第五十一話
第三章スタート!
物語の都合上、少し短めです。ご了承ください
――神教国ラスミス・地下礼拝堂の一室
真っ白なローブを纏った四人の老人が地下にある部屋の中に置かれた白亜色の円卓を隔むように座った。それぞれの表情が今回の会議の深刻さを物語っていた。その四人は一番奥に置かれた、誰も座っていない椅子を無言に見詰めていた。そんな静粛な空気を破ったのはその地下室に繋ぐ分厚い扉が開かれた音だった。空いた椅子に向けられた四人の視線はその音と伴って、一瞬で開かれた扉から入って来た女性に移った。
「遅くなって申し訳ありません。神父様、大司教の方達」
部屋内の張り詰めた空気を諸ともせず、詫びの言葉を発した女性は座っていた四人と異なり、所々に金属製の装飾品を修道女らしき衣装に着けた、十代後半か二十代前半の容姿を持った麗しい女性であった。
「よい。巫女様も神託を受けたばかり、もっと休息を取るべきかと」
「私の心配は要りませんわ。大罪悪魔が解き放たれた今は休息より、ソレの対策を練るべきですわ」
「……分かりました。では巫女様、席を取ってください」
「うむ」
巫女と呼ばれた女性と言葉を交わしたのは神託が下された直後、最初にその情報を得た神父だった。彼女は神父に促されて、奥の椅子に腰かけた。
「では……今より嫉妬の大罪悪魔、及びその封印を解いた者の対処を決めよう」
~
――大罪悪魔・レヴィアタンが封印された遺跡周辺 【レイ視点】
「やはり、これ以上の成果は得られないか」
時は夜の八時前後、俺達調査隊はレヴィが封印された遺跡の外で夕食を取っていた。その最中、ウィルの口からこんな一言が漏らした。確かに、俺がレヴィの封印を解いた後も調査が続けていた。
大罪悪魔に関する事の一つも知らされていなかった調査隊の皆は何事も無く、初日みたいな調査を続けていた。隠し扉に繋がる部屋以外の遺跡の調査は三日目で終わった。次の四日目と五日目は隠し扉の向こうの調査を励みたいとのことだ。しかし、レヴィが解き放たれた後の遺跡の役名は終え、その機能を失った。
隠し扉の部屋はまだ残っているが、その扉は既に崩れ落ちた大岩に塞がれた。一日に掛けてようやくその大岩を排除出来たものの、件の扉は何をされてもビクともしない。俺が≪看破の魔眼≫でこっそり調べた結果、その扉に仕込ませた魔法式は跡形も無く消えた。つまりこの扉は俺の魔力もレヴィの魔力を流し込んでも開かない。当然、調査隊はこの事を知らないが、自らはこの事態を打破する術を持たない事を自覚した。この結論に辿り着いたのかついさっき、五日目の正午の事であった。
「ウィル隊長、これからはどうしますか?」
「そうだな~私的にはここで諦めたいところだが……君たちは?」
「そうですね。あの石扉を動かす術を持たない我々にその奥に行けないし、いいんじゃないっすか?」
「僕も賛成~」
「諦めるしかないさ。それに――」
「そんな大量な高質マナクリスタルを手に入れたんだ。それでいい成果を得たさ」
ウィルの意見を反対する者は一人も居なかった。正直、俺はこいつらはもっと凹むと思ったんだが……流石は長年こういう仕事やってきた彼らこそ、これ以上は時間の無駄だっと勘付いたか。まっ、俺にとっても好都合だ。
「俺にも問題ないよ」
「満員一致か。それじゃ、予定より少し早まるけど、明日で戻るか?」
「「「「はい!」」」」
こうして、俺が加った遺跡調査は幕を閉じた。その夜、俺達三日前と同じで、決められた順番で臨時拠点たる馬車を見張った。深夜に成った今、本来なら俺一人で見張る予定だったが……
「何でウィルさんがここに居るの?」
「ははは。まるで私がここに居て駄目みたいなセリフだな」
「いや、別にそうじゃないけど。ウィルさんは明日も指揮を執るのでしょう?ならもっと休息を――」
「なぁ、レイ君。君は本当に私達と一緒にリルハート帝國まで行くのか?メルシャーの村まで送れる事も出来るぞ?スケジュールが早まった事だし、皆からも文句はない筈」
「良いよ。メルシャーは生まれ育った故郷でもないし、何か大きな未練も無い。ただ旅の途中で会った村の一つに過ぎないさ」
「そうか。なら私からは何も言うまい。帝國への道は二、三日は掛かるが……帝國に着いたら暫く君の世話をするよ」
「本当ですか!?ウィルさん、ありがとう」
「ふふ。気にしなくって良いよ。私達は同じ調査隊の仲間だし、君だって私とアマンダさんの命の恩人だから。何かしらの恩返しがしたいんだ」
「ウィルさん……」
「ふわ~私は眠いからもう馬車に戻って寝るよ。君も頑張りすぎるなよ」
その一言を残して、ウィルは馬車へ戻った。残された俺はイリア達に念話を飛ばした。
『何か、ウィルに悪い事をしたね』
『そうですね。レイさんが自らの恩人に勘違いしました』
『確かに……いつか償いしよう』
『そうだな。そうしようか』