第六十七話
もぐもぐと無言で焼きパンを食べてからやく5分が過ぎた。ソフトボールよりやや大きい焼きパンを四つも5分未満で全部食べる程空腹さったのか、こいつ?それとも、ただ単に大食いキャラなのか……いや、女の子に対して、そのような憶測は止めよう。
「未だ要るか?」
「……いいえ。ありがとうございました」
「どういたしまして。早速悪いが、何かあったか話しえくれる?」
「………」
「話したくないなら、それでも良い。でもその分、俺達からお前にこれ以上の協力はしない、名も知らずの赤の他人だ」
「……話したら?」
「場合によって、協力するかもしれない」
「……………」
まっ、当然じゃ当然か。名も知らない人に助けられ、寝所と食事まで用意されて、その挙句に自分にあった事を話すと言っている。戸惑うのも分かる。でもこれをしないと、知らずの内に危険な綱渡りみたいな状況に落ちる可能性は大いにある。俺は面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。でもそれ以前に、大切な人が俺の誤った判断で傷付けるの方がもっと嫌だ。残忍そうに聞こえるが……これは俺なりの、大切な人達を守る方法でもあり、決意でもある。
しかし、この話はどう見ても進める気がしないなぁ。仕方ない、ここは彼女に少し考える時間を与えようか。
「………ちょっと買い物に行ってくるから、その内で考えて。まぁ、お前をこの部屋に監禁するつもりはない。お前がここから逃げ――」
「もしっ」
折角彼女に時間の猶予を与えると思ったのに、急に大声を上げて、話を無理矢理中断させた。相当切羽詰まった声だな……これは一筋縄では行かないなぁっと俺の本能が言ってる。でもま、聞いたのはこっちだし、その責任はあるか……
「もし、何だ?」
「……もし、私が……話したら。何の得が、あるの?」
なるほど、そう来たか……同価交換。彼女が彼女の事情を俺達に話す代わりに、俺達からもそれと同じ価値を持つ物を要求する、か。確かにそれは取引の常識の一つだ。意外と冷静だな、この娘。
「そうなだ。当面お前の衣食住は出来るだけこっちが用意する。話によっては、お前を狙うものからお前を守る事や、お前の目的に協力する事の可能性もある」
「………」
「ああ、こっちもそんな大金を持っていないから、用意できる物はあんまり期待してね」
「分かった。でも、その代わりに……私の復讐に……協力、して?」
「復讐?」
「はい。実は――」
~
私はこの世界で一番大きい大陸、中央大陸の北側にある山岳地帯の村で住む白狼族の一人。自慢ではありませんけど、私はその村の中でも一、二を争う狩人の一人娘。私が生まれてから数年の月日が経ち、それ程裕福な家庭ではなくとも、それなりに幸せに暮らしてた。
でも、あることを発端に、私達のその幸せな日常が崩れ散った。
それは私がまだ五歳の頃、その事件が起きた。ある日突然、私の母が謎の病気に襲われた。母さんがその病気に掛かってからは体調を崩し、体の調子が日々悪化する一方であることは明白だった。それでも母さんは私達に心配されない様、元気に振舞っていた。
やがて、私が十歳の誕生日を迎える直前に母さんが謎の病気突然悪化し、ベッドから降りる事すら出来なくなった。そしてその二ヶ月後の夜、母さんの命の火が密かに燃え尽きた。
母さんを亡くした私は酷く落ち込んだ。真面な食事も取れず、まるで魂の抜け殻みたいに。ただ単に、母さんが死んでた部屋の中にボーっとするだけの日々が続いた。そんな何もしない期間の中、私はある事に気付いた。母さんが亡くなった後、狩から帰って来た父さんの体は少なからずの傷を負っている。しかもそれらの傷は塞げる前に新の傷が増えて、段々父さんの体は傷だらけに成った。私もその事を父さんに訊ねた――
「狩りの時に負った傷だ。大したことは無い」
――っと、当たり前な答えが返って来た。でも、父さん程の狩人の腕前をもってしても厳しい狩りだったのか?……………何とかしなきゃ。そうだ。母さんを亡くして、悲しく感じるのは私一人だけじゃない。私よりも長く、母さんと出会って、母さんと恋に落ちた父さんの苦しみと悲しみはきっと私以上。
「それなら、私がここで落ち込む訳にはいかない。私より苦しんでいる筈の父さんが頑張っているんだ。同じ家族だから、何とか父さんの力に成る」っという一心が私を救ってくれた、母さんを亡くした悲しみから立ち直れた。
そして数日後、私は父さんの役に立てるよう、村中を歩きながら考えた。でも良い案が浮かべなかった。どう考えても私一人の力だけじゃ何も出来ない。そんな時、私は村の村長に相談しようと決めてた。そう決まった私は村長の家まで足を運んだ。
村長の家に入る前、中から数人の話し声が聞こえて、つい好奇心で盗み聞きした。でもその話は私の想像も付けない内容だった。
「いや~まさかミアは魔族だったのぅ。シーラの野郎、奴は魔族である事を知って尚結婚したか」
「そうじゃろぅ、じゃが、攻魔病に襲われなかったら多分一生魔族である事を知るは不可能じゃの。まっ死んで良かったよ、そんな厄病神を村の中で暮らすの方がおかしい」
「で、シーラの方は如何する?彼はかなりの強者だぞ」
「心配でない、ちゃんと手を打っている」
「そうか。貴殿がそうなら心配ないの」
「ッ!?」
村長と聞き覚えのない男の人の会話を聞いて、私はつい息を呑んだ。え?どういうこと?ミアっと言う人は私の母さんだよね!?この村でミアと言う名を持つ人は母さんだけ。母さんが魔族だったのか!?魔族だからどうした!?何で母さんが厄病神になって――
「はぁ、はぁ、はぁ……」
――ダメだ、落ち着いて!息が荒くなっている、このままだとバレでしまう。一旦家に戻ろう。家に戻って、父さんに確認する。
息を整え、密やかに村長の家から距離と取った。他の皆に覚らな様、出来るだけ何事も無かったように、家の方向へ歩いた。でもやがて、歩くスピードが上がって、歩幅も広くなりつつある。そして気付いたらほぼ全力で走っていた。
一歩踏み出す事につれて、私の胸辺りもキュッと絞められているように苦しかった。まるで何かを拒絶するように、体中の毛が逆立っていた。そして、体が熱い。全身が炎に焼かれたようだ。
(何だよこれ!?凄く嫌な感じがする……お願い、父さん。無事に居て――)
恐怖と不安で心臓が潰れそうになっても、私はひたすら家に向かって走りながらそう祈った。