第六十話
小山程までに積み上げた薬草を全部≪ディメンション・アクセス≫の中に入れた俺は皆の元に戻って、串焼きした魚を堪能した。何の調味料も使ってないから味の方は正直心配していたけど、意外と美味しかった。イリアとイジスは魔力だけ生存できたから今日のこの焼き魚は文字通り、最初に食べた物だ。一方のレヴィは封印される前、つまりは百年ぶりの食事だから随分とはしゃいでた。
「ここなら良いだろう」
「そうですね。ここなら誰も邪魔に入らないし、誰かに迷惑も掛け無いですから」
その後、俺達は密林から出て、近くにあった開けた草原までやって来た。これこそ、今日にやりたかった実験の第二段階でもあり、俺の一番の目的であった。そう、つまりは戦闘訓練だ。
今までの戦いでは臨機応変で戦い方を変え、ほぼほぼごり押しの戦い方で何とか乗り越えた。特定なパターンがないから他人からの情報でカウンターや対処策が見つけにくいのは良いが。その代わりに、特定な戦闘スタイルが無い分、危険な局面を出し抜ける必殺技みたいなものが無い。
大体必殺技は一つの技、または能力を極限まで研ぎ澄ませて生まれるもの。それが出来るのはある特定の戦闘スタイルか一つのテーマを寄り添って、もしくは一つの局面を打破する目的で作り上げた。ある必殺技は極めて尖っていて、条件とする局面が無いと使えないものも居れば、汎用性を重視し、いろんな場面でそれで切り抜けるものもある。
だから俺は一番の欠点たる戦闘経験の不足を補う為、今日で早くクエストを完成させてから自分のスキルと魔法を使い慣れるつもりだ。俺の計画を聞いたレヴィは自ら俺の相手をになると提案してくれた。彼女の理由としてはお互いの戦闘スタイルや癖、スキルと魔法の使用方などを見て、それらに慣れて欲しい。確かに、お互いの能力や癖などを把握しないと、今後の戦闘において連携が取れ辛い。ちなみにイリアとイジスは手出しはしないとの約束だ。
「準備は良いか、マスター?」
「ああ、何時でもいいよ」
「では、言葉を甘えてっ!」
俺とレヴィは少し距離を取り、各々の武器を構えた。レヴィは剣道の中段の構えみたいに自身(剣状態)を構えた。一方の俺は冥獄鬼の鎧骨を発動し、骨の手甲を纏った。レヴィはその言葉を掛け声として、一瞬で俺との距離を詰めた。
「ッ!?」
振り下ろした剣を前腕に生成された骨の鎌で受け止めたのは良いものの、剣を受けた左腕が僅かに痺れてた。彼女の細腕から出せる力だと信じられない。
「くっ!」
左腕に力を込めて、何とか力押しでレヴィの剣を弾けることに成功した。バランスを崩したレヴィは即座自分の態勢を調整し、両手で持っていたの剣を右手に持ち替え、再度振り下ろした。でも俺は彼女がバランスを崩したその一瞬に出来た隙を見逃せない!
剣を右手一つに持ち替えた事でそのの軌道が僅かにずらした。それを見越して、≪縮地≫でレヴィの右側まで移動した。その勢いに乗って、骨の鎌を思い切り薙ぎ払った。
「≪フロスト・スキャタショット≫」
「なっ!?」
俺の鎌がレヴィの体に触れるまで残り数ミリも無い間に彼女が左手を俺の頭を目掛けてかざして、魔法の名を唱えた。次の瞬間、無数の氷柱がレヴィの周りに生成し、俺に散弾銃の弾丸みたいに襲いかかった!
この距離に避けようがないっと悟った俺は一切の猶予も無く、≪思考加速≫のスキルを全開にした。元々このスキルはイリアと一緒に発動することによって、俺の脳への負担を減らせるんだけど。今はイリアが手出ししないから、ノーリスクで使えるのは約三割まで。でも今はそんな事を気にせる時間は無い!
この提案をしてくれた時、レヴィはお互いに手加減せず、殺すつもりで戦ると約束したから。勿論手加減してたらこの戦いは元も子もないから承諾してた。最初は俺を殺さない、ギリギリの所で止めると思ったけど、今の魔法に込められた魔力を感じて即その考えを捨てた。
頭が破裂しそうな頭痛をなるべく無視し、次のスキルの発動した。
「≪並列思考≫……からのっ、≪フォルテッザ・ディ・テンペスタ≫と≪ウナグランデ・テンペスタ≫!」
≪思考加速≫の効果によって、即座に暴風の障壁を作り、襲い掛かる氷柱たちを吹き散らす。大嵐でレヴィを吹き飛ばし、彼女にダメージを加えない分、その華奢な体のバランスを崩すなら容易な筈!
「きゃっ!」
可愛いらしい悲鳴を上げてたが、今はそんな事を考える余裕がない。今度こそ決める!
「≪暴風の覇鎗≫!ついでに≪圧縮強化≫!」
前回ディメンション・ウォーカーにトドメを刺す時の風の大鎌と同様、今回も風を極限までに圧縮して、一本の槍にした。その槍をレヴィに投げた!
「やるじゃないか、マスター。でも、この程度では私を倒せないぞ。≪絶氷多層壁≫」
暴風の覇鎗を防ぐため、レヴィは氷結魔法で氷の壁を数枚作った。その低すぎる温度は周囲の草にも一瞬で凍った。彼女から相当な距離の俺でも影響は有った。手足の指先の感覚が無くなって、全身の動くも鈍くなっていく。体の表面と周りの草は段々霜が出来ていた。でもこの状況下でも俺は思わず笑みを零した。
確かに、この槍は貫通力に長けていた攻撃だ。それを防ぐ為に複数の氷壁を作り上げた事も正解だ。でもレヴィ、お前のスキルの中でそれが出来るのは氷結魔法のみ。ならより一層頑丈な壁を作るためにはより多くの魔力を消費する。それにつれて、作った氷壁の温度も下がる。
教えてやるよ、レヴィ。その槍を作り上げたのは単なる風では無く、この一帯の酸素と水素である事だ!初めての火魔法だ、派手に行こうか!
「≪火の銃弾≫」
投げた風の槍の速度に合わなきゃ意味はないから、≪並列思考≫と≪思考加速≫でスピード重視の細長い、火の銃弾を作る。それほどに詰めていたなら、種火と成れる火はそれ程に要らない。
そして、風の槍と火の銃弾は同時に氷壁とぶつかった。その直後、物凄い爆発が起きた。先ずはパンパンに詰めた酸素と水素が引火し、爆発した。その爆発の炎がもたらす温度の急上昇は極限までに冷えた空気に触れて、空気を急膨張して、更なる大爆発を引き起こした。二つの爆発を伴って、凄まじい煙が周りを囲った。
「クソ、姿が見えない。でも魔力さえ感じられば――」
「≪フリーズ・ロック≫」
「なっ!?」
突然俺の背後からレヴィの声が聞こえて、振り向こうとした瞬間、俺の体は氷に包まれ身動きが出来ない状態になっていた。ニコニコに微笑むレヴィはそのまま、剣を俺の首筋の横にかざした。
「はい。これで終わり」