけてくれていたのは、三歳年下の妹だけだった……。





「ん……ううん……」

 俺の上に重なるようにして倒れていた妹が目を覚ましたらしく、ゆっくりと頭を上げる。


 この妹は高倉香織たかくら かおりと言って、中学二年の13歳。俺と違ってのんびりした性格の少々天然な妹で、小さい頃からちょくちょく面倒を見てやったせいか、俺によく懐いていた。


 そのせいか、両親さえ見放した俺に毎日食事を運んでくれ、晩御飯の時には扉越しに、今日あった事などを報告していく。一度も返事をした事がないのに、一年間欠かさずだ。


 今日も夜の七時頃、食事を持ってきてなにかをしゃべっていたが、俺はヘッドホンの音量を上げて聞こえないようにしていた。辛かったからだ。


 だが、早く諦めればいいのにと思いながらゲームの操作をしていた時、不意に部屋がぐらりと揺れた。

 一瞬地震かと思ったが、揺れているのは足元ではなく、空間全体が歪んだように視界が揺れていた。


「お兄ちゃん、助けて!」


 扉の向こうからの叫びを聞いた時、俺はとっさにドアノブに手を伸ばした。一年間決して開けなかったドア。それを思わず開いてしまったのは、まだ俺の中に妹の面倒を見ていた兄としての感覚が残っていたからだろうか?


 俺の姿を見た妹は、間髪を入れずに飛びついてきた。それが揺れに対する恐怖からだったのか、一年ぶりに見る兄を懐かしんでだったのかはわからないが、ずっと引きこもっていた俺は小柄な妹の体さえ受け止められず、重なるように倒れてしまった。


 それがついさっきまでの記憶……。


 そして今、俺達は大草原の真ん中にいる。

 周囲に茂る草を揺らして吹いてくる風が泥に濡れた体に冷やりと沁みて、妙な現実感をもたらしていた……。



現時点での大陸統一進捗度 0%

資産 所持金 ゼロ

配下 なし

誤字脱字や矛盾点などあったらお知らせ下さい。

こっそり修正させていただきます。

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