第五十六話
ギルドマスターの部屋から出た俺達は馬車内に積んでいる大量なマナクリスタルを受付カウンターへ渡した。そのカウンターの担当がマナクリスタルの量と質を確認する為、入り口と反対側の別室に籠っていた内に俺の冒険者登録を済ませた。てっきり昔で読んでいたラノベみたいに、冒険者として登録する為はテストを幾つかをクリアしたいの行けないと思った。でも実際はテストどころか、個人情報の幾つかを受付の人に伝えて、冒険者登録の証たるギルドカードを受け取れば済む。
個人情報と言ってもただ名前と年齢、得意することの三つだけが聞かれる。しかも〝得意すること〟の質問は答えたくないでも良いらしい。こんな雑な情報だけで良いのか?っと疑う気持ちを抱いてながら質問を答えく。まぁ、質問が少ない分、俺の正体がバレ難いから逆に助かる。因みに、〝得意すること〟の質問に対しては風魔法と答えた。
それらの質問を答えてから約十分後、受付の人から一枚のカードを受け取った。彼曰く、このカードこそがギルドカード。リサさんに言われた通り、このカードを持ったままギルド所属の店と宿等に行って、それを示すとある程度の割引が貰える。しかもこのカードは一種の身分証明にも成れるから国境を越える時や何処かの町に入る時の入国費を免除出来る。確かにこのカードは便利だけど、このカードの上には名前と所属するギルド名、冒険者ランクしか書かれていない。もしこれが盗まれた時の対処方は如何なの?っと聞いたら、彼はこう答えた。
「それなら心配ありません。ギルドカードの表面は粉末状なマナクリスタルに覆われている。最初に手に入れた人物の魔力を吸収し、持ち主として認識する。例え盗まれたとしても、その魔力が合っていない限り、このカードは何も示さない。ただの白いカードになります」
『確かに、この方法なら確実だね』
いきなりイリアが念話で受付の人との会話に割り込んで来て、思わず声を上げたくなったけど、何とか抑え込むことに成功した。
『びっくりしたぁ~。でも何でこの方法で確実になるんだよ?』
『それは人一人が持つ魔力の波長が異なるんだ』
『魔力の波長?何にそれ?』
『そうだな……本来一個体の体内に生成された魔力はその個体特有の波長を持つ。そのせいでこの世界の住人は双子ですら、全く同じの波長を持つことは無い。それは種族と関わらず、人間だろうと、亜人だろうと、魔族ですら例外じゃない。まさにその個体のアイデンティティとも言える』
『つまり指紋みたいなものか……うん、これなら安心だ』
「どうかしましたか?」
おっと、また念話に夢中になってしまった。これは結構面倒な問題だな……イリア達の存在を他人にバレたくないし、かつ24時間実体化を維持できる魔力量に足していない。大罪悪魔たるレヴィは悪魔らしい特徴がないので、その魔力さえ隠すことが出来るなら擬人化して遊べる。
でも当面の問題はやはり仲間と念話で会話する同時に周囲の人とのコミュニケーションを取りたい。今みたいに、他人との会話をシャットアウトする状況に成りかねない。今後の為、特にお偉いさんとの交渉の為にも早く解決したい。
「ごめん。つい考え事が……」
「そうですか。説明の続きをしても宜しいのでしょうか?」
「あっ、はい」
「では次は冒険者ランクのですね。先ず冒険者に登録した人は身分や地位など関係なく最低ランクのFから始まります。その上のランクに上がりたい方はクエスト、所謂依頼をこなして、ポイントを稼げます。そのポイントが一定の数まで溜まっていたら上のランクに昇格できます。ただしCランク以上は試験を受けないといけません。その試験で合格したら次のランクに昇格できます。もし失敗した場合はランクが落ちることは無いので、そこはご安心ください」
「因みに、最高ランクは何なのかって聞いて良い?」
「はい。最高ランクはSランクですね。今世界中の Sランク冒険者は30人も居ません。何せSランクまで昇格出来る方達は物凄い功績を立ち上がらないといけません」
「そうですか~」
「これで一応基本の説明が終えました。また何か聞きたい事が有りますか?」
「ん~今は無いかなぁ。今後に何か分からない事が有ったらその時で聞くよ」
「はい。問題ありません」
受付から必要最低限の情報を聞き出し、調査隊の皆が座っている食堂の方へ向かった。人混みから何とか抜け出して、ケーヌ達が居るテーブルまで行った。そこで彼らは報酬の金とマナクリスタルを分けていた。その際、アマンダさんが俺に気付いた。
「あっ、新人君!こっちこっち!」
「ああ、レイ君お帰り。今私達はちょうど報酬を皆に分けたところなんだ」
アマンダさんに釣られ、ケーヌも俺に声を掛けた。その〝お帰り〟って言い方はやめてくれる?まるで結婚したばかりの妻が仕事帰りの夫を出迎える時の台詞じゃないか!?
そのツッコミも言える間もなく、ケーヌが小さな革袋を俺に渡した。その革袋を受け取った瞬間に中身は相当積もっていたことがすぐに分かった。
「ほれ、これがレイ君の報酬だ」
「こんな量は受け取れないよ」
「何を言ってるんだ?レイ君が私とアマンダさんの命を救った人じゃないか?レイ君がいなければ私とアマンダさんはもうオークマジシャンに殺されたころだぞ」
「そうだよ新人君。これは貴方が受け取るべき量だ」
二人の言葉に困惑した俺はつい他の隊員の顔を見たけど、誰も反対や不満そうな顔をしていなかった。彼らは寧ろ「そうだぞ、受け取れ!」と言わんばかりの顔でした。
「……でも俺は既にレヴィを手に入れたんだ。この剣を貰って、それ以上に報酬を受け取れないよ」
「なら聞くが、新人君は今晩寝れる所が有るの?」
「……………無いけど?」
「もう宿代は確保した?」
「……………まだだ」
「それなら尚更受け取りべきだよ!」
「でも俺は――」
「まぁまぁ、俺は私達から感謝の意として受け取ってくれ。その剣はレイ君がオークマジシャンを倒して、手に入れた戦利品だ。倒したモンスターの報酬はそれを倒す者が貰う、それが常識だ。でもこれは調査依頼の完了と私達から感謝の気持ちさ」
「そうだぞ、受け取りな!」
「ボクなら遠慮しなく受け取るよ」
「それとも君は私達の仲間じゃないの?」
と調査隊の皆が次々と同じような笑いながら言葉を発していた。皆は俺をこの金を受け取りたい。この金以上の報酬は既に手に入れていた事を知っても尚そう言ってくれた。確信はないけど、八割以上の確率で俺の顔は今徐々に赤くなっている。
「皆、ありがとう。ありがたく頂戴しますねっ!」