第九十三話
【第三者視点】
「ご主人様しっかりしてっ!」
「イリアさん、レイさんの容体は?」
「……幸い冥獄鬼の鎧骨の展開が間に合って、致命傷には成らなかった。でも前腕の骨と肋骨数本は折れていて、攻撃の衝撃で意識を失っている状態」
レイが巨人の回し蹴りを受け、イジスとセツが居る林の近くに落ちた。その直後に駆け付けたイジス達とイリアがレイの傷の具合を確かめた。一方レヴィは未だ巨人と交戦中。でも狂血反転≫を使った巨人はいくら大罪悪魔のレヴィでもそう簡単に倒せない相手であった。
「本当、ネクトフィリスさんに感謝しないとね」
「そうね。あいつの鎧が無ければ、レイは今頃死んでいた」
「……」
レイの命に別条なしって事を知って、三人を囲む空気が若干和やかになった。その直後、巨人の方向から一人の人影が彼女達に近付いた。
「マスターの容体は?」
「大丈夫、ただ意識を失っただけ」
「レヴィ様!?あの巨人と戦っているじゃないの?」
人影の正体はさっきまで巨人と交戦中のレヴィであることに驚きを隠せないセツは思わず声を上げた。対するレヴィは至極当然の様にセツの質問を答えた。
「戦っていたよ?数秒前まではね」
「それで、倒したのか?」
「まさか、≪狂血反転≫の効果を受けている巨人と戦うこと自体が無意味」
イリアの質問に呆れ気味に返答したレヴィ。その二人のやり取りに些かな違和感を感じたセツは思っていた懸念を口にした。
「でも巨人が戦う相手が無く、適当に暴れたらこの辺りも危ないんじゃ……?」
「そうね。ここはイジスさんの結界が有るから心配ないけど、町の方はまぁ……半分ぐらいは破壊されるね」
レヴィは自分の顎に指を当てて、考え事の仕草をしながらさりげなく残酷な事実を述べた。彼女が言った事を信じる者はそうはいないだろう、実際セツもレヴィのその一言に半信半疑の心境を抱いている。でも、大戦で巨人の強さを体験したイリア達は知っている。レヴィは決して巨人の力量を過大評価していない。
そこで、イリアが深刻な顔でレヴィに有る事を訊ねた。
「レヴィ、今の貴女は巨人を倒せるか?」
「スキルの効果切れを待つのなし?」
「勿論だ」
「……多少の無茶をしたら可能だ」
即答したイリアを目配りし、レヴィは渋々答えを呟いた。それを聞いたイリアは「流石は大罪悪魔!」っと言わんばかりの笑みを零れた。当のレヴィはイリアの反応を見て、訊ねた。
「イリア……貴方まさかこの町に未練を感じたのか?」
「いや、全然。ただ……」
一拍を置き、イリアは視線をレヴィから倒れているレイへ移った。そしてそのままレイの頭を撫でて、安らかな口調で言葉を続きを語った。
「レイが悲しむかもしれないから」
「ふっ。イリアさんってば、そこまでマスターに惚れちゃって……」
「それは貴女も同じでしょう?」
「……否定は出来ない」
「「…………」」
何らかの共通認識を達したレヴィとイリアは意味深な笑みと視線を交わした。会話に付いて行けず、困惑したセツにイジスは苦笑て見守っていた。
「ともあれ、このまま≪狂血反転≫の効果切れを待つのはベストだけど――」
イリアとレヴィのやり取りによって、一瞬誰も黙り込んでしまう、やや気まずい雰囲気に成りかけていた。最初にその静寂を破ったのはその雰囲気を作った張本人のイリアであった。
「――どうする?」
「そうだな……先ずは俺を蹴り飛ばしたお礼ぐらいは返したいな」
「って、マスター!?もう起きて大丈夫なの!?」
イリアの質問に答えたのはいつの間にか座り上げたレイであった。レイが意識を取り戻した事に対して、レヴィからはじめとした、イジスもセツも驚きを隠せなかった。
「ああ、多少動けるまで回復した。かと言って、両腕の骨折はまだ時間が掛かりそうだけど」
「……ご主人様って人族、だよね?」
「そうだけど?」
「人族はそんなに早く回復出来る種族なったの?」
「あ~、俺の場合は高速再生というスキルを持っているから」
「な、なるほど……」
何だかんだセツはレイの説明に納得した。いや、多分セツは考えするのを諦めた。レイ達と一緒に過ごした彼女にとって、彼等は常識で理解できる存在では無い事を知った。だからこそ彼女はレイ達に関して、些か理不尽な説明を受けても多く考えないように決めた。
「一応ギルマスが約束した報酬はまだ受け取っていないからな……」
「本気なの!?ご主人様はこの町を救う義理なんて無い筈なのに、どうしてこれまで命を懸けるの?」
「このまま逃げて、金欠になったらカッコ悪い――」
「……」
「っと言うのは表向きの理由だ。本当はこんな強敵を目の前にして、戦いたくなるのはゲーマーだろう?」
「……げぇまぁ?」
「それに、俺はまだイジスがくれた課題をクリアしてないし……あの巨人にも勝ちたい。こう見えて俺は相当な負けず嫌いなんだ」
「致し方ありませんね。今回は私も手伝いますよ」
今まで黙って、レイとセツの会話を聞いてたイジスが遂に言葉を発した。
「但し、あくまでも最低限のサポートだけですよ?」
「ああ、それで十分だ」
「勿論手負いのマスターをサポートします!」
「≪ヴァナヘムル≫も一分ぐらいなら行けるぞ」
「……なら私も参戦しよう。まだ復讐が終わる前に死んだら困る」
「ありがとう、皆。俺のわがままに付き合って……」
こうして、レイ達と巨人の戦いの第二ラウンドが始まった。