第四十六話
「た、大罪悪魔って…君が?」
「そうよ。でも正確には嫉妬の大罪悪魔だけどね」
「待ってくれ!貴女は本当に、大罪悪魔なのか!?」
ダンジョンの最深部で急に現れて、自分がかの大罪悪魔だと自称したら、そりゃ誰しも信じないわな。しかもその自称大罪悪魔の張本人がこんな可愛らしい、十代後半な女の子なら尚更だ。でも、レヴィアタンって言う名前は確かキリスト教の〝七つの大罪〟では、嫉妬を司る悪魔とされている筈……
イリアの疑いに頬をで膨らませて、自身の不満を露にした謎の少女。
「失礼ね。私は正真正銘、嫉妬の大罪悪魔だよ!貴女こそ誰よ?」
「今は私のことどうでもいい!」
「全然良くないよ!ね、マスター、この女は一体何者なのか、説明してください」
「二人とも落ち着けって!」
「「こんな状況で落ち着けられる訳ないだろう(ないでしょう)!」」
……同じタイミングで突っ込むか。こいつら、本当に仲悪いの?それに、俺にはまだ自称大罪悪魔の少女に、一番気に成った疑問を問いかけようとした。
「それにさ、俺も実際のところ、君の事……えっと、レヴィアタンだったけ?」
「気楽にレヴィで呼んで良いのよ、マスター」
「じゃ、レヴィ。俺はまだレヴィの事を詳しく知らないんだ。そもそも、何でレヴィは俺の事をマスターと呼んでいるの?」
「へ?何で…って言わるも何も、私の封印を解いたのはマスターだから」
「……封印?何の事?」
「あれ、もしかしてマスター知らないの?私達、大罪悪魔の正体?」
「んん~ごめん、ただ凄く強い悪魔だけしか知らないんだ」
「ああ、なるほどね。でもそこの貴女は知っているみたいだけど――」
それを言って、彼女ことレヴィはチラッとイリアの方に視線を向けた。でもその直後はまるで何か面白い事を考え付いたのか、それとも諦めたのかは分からないけど……微笑むながら俺の方に視線を戻した。
「――まっ、良いけどね。そうですね……まずは私達の歴史から説明しようか、マスター?」
「頼む」
~
レヴィが大罪悪魔の歴史を説明してから約数十分が経った。
ふむふむ。事情は良く分からないけど、大他の事は分かった。レヴィの話を略すると……大罪悪魔は元々先代魔王が先代勇者に討伐される直前、自らの魂を八に分かれた。その内の七つは自身のスキルで七つの武器として作った。最後の八つ目はどうやら唯一の肉親である妹の方にくれたらしい。
その七つの武器は魔王自らの魂で創れたから、莫大な力を有してた。しかしそれらは人間に裏切られた魔王の憎しみと言う名の呪に掛けられた武器でもあり、悪魔。それらを手に入れた者は種族問わず、必ずに悲惨な死を迎える。やがてその七つの武器は〝大罪悪魔〟そして、世に知れ渡った。
そして月日が流れ、魔王は殺された。魔王の転生や蘇生などを防ぐ為、勇者の一味は神の力を借りて、魔王の死体を知らぬ場所に封印した。残された大罪悪魔達も詩文たちは何の目的に生まれた事すらしらないまま、次々と勇者とその仲間に封印された。
「なるほど。それでイリアがそんなにレヴィの事を警戒していたのか?」
「そ、そうよ!私だって、レイを死なせたくないから!」
「確かに私達を手に入れた者はすぐさま理性を失い、欲に呑まれて死に行くけど、それは私達が意識的でやった事じゃないわよ!」
「貴女がその呪を制御出来ないなら尚更レイを危険な命に晒す事に成るんだ」
「……」
イリアの追撃に反論できず、少し涙目になって俯いた。両手は震えながら強く握りしめた。どうやら呪に関して、この娘も凄く後悔している様だな……
「なぁ、レヴィ。あと一つ、聞いていいか?」
「な、何?」
俯せた顔を上げて、自分が大丈夫ですって精一杯演じるレヴィだが……若干目が赤く、目尻の方も僅かに涙が溜まっていた。ちッ!こんな彼女を見て耐えず、俺は思わず心の中に舌打ちした。今すぐ彼女を慰めたい……でも俺にはまだ一つ、彼女に聞かねばならない事が残されている。それを確認しなければ……
「さっき、俺がレヴィの手にした瞬間、何か走馬灯みたいに流されたイメージが見えた。あれはもしかして――」
「ええ、私達の創造主、先代魔王の残留思念……簡単に言えば先代魔王の記憶だ」
「つまり、先代魔王はアレを体験した?」
「ええ、それはその時の記憶だから」
「……そうか」
その走馬灯な記憶は余りにも断片的過ぎて、全体の話までは分からない。でも、もしそれが本当に先代魔王の記憶で、俺が感じたのはその時の感情だとすると……余りにも悲しい過ぎる。
その時見た記憶は今だ鮮明に覚えている。それを思い出すと涙が自然に零れ落ちるような悲しさが襲い掛かる。奥歯を食いしばって、俺はレヴィの頭まで手を伸ばした。
「マスター?」
「大丈夫だよ。俺は決してお前を一人にしない、決してお前を悲しまない、決して裏切らないから。お前を握るこの手は決して放せないと誓う。だから、今は泣いて良いのよ。今まで我慢してきたその涙は今日ぐらい出して良いんじゃないか。俺も男だから、そのぐらいは受け止めてみせるさ」
「……本当?」
「ああ、勿論だ」
「私、武器なのに……感情持つの、出来ない、から……」
「お前は武器だろうと、悪魔だろうと……俺には関係のない事だ。俺にとって、お前はただ一人の女性だ。それによ、お前は俺の事をマスターと呼んでいるだろう?もしお前は本当に俺俺の事をマスターとして見ているなら、マスターを信じ、その命令に従う筈だろう?」
「まっ、マスタぁぁぁ!」
俺の許可を得たレヴィは俺の服にしがみ付けて、大声で泣き崩した。こんな時、俺にできる事はその震えている小さな体を安心させる為に強く抱きしめ、その頭を出来る限る優しく撫でる事しか知らない。
~
【第三者視点】時間を少し遡って――
「大丈夫だよ。俺は決してお前を一人にしない、決してお前を悲しまない、決して裏切らないから。お前を握るこの手は決して放せないと誓う。だから、今は泣いて良いのよ。今まで我慢してきたその涙は今日ぐらい出して良いんじゃないか。俺も男だから、そのぐらいは受け止めてみせるさ」
レイが事一言をレヴィに言った瞬間、少し離れた場所でその二人の見詰めるイリアがレイを止めるべく、飛び出そうとしたが……
「何をやっている、イジス!?私を放して!」
「……もし私が放したら、何をするつもりですか、イリアさん?」
「それは勿論――」
「レイさんを止めるのか?」
「だってレイを――」
「死にしたくないですか?でもねイリアさん、貴女はもうちょっと惚れた相手を信じるべきではないか?」
「ほ、惚れたって!?」
「隠すのは無しですよ。それに、イリアさんはあんな顔をした少女をみたら無視で来るのですか?」
「そ、それは……」
「ふふ。大丈夫ですよ。レイさんはそんな簡単に死なせないと言った方が正しいでしょう?」
「……はぁ~分かったよ。イジスに信じるよ」
「ふふ、ありがとう」