第六話
何だ、これ?スゲェ気持ち良い枕……って、あれ?俺は一体何をしたんだっけ?……確か、意味不明なところに起きて……狼の群れに追われて、めちゃ長い道を歩いてたら……そっか、俺……殺されたんだ、キメラに……
『――て』
ん?誰かが、俺を呼んでる、のか?誰だ……俺がいた場所に他の人は居なかった筈だ。駄目だ。眠すぎて、頭がうまく回らない。それに……体が、重い。
『――きて。ねぇ、起きて』
「!?」
脳に直接語りかけていると錯覚するほど、急に聞こえてくる声が大きくなった。流石にこの状況下で「後数分寝かせて」なんて、言える訳ない。いち早く状況整理する為にも、俺は謎の声に従って、重くなった瞼を開けた。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
俺を呼び掛ける人物に対して、こんな場所にいる現任に好奇心を抱き、警戒しつつ瞼を開いた。すると、至近距離で俺の顔を凝視する美少女の顔が視界に映った。
「…………」
いやいやいや。待て、待て。落ち着け……俺は確かに数多なゲームやアニメ、ラノベでこれまで人生を満喫したけど、目の前の女性はそれらに登場する人物と同等かそれ以上の美貌を持っている!まさに絶世の美少女!こんな人がリアルで存在して言いのか!?
「はっ!?」
あまりの衝撃で思考がはっきり覚ました。そんな俺はとある重大な事実を判明した。女性の顔との距離にこの角度、ほのかに漂っている良い匂い、そして頭の後ろの極楽な感触……これは所謂、膝枕なのか!?
「いやらしい思考が駄々漏れですよ」
「!?ご、ごめんなさい!今すぐ退きますからっ!……あれ?」
「無理しないで、お前は一度死んだ。体調はまだ万全ではない筈」
「そうだ!あのキメラは!?」
「落ち着け。ほら、そこだ」
彼女が指さす方へ向くと、俺を殺したキメラはいくつもの楔に身体を貫かれ、その血と思しき水溜まりの中に倒れている。幾つもの部位の欠損やその出血量、素人の俺でも絶命したことは分かる。
俺を瞬殺した化け物をどうやって倒したのだろう?彼女の顔以外は見えないけど、恐らく返り血一つも浴びていない。まぁ、こんな場所で一人にいる時点に普通ではないけど、その実力は間違いなくキメラを遥かに凌駕する。下手に発言すると、その時はまぁ間違いなく殺されるけど……こんな美少女の手によって殺されるのも全然あり!
「言っておくけど、アレを殺したのはレイ、お前だよ」
「は!?いやいやいや。俺は殺された筈……だよね?」
「はい」
「そうだとしたら、何で俺がまだ生きている?あのキメラを殺す事も出来ないじゃないか?」
「ほう、アレ名はキメラだって、良く知っているな。ま、お前の質問を回答するには少々時間が掛かるけど、良い?」
「はい、どうぞ。あっ、その前に、俺を座らせて。このままだと格好悪いから」
「分かりました。無理しないでね」
俺は彼女の支えで何とか体を動かし、彼女の正面に座った。重ねて言わせてもらう……この娘、めちゃ可愛い。髪は薄い紫のストレイトなセミロング、丈が短くて真っ白なドレス、右は紫で左が蒼い左右不対称なオットアイ。決めつけはまるで芸術作品から出て来たよう、文句が付けない程に整った顔。今まで俺はこんな絶世の美少女の膝枕の上で寝てたのか!?我が生涯に一片の悔い無し!
「……コホン!先ほどの質問ですが、全部私の仕業です」
「はい?」
「順に説明するね。先ず、そこのクリスタルは私を封印する為の装置です。私は昔、一つの罪を犯した」
「罪?」
「……ごめんなさい。それはまだ言えない。で、そのクリスタルを触ったお陰で私の封印が弱まって、自力で脱出できた。お前が死ぬ直前の霧はその時の副産物みたいなものだ」
霧?必死とは言え、まさかそんな大きな変化すら気付いていないなんて……
「そしてお前が死んで、私はお前に私の力を渡した。その力でお前を蘇らせた。流石にその状況で無意識のお前を見捨てる事もいけないから、私がお前の体でそこに寝転がっていたキメラと戦った」
その後、少女は俺を操って、キメラと戦った事を俺に語った。