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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第九十二話

――少し時間を遡って


 俺と巨人の激しい攻防が続けている。片手を失った巨人がバランスを崩れ易いと思ったら、思いの外まだまだあの巨体から想像できないスピードを兼ね備えた動きを連発して来る。しかも片手を失う事にたいして全くそれを気にしている様子を見せなかった。寧ろ若干攻撃の威力が増した感はある。そのお陰でこっちの体力が物凄い勢いで削られている。


「はぁ……はぁ……クソ、どんだけタフ何だよ!?」

『やばいぞ、レイ!ヴァナヘムルはもう長く持たない!』

「……あとどのぐらい持つ?」

『せいぜい30秒』


 なるほど、それはヤバイな。イリアの話に出てきたヴァナヘムルと言うのは今、俺達が巨人の動きに付いていける要因となった技だ。技の名前は≪単色未来鏡モノクロマチック・ヴァナヘムル≫だったんけど……流石にちょっと長いで、いつもは≪ヴァナヘムル≫で呼んでいる。


 簡単に言うと……このヴァナヘムルは俺とイリアで≪気配感知≫、≪禁書庫の目録≫、≪看破の魔眼≫、≪並列思考≫、≪魔力感知≫、≪思考加速≫と≪見切り≫の七つのスキルを二人係で同時に発動して、強引に数秒先の未来を見る技だ。


 元々未来は無数の可能性に枝分かれしたモノ。その故、未来を見ると言う行為自体が不確定要素に満ち溢れている。例え何らかの方法で未来を知ったとしても、それが百パーセント起こる保証は無い、見た未来が遠いければ遠い程、外れる確率が上がる。でも逆で言えば、近い未来の事なら当たる可能性も上がる。


 それでも≪ヴァナヘムル≫は本当の意味での未來視じゃない。俺やレヴィ、セツが持っている≪先読み≫と似てて、相手の次の一手が何となく知れる技である。でも≪先読み≫よりもっと先の未来が見える。そもそも≪ヴァナヘムル≫は相手の筋肉と魔力の動きや癖、視線等の僅かな変化を観察し、最も可能性の高い未来をシミュレーションし、疑似的な未来予知を実現した。


 七つのスキルを同時発動の負担を二人係で減らすつもりだけど、それでも三分以上は無理だった。そして現在、その≪ヴァナヘムル≫のタイムリミットがもう残り僅か……流石にこれを失い訳にはいかない。


「頼む、イリア……あとちょっと、持てないか……?せめて、もう少しダメージを……」

『無茶な事を言わないで!本当はもう頭痛で殆ど動けないレベルじゃない!?』

「けど――ッ!?」

『早く避けて!』


 イリアの警告より早く、俺は≪ヴァナヘムル≫で巨人の次の攻撃を知った。それは残った片腕による薙ぎ払い。後ろへバックステップでその軌道から離脱する瞬間、俺の頭が今まで一番酷い頭痛に襲られた。そのせいで足が真面に動かせず、その場で硬直した。しかも頭痛のせいで強化魔法も掛けないっ!


「≪絶氷一角槍(グラチェス・ランシア)≫!」


 俺がダメージを覚悟し目を閉じた直後、予想した衝撃も痛みも来なかった。恐る恐ると瞼を開き、状況を確認したが、目の前は蒼い氷の壁に塞がれた。やがてその氷壁から赤黒い液体が垂れ流した。それを辿って、視界を右方向へ向けて、そこには攻撃した巨人の手首の部分がこの氷壁に貫かれた。よく見たらこれは壁では無く、巨人が使っていた剣と匹敵する程のサイズの円錐形な氷槍だ。


『大丈夫ですか、マスター!?』

『助かったよ。ありがとう』


 目の前の光景に感心した俺に、念話で切羽詰まったレヴィの声が聞こえてくる。俺の安全を確認したレヴィの口調はいつも通りに戻った。そんな安堵したレヴィから提案を貰った。


『下がってください、マスター。ここからは私がやります』

『……悪い、任せる。頭痛が回復したらサポートに回す』

『ゆっくり休んで。私も大罪悪魔の名は伊達じゃないってことを証明しなきゃね』

『はは、それは心強いな』


 それを言い残し、俺はレヴィが居る反対側の林へ下がった。俺の戦線離脱を感知した巨人は氷槍で負傷したあ片腕を追撃を試みた。が――


「行かせない……≪九竜歯縛ヴォネム・レヴィンシオ≫」


――巨人の手首を貫いた筈の氷鎗が瞬時に形状を九つの氷の大蛇に変化した。


 大蛇はそのまま巨人の腕から巨人の胴体や足へ行き、それぞれの大蛇が各部位を縛り上げた。縛りをもっと頑丈にするべく、大蛇共は各自の牙を巨人の身体に埋め込んだ。流石の巨人も大蛇たちの力に敵わず、地面に倒れ込んだ。


「まぁ、マスターの成長の糧になれた事だし、あんまり苦しまずに殺しましょう。蒼氷――っ!?」


 レヴィが次の魔法を唱え終える前、巨人の身体が心臓の部分から血色に光る模様が体中に広まっている。


――ゴォアアアアアアア!


 もう何度目か分からない咆哮を上げた巨人、そんな彼は自分を縛っている大蛇たちを硝子が砕ける音と共に引き千切った。


 ……やはりおかしい。さっきのレヴィの攻撃に巨人が防げる術を見せなかった。いや、そもそも巨人がレヴィと戦える程の実力を持っていない筈だ。そんな実力差を無視したように、まともに力を出せない体制でレヴィの氷を砕けた。レヴィの氷の強度は何回かの模擬戦で把握したつもりだ。そしてさっきまで戦って来た巨人にそのような膂力は持っていなかった。


「……そっか、これがイリアは言った≪狂血反転(リベリオン・ブラッド)≫か?」

『そうだ。出来ればこれを使われる前に倒したかった』

「えーっと、確かそれは受けたダメージ分、力に代えるスキル……だったけ?」

『ええ。そして巨人(あいつ)が相当な量のダメージ受けた。一時的ではあるが、今ならこの土地を平らにすることは出来るぞ!』

「なっ!?……それほどか」

『避けろ、マスター!』


 再びレヴィの警告が脳内に響いた。その声を聞いて、俺は咄嗟に≪ヴァナヘムル≫を発動した。≪ヴァナヘムル≫で見た未来のシミュレーションに従い、俺は左側へサイドステップして、頭上から降り下ろした巨人の剣を紙一重で躱した。


 だけどそれは咄嗟に取った回避行動、降り下ろした剣の風圧を殺し切れなかった。そのせいで、俺は相当の距離まで吹き飛ばされた。それでも風魔法で何とか体制を立ち直れた。巨人の追撃を備える為、俺は即座に俺が元居た方を見たが――


「消えた!?」


――そこには巨人の姿は居なかった。


 そんな馬鹿な!?あの一瞬で姿を消したのか!?≪ヴァナヘムル≫を使っている俺とイリアから逃れるのか……通りでイリアがこのスキル警戒している訳だ。クソ、何処に行った?


 ≪ヴァナヘムル≫を総動員して、巨人の位置を割り出した瞬間、巨人は既に俺の背後に回り込んだ!そう、≪ヴァナヘムル≫はあくまで疑似的な未来予知。例え未来を知っているとしても、それを回避できるとは限らない。今この巨人がやってたように、俺が反応より早く、俺に攻撃が届ける距離まで迫ってきた。


 俺は振り向く暇も無く、鈍い衝撃が全身に走って、俺は意識を失った。


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