第九話
「本当にここなの、イジスさんが封印された場所は?」
「うん、間違いない」
「でも、ここはイリアの所とほぼ真逆な場所だな」
「さっきの言ったでしょう、ここはたまに入り込んだ人間が有るって。これがそいつ等の成りの果てさ」
イリアの所は何も無い廊下が続くだけの一本道。障害物どころか、柱すらない。でも、イリアの親友ことイジスの所は乾いた血痕が所々に貼り付いていた。床に転がる白骨化した死体は十や二十で済まない。この辺の死体を合わせれば、百を超えても不思議ではない。その中に鎧や防具を着た者も居た。俺は死体だらけの場所のある柱に寄り掛かる死体を見た瞬間、小走りでその死体に近付いた。
「レイ?如何した?」
「いや、ちょっとこの死体に違和感が……ほら、これ。ここの死体は全部白骨し、腐ってるでしょう?それなのにこの死体が持っている袋だけが新品でおかしく無いか?」
「どれどれ…ふ~ん、朗報よ。レイ、良い物を拾ったな。これは使用者の魔力がある限り、水を出し続けるアイテム。種類によって、一度に出せる水の量が変わるけど…一旦これを試しにやる?上手く発動したら、ついでにその水袋自体を洗うことも出来るし」
その後、俺はイリアの指示通りにやって、無事、水袋を発動した。この水袋が一回で出せる水の量は相当多い、多分5リットルぐらいかな?出す水も綺麗だし、ちゃんと洗ったら衛生面も心配し無そうだ。あとこの水袋を使う際に魔力を体内から出すのも、変な感じがする。イリアによると、魔力の使い過ぎ、いわば魔力切れはその者に脱力感を経験するらしい。とすると、戦闘中での魔力切れは極力避けたい。
俺達はさらに奥へ行った。奥に進む度に倒れてる死体の数は増える一方、空気中に漂う血の匂いも増した。
「この中か?」
「ええ。でも気を付けて。私達の周りに沢山の気配が……」
――ガルルルル……
突然、俺達の前方に一つ神殿みたいな建物が見えた時、後ろの方から狼の遠吠えが聞こえた。遠吠えがこの空間を響き渡った瞬間、周りの影から無数の狼が現れた。
「こいつ等はあの時の!」
「はい、数時間前にレイを襲った。こいつらの名はチェイサー・ハウンド。目が見えない代わりに耳は非常に発達。何時も群れで行動する。一つの群れはおよそ十匹以上いる。各群れに必ずリーダー格のチェーサー・ハウンドが存在する。リーダー格のチェーサー・ハウンドを倒さない限り、領地に侵入した者が死ぬまで追い続ける。言い換えれば、リーダーを殺したら他のチェイサー・ハウンドは撤退する」
「この数の中に一匹を探すの!?無理言うな!」
「無理だってことは分かってる。だから逃げる。私達の目的はあくまでイジスを助けるだけ。こいつらと戦う必要は無い」
「了解!」
俺はすぐさまイリアを抱き、足に強化魔法を掛けた。歯向かうチェイサー・ハウンドを避けつつ、俺はイリアをお姫様抱っこの状態で神殿まで走った。
「きゃっ!レイ、何を――」
「良いから喋るな、舌を噛むなよ」
イリアを抱いたまま、俺は軽い掠り傷しか負っていない状態で神殿の前に着いた。すぐさまイリアを降ろして、両腕に強化魔法を掛けた。
「レイ、早くして!」
「この扉はクソ重いんだ!もうちょっと待って……うッ!」
全力で押した扉は人一人が通れるまで開いた。その隙間からすんなりと入ったイリアに引っ張れて、俺も中に入って、再び扉を押して、扉を閉めた。
「レイ、傷は大丈夫?」
「ただの掠り傷だ、大した問題じゃない」
神殿の中に入って一安心したところ、イリアが俺の左の二の腕にある傷を真剣な表情で見つめていた。俺はイリア不安を消せた。今は俺を心配するよりは……
「イリア、お前の親友はあの中か?」
「はい、イジスはあの中です」
神殿の中は意外と広かった。そしてその中心にはイリアの時と同じ、巨大なクリスタルが居て、無数のデカイ鉄の楔で囲まれた。でも、違いはあった。それは、クリスタルのサイズはイリアのクリスタルより一回り、二回りより大きい。そして、そのクリスタルを楔に巻き付く黒い鎖が幾つ有った。