第五十三話
ゲーム内で良く出てくるアイテムボックスって言う便利能力と同じ効果のスキルを持って着る事が発見した日から一週間以上の日々が経った。ディメンション・アクセスの発見から元気を取り戻せ俺は他のスキルを機会が有れば試せた、が。これと言った新発見は見付かれることが出来なかった。
やがて、取り戻せた元気も消えてた。願わくば、道中に野獣かモンスターに出くわしたかった。その方なら何とか退屈さを凌げた。しかし現実はこの時に限って、野獣どころか、大型の犬以上の生物の影すら見えない程に平穏なものだった。何も出来ずに馬車の中で座るだけの日々が続き、俺はもう何日が経ったのかも分からなくなった。
そんな時、俺にとってはまるで数ヶ月砂漠で彷徨う罪人がようやくオアシスを見付かった時の希望と喜びのお知らせが聞こえた――
「おっ、ようやく見えてきた……レイ君、外をご覧。あそこに見える高い壁に囲まれた都市が私達の故郷、リルハート帝國の都だ」
俺が座っていた馬車の御者さんの声が聞こえた。彼の声に従い、馬車の窓から頭を伸ばせ、彼が指差した方向に視線を向けた。そこには彼の言う通り、聳え立つ巨壁に囲まれた何かが居た。その何かの中心部分には高い塔らしき建物が立っていた。距離はまだまだあるから良く見えないけど、その規模は相当大きかった事はよく分かった。あれがリルハート帝國の都か~壮観だな……
「ん!?リルハート帝國の都!?」
「うわっ!?……ビックリさせないで下さい、レイ君。いきなりどうした?」
「俺達が居た遺跡はメルシャー村の付近に居たよな?」
「付近まで言える程近かったじゃ無いけど……そうよ」
「そこはフロッテ王国とテバス王国が戦争を始めようとした場所、つまりはリルハート帝國の外、だよね?」
「そうよ」
「それじゃ、俺達は何時国境線を越えた?」
「……あははは。何だ、その事か?」
俺の質問を聞いた御者さんは一瞬「何を言ってるんだ、こいつ?」みたいな顔をしたけど、その直後で俺の質問の意味を理解したかの様、面白げに笑いながら俺の質問を答えた。
「四日前だよ、国境線を越えたのは」
「四日前!?何で俺は知らなかったんだ?」
「はは。そりゃ、レイ君が昼寝の最中だからさ」
「昼寝?……ああ、あの時か」
そう言えば、俺はスキルを試すの諦めかけた頃に二、三回ぐらいに眠気に負けたことは未だ朧けに覚えている。恐らくその内の一つで国境線を越えただろう。
「レイ君、国境線でやりたかった事でも有ったか?」
「いや、ただ国境を越えた経験が無くって。ちょっと気になって……」
「なるほど。でも実際になんも変わらないよ?特に大袈裟な目印が設置しない限り、気付かない内に通る方が多い。勿論、私達みたいな軍の関係者や商人たちなら例外だけどね」
「そう言うものなのか?」
「そう言うものさ。ほら、あと数時間をすれば都に着くから。もう少しの辛抱だ」
~
その後、俺達の馬車は三時間弱で巨壁に辿り着いた。近くに見た分、目の前に聳え立つ巨壁は更にその壮大さを感じる。十メートル以上の高さを誇る鉄色の巨壁の下側に高さ三メートルぐらいの扉が所々に有った。その大きさ故、正確な数字は分からないが、俺達に居る位置から見る分、三つ程の扉が有った。
その内の一つは両脇の二つよりも豪奢な造りになっていた。その真ん中の扉から入るかと思いきや、俺達は突如に右折し、右側の扉に向かっていた。
「あれ?真ん中の扉からは入らないの?」
「それは帝王の出張か、大型の進軍の時ぐらいしか使わないよ。それに、商業区に直通しているこの扉の方は今回私達の目的と一致する」
「なるほどね~」
俺は御者さんと他愛もない会話を交わす内に、ケーヌが乗っている先頭の馬車が件の扉に着いた。その直後、扉の向こう側から兵士数人が出迎えて来た。それに伴って、ケーヌも馬車から降りて、彼らと何らかの言葉を交わした。その後、兵士の一人が俺が居た馬車まで歩いてきた。
「あなたがレイ様ですね?ウィル様からお聞きしました。しかし、念のために犯罪履歴を調べていただきます。同行をお願いします」
「……分かった」
俺はその兵士の後ろに付いて、ケーヌと他の兵士が待っている扉の前までやって来た。その内の一人はとある大きめな水晶玉みたいなマナクリスタルを持ち出していた。
「では、レイ様。こちらの水晶に手をかざしませんか?」
「これは何なんだ?」
「こちらは手をかざした者の犯罪履歴を調べることが出来ます」
「ッ!?因みに、これはどういう仕組みだ?」
「このマナクリスタルは犯した罪によって色を映し出せる。無罪なら白。軽犯罪、例えば二、三回の盗みなら緑。その順に青、黄色、そして赤と変わります。連続殺人犯や国家級の犯罪者なら黒に成ります」
水晶玉を持っている兵士の言葉を聞いて、俺は思わず息を呑んだ。もしあの占い水晶玉みたいなマナクリスタルは本当に人一人の犯罪履歴を調べ、映し出せるのならば、最悪リルハート帝國に入られないどころか、ここに居る全員と戦闘する羽目になる!この水晶玉のどの基準で犯罪に成るのかは分からない。でも、殺人は立派とした犯罪だよな。仕方ない……
『なぁ、イリア。その水晶玉の結果を操れるか?』
『できます。あのマナクリスタルに仕込まれた魔法式は感情検査、記憶抽出、読み取れた情報を光魔法への変換魔法と結果を映し出す光魔法。記憶抽出に細工すれば誰でもできる』
『そうか。ならそうさせてくれ』
『レイ?』
『レイさんは昔、何かの罪を犯したか?』
『……マスター』
『悪い、今はまだ皆に話せない。少なくともこの中に入って、誰も居ない所まで行かないと……』
『……分かった。その理由はなんにせよ、今の私達はレイの味方だ』
『……ありがとう』
現実の時間で二秒も満ちなかった念話が終え、俺は兵の言う通り、彼が持っている水晶玉に近付き、右手をかざした。その直後、俺の右手から何等か魔力が流れ込み、数秒後に水晶玉が白い光を放った。
「問題ないです」
「そうか。それでは、レイ君。君を改めて歓迎するよ。ようこそ、リルハート帝國へ!」