第七十六話
少し長くなりました……
朝方が鎮めてから約一時間が経った。その一時間の間、俺はギルドの受付嬢の尋問を受けた。尋問内容は言うまでも無く、セツの件についてだ。まぁ、受付嬢が訊いてくれる質問は大体同じで、例えば何処でセツに出会ったとか、セツの正体や事情等の問題を繰り返しただけ。
それなら何故一時間も掛かった?っと疑問が生じる。その原因は主に俺とセツが口にした答えは事実から遠く離れた物語であったから。その物語を要約にすると――
『セツは山奥で生まれ育った、はぐれの白狼族だ。しかも彼女はこの世に生まれて間もなく、謎の疫病で両親を失う羽目になった。幼少期から両親の愛を知る術を持たない彼女は毎日、何時か自分が死ぬかもしれない恐怖に怯えながら必死に生き残る術を探し続けた。ある日、そんな彼女の前に現れたのは一人の男であった。その男はセツにこう提案した「俺の配下に入らないか?少なくとも最低限の衣食住を提供する」。それは幼少のセツにとってはまるで蠱惑な悪魔の誘いそのものだ。その組織の正体をも分からないまま、組織への参加を決意したセツに持たされたのは一枚の契約書だった。当時は字を読めないセツに代わって、組織の人が代筆する事に成った。それが奴隷に成る事を賛成する同意書だと知らずに……その契約書の正体に気付いたのは数ヶ月後、組織の者がセツにあまりにも理不尽な要求を出された時。真実を知ったセツは組織から抜け出すと決意したけど、当然組織はそれを許さなかった。多くの構成員を動員し、セツを捕まえろとした。セツは数年間、組織の追手から逃げ続けた。やがて彼女はこリルハート帝國付近まで来て、俺に見付かれた』
――っとこんな感じになる。本来であれば一晩中辻褄を合わす予定だったけど、生憎俺はこの事をすっかり忘れたせいで受付嬢に説明しながら即興で思い付いた事を話した。幸い俺達にはイリアのチートスキル、≪念話≫があるから密かに念話でセツのフォローするタイミングや台詞を相談することが出来た。
これを言うのとちょっと自画自賛の感じがするけど、我ながら即興で思い付いた話としては中々上出来じゃないか?一応セツが両親を失った点や数年間逃げ続けた点は本当だったし、唯一違う所はその原因ぐらいかなぁ……まぁ、色々とおかしいな所が存在するから、受付嬢にめっちゃ疑われた。それでも何とかごり押しで信じさせた。
やっと尋問から釈放された俺達はいつも通りに薬草採集の依頼を受け、馴染んだ草原にやって来た。目的地に到着した途端にイリア達が各々実体化・擬人化のスキルを発動した。
「えーっと、セツさん?」
「はい?」
「セツさんが得意する戦闘スタイルは何ですか?」
「……特に無い」
「それなら学べたいと思える戦い方とかはあります?」
イジスの問い掛けに対して、セツはただ無表情のまま答えた。その答えに少し困惑する仕草を見せたイジスは次の質問を口にした。
「……無い」
でもセツは相変わらず無表情のまま返答した。参ったな……これじゃ、どこから手をつくか分からない。うん?そう言えば、俺はまだセツのステータスを見てないな。最近ドタバタしてて、すっかりこの事を忘れた。まっ、今見ても遅くないっか!
すっかり脳内からすり抜けた事実に気付き、≪看破の魔眼≫を発動した。普段は無関係の人のステータスを覗き見する事を嫌がっているから完全にこのスキルの存在を忘れてた。でもセツはもう俺達の仲間に成ったから……見ても大丈夫、よね?
名前:セツ
レベル:45
称号:半魔の獣人
スキル:見切り[+先読み]、縮地[+一閃]、隠蔽、環境同化「雪原」、夜目、気配感知、気配遮断、剣術、短剣術、双剣術、遠見
魔法:氷結魔法
ふむふむ……レベル45か。良く分からないけど、多分高いか、中の上に属する数字だろう。何せこの数字は前に会った帝國戦術魔導師のウィルさんのレベルの半分ぐらいだから。つまりレベルの数字だけを見ると、あと半分でセツがウィルさんを越える事に成る。
凄いなっと心底そう感じた。このレベルの数字は十分過ぎるぐらい、彼女が過ごした逃亡生活の険しさを語る。一応俺のレベルの高さは元天使二人のイリアとイジス、ネクトフィリス、大罪悪魔のレヴィの助力を得た結果(いかさま)だからノーカウント。
「氷結魔法……」
隣に立っているイリアが困惑と驚きを交えた言葉を呟いた。いつものクールな彼女もその驚異を隠しきれなかった。博識なイリアがこんな風に驚いたこと自体が珍しい。セツが氷結魔法が使える事がそんなに不思議なのか?俺も好奇心を抑えきれず、イリアに驚異の原因を訊ねた。俺の問い掛け答えるべく、イリアはいつもの冷静さを取り戻して、その答えを紡いだ。
「……本来、獣人族は魔法が使える事が出来ない種族なんだ。何せ魔法を使用する際に使う魔力の存在を認識できないから」
「それって……!?」
「ええ。恐らくは魔族の血を引いた彼女だけが持つ恩恵だろう」
「それじゃ、セツは他の獣人族が使えない魔法を使用する事が出来るって事か?」
「どうだろう?そもそもステータス内で魔法が表示された獣人族は初めて見るから……もしセツが魔力を認識できないであれば、彼女が魔法を使える可能性は極めて低い」
「そ、そんな……」
「でも……もし、もしセツが魔法が使えると仮定しよう。それを獣人族が誇る身体能力と組み合わせると、とんでもない戦力に成る事は確実だ」
ッ!?それは朗報だ。もしセツにはまだまだ強くなれる可能性が秘めているなら彼女の復讐も夢じゃ無くなる。セツの話と今朝方の出来事からすると、セツの復讐相手の数は尋常じゃない。しかもその中には相当な実力者が複数存在すると思った方が良いから、彼女手に入れる力は多い方に越した事は無い。
別に俺はセツの復讐に賛成したじゃない。でも俺は協力するって約束した、こうなったら共犯者に成ってやるよ。どうせ俺の目的にも一致するし。
「それです!」
突然、イジスがイリアの話を聞いた途端に叫んだ。突然の叫びに驚いた俺達を無視し、イジスは高いテンションで話し続けた。
「つまりセツさんは魔力の存在を認識できる訓練、ううん……特訓をするのです!」
「そんな特訓が存在するのか?」
「さー、私も分からないです」
……あの大和撫子なイジスが、何の根拠も無く爆弾発言を落とした!?そんなに弟子が欲しかったのか!?
「う~ん、やっぱり実戦ね」
「ちょっと待て!レヴィ、お前まで何を言っている!?」
「いやぁ~、私達は天性で魔力を認識できるから、具体的に魔力を認識する方法何て知らないよ。なら、生き物の能力が一番研ぎ澄ませる時って何時か分かる?」
「……瞑想の時?」
セツの答えを聞いたレヴィは人差し指を立てて、『チッチッチッ』って言いながらその指を左右に揺らす。何だか小悪魔っぽいニヤけた顔で自身の質問に答える。
「神経が一番研ぎ澄ませるのは自分の死が目前まで迫って来た時さ」
その答えを聞いた瞬間、俺は物凄く嫌は予感がした。何だよ!?そのニヤけた顔は!?何でお前はニヤニヤしながら俺の顔を見詰めるんだ!?まさか……いや、多分違うよな。でも、一応確認する、か。
「なぁ、レヴィ。お前まさか――」
「うん!やっぱりマスターは私が言いたい事が分かるね!そう、マスターにはセツさんと戦った貰います!」
「――やっぱりか!?」
止めてくれ……そんな満面の笑みで俺を見るな!これはあれか!?俺の訓練の成果を確かめる目的もあるのか!?有るよね!?
「って、お前もやる気満々かよ!?」
セツの意見を訊こうっと、彼女の方を向いたら昨日買ってあげた短刀が既に鞘から抜かれた!まさか戦う気満々のセツを見て、俺は思わず大声で突っ込んだ。
「なぁ、もっと別の方法は無いのか?」
「ふふふ。観念しなさい、マ・ス・ター」
「えぇー」
「「……」」
レヴィだけでは無く、イリアとイジスも無言で頷いた。はぁ~どうやら戦闘を避ける道は既に閉ざされたようだ……数日前で救ったばかりの女の子と戦いたくないんだけど、俺以外の皆が戦う選択しに満員一致したこの状況で反抗するのも無意味、か。
逃げ道が完全に絶たされた俺は渋々と≪冥獄鬼の鎧骨≫を発動した。
25日のクリスマスで皆さまにサプライズが有るかも知れませんッ!