第六十一話
全身氷で凍らせた形で俺とレヴィの勝負は俺の完敗で幕を閉じた。レヴィは俺の降参宣言を聞いて、俺の体を封じる氷を解いた。その後は即反省会を開いて、この一戦にで見つけた俺の弱や悪い癖などを話した。
「先ずは良い所から説明するね」
「お願いします~」
「最初はもちろん魔力量ね。マスターから感じられる魔力量は普通の人間の数倍、もしくは十倍近くを持っている。それはどうやってそれ程なまでに増えるのかは分からないけど、さっきの槍みたいに、高威力な魔法をホイホイと使わない事ね。実際、マスターのその魔法はどれぐらいの魔力を使った?」
普段であの感じの槍を作るなら総魔力量の二割弱で出来るけど、今みたいに酸素と水素を特定に選んで、集める分の魔力を消費する。威力は高いが、連発は出来ない大技だ。
「ん~三割ぐらい、かな?」
「多い!? ……これは魔力の節約も視野に入れるべきね。でもま、当分の課題は魔力消費が激しい魔法をなるべく避けて」
「分かった」
「うむ、分ればよし!さて次はマスターの発想力と知識ね」
「というと?」
「逆に聞くが、マスターはどうやってさっきの大爆発を引き起こしたの?」
「ん?あれは大気中に存在する酸素と水素と言う名の可燃性が高く、非常に爆発しやすい元素を二つ集めてた。それを風の槍に混ぜて、レヴィに投げた。その槍が次に放たれた日の銃弾と接触し、圧縮した二つの元素が大爆発を引き起こした」
「二度目の爆発は?」
「風の槍を防ぐ為にレヴィは必ず障壁か何かの防御手段を取ると踏んで、敢えて温度が上がる攻撃を仕掛けた。その結果、第一の爆発で熱された空気が膨張し、レヴィの氷壁の周りの冷たい空気とぶつかって、さらに規模が大きい爆発を発生させた」
「でも、もし私が≪絶氷多層壁≫を使わなかったらどうする?」
「その時は第二の爆発を起こせなくとも同じ手で攻撃するつもりだぞ?でも俺はレヴィが氷壁で攻撃を防ぐとこを信じる。何せそのまま俺の攻撃を受けるのはお前にとってのリスクが大きい過ぎるから。しかも俺はわざと魔力を漏らして、風の槍の直後にもう一つの攻撃が待っていることを信じ込ませる。どっちが本命の攻撃が分からない時、大抵の人は必ずその両方、少なくともその一つを完全に防ぐ手段を取る」
「凄い!レイさん、そこまで考えていましたか!」
隣で話と聞くイジスがいきなり話に割り込んで来だ。彼女の高揚感に乗って、レヴィも自身が驚いたことを隠せなかった。そして呆れた顔で俺に問いかけた。
「今更聞くと凄いね、戦闘中にそこまで考える余裕あったの?」
「まさか。ただ≪思考加速≫のスキルを使っただけさ。そのせいで今でも頭が結構痛いけどな」
「……凄い。私が思った以上の機知性と対応性だ。これなら魔力節約の方法も夢じゃないね」
「そ、そうか?」
うん~褒められるのって、意外と照れるなぁ。しかもその相手はレヴィみたいな美少女なら尚更だ。これならスキルの反動の頭痛も甲斐があった!
「でもマスター。マスターのその知識はマスターの優位であり、欠点でもあるんだ」
「え?どういうこと?」
「ほら、さっきの魔法の連携で私をある程度のダメージを与えたと信じたでしょう?私が取った行動はマスターの頭の中に描いた通りで油断した?」
「う、うん」
「実は私は≪絶氷多層壁≫の発動後、もう一つの魔法を発動した」
「嘘っ!?」
ここに来て、まさかレヴィから衝撃な事実がっ!もう一つの魔法?全然気付かなかった…………あ、そっか。あの氷壁の魔力量が多すぎて、別の魔法の魔力を霞んでしまったか。
「その顔だと、魔法の発動に気付かなかった原因が分かったか。でもそれはどんな魔法までは分からないか?」
「……はい」
「ふふっ。あれは≪氷霧≫と言う魔法の上位交換版。ついさっき作った、私のオリジナルだからまだ名前は無いけどね」
「………………?」
「そんな不思議そうに頭を傾げなくとも説明するから。あれは≪氷霧≫、つまり冷気で濃い霧を創る簡単な魔法だけど。私はその中に無数な氷晶に魔力を集めた。低位な探知系スキルなら私が分身したように錯覚するだろう。でもマスターに効果は無さそうね」
「ああ、脳の負担を減らす為に使わなかった」
「それこそがマスターの弱点。自身へのリスクを最小限に止まることはいいけど、魔力消費が激しい大技を決めた敵は必ず倒れると限らない。今日みたいなケースの方が多いから、多少のリスクを覚悟しないと、折角のチャンスを失う事に成りかねない」
「……はい」
「そう落ち込むな。今日からは私とイリアさん、イジスさんの三人でマスターを鍛えるから覚悟してね?マ・ス・タ・―?」
「う、うん。頑張る。となると……」
「どうした?」
「いや、ちょっと『レヴィ師匠と呼んだ方が良いかもなぁ~』って考えてた」
「……レヴィ師匠?」
「あ、ごめん。嫌なら――」
何かレヴィが急に静かになって、もしかして不意に地雷を踏んだか!?っと思って、思わずレヴィに謝った。でも次の瞬間、彼女の顔が明るくなって、満面の笑みを帯びたまま、普段より数トーン高い声ではしゃいだ
「ううん。すっごく良い響きだったよ!そっかぁ、私はマスターの師匠になるのかぁ~。ねぇマスター、もっかい師匠っと呼んで」
「レヴィ師匠?」
「うん!やっぱり良い響きだ!」
「ええ~ずるい。私もレイさんを鍛えますから、私も師匠って呼んでください!」
「い、イジス師匠」
「わぁ~私もレイさんの師匠だ~」
あれ?イジスってこんなキャラだったけ?これまでのイメージは淑やかな大和撫子だった筈……そんなに師匠ていう肩書が好きか?う~ん、謎だ。
「雰囲気が良い所悪いが、数人の人間がこっちに来てる。恐らくはレイとレヴィの戦闘に気付いただろう。面倒事は避けたい、ここから密やかに離脱しよう」
「そうだね。そこまで派手に戦ったら嫌でも気付くだろう。マスターの訓練間ニューは宿屋に戻ってからにしよう」
「分かった」