第九十四話
巨人との再戦が決まった後、イリアが念話で作戦を伝えた。どうやらこの作戦は巨人との交戦中で得たデータを基に立てたモノらしい。そして現在、俺達が巨人の元へ駆けていく。その最中、隣で走っているレヴィが話し掛けた。
「ね、マスター。身体の調子どう?」
「取り敢えず骨折などの重傷は完治までは行かなくても、ある程度までは治った。何より腕の方はもう大丈夫だから、戦闘に支障は無い」
「なら私を使って」
…………ん?いや、ちょっと持って。一旦落ち着こうか?確かに俺は巨人の攻撃でそれなりの大ダメージを受けたが、幻聴する程では無い……と思う。でも聞き違いという線もあり得ないし……ああっ!
「剣の事か?」
「うん。やっぱりマスターの傍で戦わないと安心できない……」
ふぅ~やはりこの事か。全く、これから巨人との再戦が控えていると言うのに、変な事を考えるなよな、俺。
とは言え、レヴィの言う事も一理有る。これ以上時間を取ると、ギルドマスターや他の冒険者が応援に駆け付ける。他のモンスターもそろそろ全滅を迎える頃合いだしな。今後の事と俺に残る魔力の量も考慮して、速攻で倒したい。
「分かった」
「は~い!」
元気いっぱいな返答と共にレヴィの身体は光の粒子に成り、俺の前方に浮遊している一振りの剣として顕現した。俺はその剣を即座に取り、念話でセツ達に作戦の確認をした。
『作戦通り、俺とレヴィは正面から特攻を仕掛けるからセツはイジスと共に遊撃を頼む』
『勿論です』
『了解』
『よし、作戦開始っ!』
イリアの指示を合図に、俺は風の足場と≪縮地≫を組み合わせて巨人の背後からその頭部へ接近した。巨人は完全に、俺に気付いていない事を見て、とある確信がついた。幾ら後方からの接近とは言え、それを気付かない筈は無い、ましてや≪狂血反転≫を使った巨人なら尚更だ。となると、この場合の可能性は二つ。
一つは気付かぬ振りをして、俺を誘っている。二つ目は俺が死んだことを確信した巨人は別の標的に意識を集中している、まぁこの場合は十中八九ギルドマスターだろう。実際の事はどうであれ、無防備の後頭部と背中は絶好のチャンス。これを逃す訳にはいかない!
『レヴィ、あの時巨人に飛ばした水刃を剣に纏りつけれるか?』
『出来るよ。今やる?』
『ああ、あの首が斬り飛ばせる程の特大サイズでお願い』
『任せて~』
これで攻撃の事に心配は要らないな。残る懸念はこの状況が巨人の罠だった場合を凌げるための防御力だけ。最も頼りになるイジスはセツと別行動中だから、ここは――
『≪冥獄侵食≫』
レヴィが水刃の準備をしている内に全身を骨の鎧を纏った。これならある程度の攻撃を防げる。しかし、今こうして剣モードのレヴィを握って魔法を発動していると、俺の魔力が凄まじい勢いで消費される事を実感した。なるほど、これだけの魔力を使った魔法の威力なら申し分ない。
『完成したよ!』
『ナイスタイミングだっ!』
巨人との距離が10メートルをきった直後、レヴィから魔法の完成の念話が届いた。本当、絶好なタイミングって言うのはこう言う事か。イリアもほぼ同時刻で≪ヴァナヘムル≫を発動した。
複数のスキルによる疑似未来視で巨人の次の行動を予知し、最適な軌道で剣を振った。水刃を纏う事で長さ10メートル以上まで伸びた剣なら余裕で巨人の首を刎ねれる!
――ッ!?
右側から振った剣の刃がその首筋に触れる直前、巨人は大きく左でサイドステップで躱した!そして襲撃者の俺の姿を捉えるべく、空中で無理矢理身体を捻る事で後ろへ向いた。だけど――
「ああ、そうさ。傷一つも負わない為、そうやって避けるしか道は無い!」
――その行動は既に≪ヴァナヘムル≫で予知済みだ!
巨人が振り向く瞬間、地上から銀色の一閃が俺と巨人の間に割り込んだ。その銀閃は突如と出現した薄い緑色の壁を蹴り、巨人の目の辺りを目掛けて跳んだ。銀閃が巨人の顔面を横切った刹那、巨人の叫びが噴き出す鮮血と共に鳴り響いた。そして銀閃はそのまま向う側の林へ姿を消した。
痛みと視界が失ったことでサイドステップの着地が上手くできず、無暗で繰り出せた反撃も全く当たれない。この事を知った俺は思わず唇の端を釣り上げた。何故なら交わされた筈の刃が再び巨人の首元を狙う。
――グァアアアアアア!
流石は大戦で活躍した巨人族と言うべきか、視界を失ったとしても紙一重で俺の攻撃を避ける。しかし完全に避けず、左肩の辺りが大きく抉られていた。視界と片腕を失い、もう片方の腕は肩の傷で上手く動けない。心臓や肋骨も俺の振動魔法でそれなりのダメージが蓄積していた。これだけの重傷を負っても倒らず、未だに俺を殺すつもりだ。
『まずいぞ!あのギルマスとやらがここに数人を連れて走っている!』
『ちっ、もう来たのか……』
クソ、ギルドマスターが予想より早くここに着くな。俺の魔力の残量も心配にだし……仕方ない。
『悪いけど……レヴィ、ここであいつを仕留める』
『分かっている』
『今の俺の魔力量からすると、もし仕留め切れなかった場合は頼む』
『心配する事は無い。私が居れば、マスターが失敗する筈も無い』
『……頼もしい限りだ』
レヴィから心強い言葉を受け、俺は当初イリアが話してくれた作戦の最終フェーズへ移行した。そう、つまりは巨人を討つ段階だ。未だに≪狂血反転≫の効果が切れていない事に対し、少々な疑問を抱いているが……今はそう言うどころじゃない。
ふぅ~蓄積させたダメージは十分、視界も奪った。やれる下準備はもう殆ど終わった。残るはその命を絶つだけ!
こうやって自分を鼓舞しつつ、俺はより確実性を求め、更に上空へ飛び上げた。