第五十四話
イリアのお陰で水晶玉の犯罪履歴検査から無事逃れた。その後は再度馬車の中に入り、ケーヌ達と一緒に巨壁の中へ入りました。無言のままに走る馬車は意外と目立たなかった。何故なら、俺達が乗っている馬車以外にも数台の馬車が入れ替わるように通っているからだ。
「凄い数の馬車だなぁ」
「レイ君には初めて見るかもしれないけど、ここはこれが日常なのよ」
「うそっ!」
「本当の話さ。何せ、ここら辺一帯は商業区と呼ばれてね。色んな店が並んでいるから、世界各地からやって来た商人達がここに集まるんだ」
「……本当だ。よく見たら人間以外の種族も沢山歩いている」
「だろう!私達は亜人を差別せずに交易をやるから、色ん物資が簡単に手に入れるんだ」
俺がリルハート帝國の都の街風景に関して所で御者さんが、自慢げに説明してくれた。彼の口調から祖国への尊敬とそれにてする誇りが伝わって来る。つい心の中で「良い街だなぁ~」と思った。そしてイジスからも――
『ええ、そうですね。ここの人達から全体的に平穏な雰囲気が伝わってきます』
――っと言ってくれた。確かに、このまま久しぶりの平穏な街中の景色をもっと堪能したいが、御者さんに訊きたい事はまだ一つ残っている。
「そう言えば、俺達は何処へ向かっているんだ?まさか宮廷とか言わないよな?俺はまだ王族や貴族に対する礼儀作法を知らないけど……」
「ははは。その心配は無いよ。私達が向かっているのは商業区の中心部分、冒険者ギルドだから」
「冒険者ギルド?まずは調査結果を報告しなくって良いの?」
「だから報告に行くよ?ギルドマスターに」
「ギルドマスターに?王様にじゃくって?」
「そっか。レイ君は知らないんだ。あのね、他の国では分からないけど、リルハート帝國では場合によって、ギルドマスターは帝王と同じ権力を持つ」
「マジで!?」
「ええ。それに、今回の調査依頼は実際、ギルドマスターからの依頼でもあるし」
「へぇ~」
「だから私達が最初に報告し――っと話をしている内浮いたぞ。目の前に見える大きな建物が冒険者ギルドだ」
話の途中に突然、前を指さした御者さんの視線を辿り、とある建物が見えた。煉瓦で造られた壁に木製の扉と窓で造られて、二階と三階の中間部分には一つ大きな看板が建てられた。その看板には一列の文字が刻まれて――
『読めない……』
『「冒険者ギルド」って書いていますよ』
『へぇ~』
『でもマスター、何で私達と普通に会話できるのに、この世界の文字が読めないの?』
『そう言えば……何か知ってるか、イリア?』
『今の段階では何も言えないね。確実の証拠はまだ無いから』
『そうですか……ん?呼んでいますよ、レイさん?』
『え?』
イジスに言われ、即座に意識を仲間との念話から現実に切り替えた。そこで見えてきたのは、馬車か降りて、何度も俺に呼び掛けた御者さんの姿であった。
「レイさん、聞いています?」
「あ、ああ。悪い、ちょっと考え事をしてた」
「冒険者ギルドに着いたから、早く降りてください。それと、あんまりボーっとし過ぎるなよ?これからギルドマスターに会いに行くんだから」
「へっ!?ギルドマスターに!?」
「そりゃ、私達の依頼主だからさ」
何この急展開!?いきなり冒険者ギルドのギルドマスターに会いに行く何って、そんな大物と会う為の心の準備はまだできてないんだけど!?
そんな俺の心境を察したのか、御者さんは明るく笑いながら俺にこう告げた。
「ははは!そう緊張するな、ギルドマスターって大層な肩書を持つだけで、実は面倒見のいい人なんだ。元々冒険者って言うのは〝自由に生きる〟を志した者が多い。だから堅苦しいのが嫌いな方が多い」
「そ、そうなんだ……」
「まっ、会えば分かるさ」
と言う訳で、俺は僅かな不安を抱えながら先頭に率いるケーヌ一行の後を追い、冒険者ギルドに入った。三メートル程の高さを誇る木製の扉を押して、ギルドの内側が目に入った。馬鹿広い室内には大凡三つの部分に分かれていた。
まずは右側には一、二、三……五つの色に分かれていた大きな掲示板が並んでいた。その掲示板の向う側、つまり左側はどうやら食堂になっていて、美味しいそうな香りが漂ってくる。当然と言うべきか、食堂の方は明らかに賑やかだった。よく見ると、数多くの人が食事を取る光景の中に、真っ昼からお酒らしき物を豪快に飲んでいる者もある。そして、最後にはこの二つの部分を素通りすることが出来る廊下みたいな道が有った。
俺達はその道を歩き、その最奥には大きな柱が一本、ど真中に立っていた。その柱を囲むよう、数人が柱の前の円形なカウンターに座っていた。ケーヌは何の迷いも無く、その内の一人の元まで歩いた。俺達も無言に、ケーヌの後ろに付いてた。そして、自分に接近するカウンター奥のおっさんがケーヌに語り掛けた。
「おっ!ケーヌの旦那じゃないか!例の調査はもう終わったのか?」
「ええ。それがその報告書だ」
「ああ、いや。これは直接にギルマスへ渡してくれないか?」
「確認しなくって良いの?」
「ケーヌの旦那だから。勿論信頼するよ。報酬の方もギルマスから受け取れると思うぜ」
「そうか。ありがとうな」
ケーヌの奴、結構信頼されているね~依頼完了の報告書も見ず、直接にギルドマスター会えるなんって。っと、無駄な事を考える中、ケーヌが俺達の方へ振り向いた。
「聞いた通りだ。三階のギルマスの部屋に行くぞ」
突然言い出したケーヌは俺達を連れて、柱の隣に設置された階段を登り始めた。その時、俺は不意にある事に気付いた。
「なぁ、ケーヌさん。こんな大人数に入っても良いのか?」
「ん~。ギルマス室は結構の広さを誇るから、大丈夫よ」
階段を登り切れた俺達の前に現れたのは一つの扉であった。
「さぁ、ここがギルマスの部屋だ」
ごっくり。普通、ゲームやアニメの中のギルマスは相当の実力者で、世界の強者と並べる実力か頭脳を持つ印象が有った。この世界のギルマスはいったいどんな人なんだろう?ケーヌがその扉と開いたのと同時に、緊張と期待でつい生唾を飲んだ。