第四十五話
残った全魔力を込めた風の鎌を思いっきりディメンション・ウォーカーに振り下ろした。極限まで圧縮された大嵐に纏って、巨大化した鎌は何の抵抗も無く、ディメンション・ウォーカーの胴体を真っ二つにした。この一撃で魔力を使い果てて、もう立つ余力も残さない俺はディメンション・ウォーカーの血の海に倒れ込んた。
「はぁ、はぁ、はぁ……流石にこれで、終わったか」
「ええ、ディメンション・ウォーカーの気配は完全に消えたので、もう命は無い」
「しっかりしてください、レイさん」
「はは……無理、言うな。今は…立つことも、出来ないや」
「完全に魔力枯渇の症状ね。それに、酷い傷だわ」
「ちょっとイリアさん、私に見せてください……治りかけた傷が悪化したいます!だからあれ程無茶をしないと言ってましたのに!」
「……ごめん」
「もう良いですから。喋らないで下さい、治療を再開します」
パリン、パリン、パリン――パシャン!
「ッ!?何事ですの?」
まるで鎖が引き千切れてたような音が突如に鳴り響いた。次の瞬間、盛大に水飛沫ならぬ血飛沫を上げて、頭上から何かが降って来た。今だに起き上げれないまま、頭を横にずらして、ソレに視線を向けた。
「……剣?」
「何で一振りの剣が上から落ち来るのですか?まさか天井にぶら下がったのって――」
「そうらしいね。さもないと、現状を説明するのは不可能だ。兎も角、今はレイの治療が先だ。あの剣の事は後回しでもいい」
「分かりました」
~
謎の剣が降って来てから、約二時間が経って。それまでの間は指一本動かず、血の海の上に倒れた状態でイジスの治療を受けていた。正直、血の鉄の匂いは得意じゃないけど、今日からは大分克服したとも言えるな。もしここが異世界じゃ無かったら、この耐性が‘どこで使えるんだって話になるけど。まっ、そもそも地球でこの量の血の中に倒れること自体が不可能か。
ともあれ、万全では無いけど、俺はようやく自力で立てる程度まで回復した。そして現在、俺は二時間ほど前に降って来た剣の前に立っている。その剣の刃は深く、床の中まで指しているから全体の長さが分からない。それでも、その柄と鍔の模様からすると、結構の価値が有る剣だと推測できる。ゴックリ、と生唾を飲み込んで、右手をその剣の柄まで伸ばした。
「んじゃ、抜くよ」
「気を付けてね」
「分かった。ふ~よいっしょ!」
足腰に力を込めて引き抜こうとすると、案外あっさりと抜け出すことに成功した。てっきり、凄く固いと思い込んだ割には楽だった。
「うお~……綺麗」
その刃は白亜色で薄く、青色の魔力が漏れている。その全長は百センチ弱だった、剣にしては相当長い部類に入るのかな?そのデカさと裏腹に、片手で持っているにもかかわらず、あんまり重量が感じられない。そして、この剣の最大の特徴はその美しさにいる。剣から溢れている魔力からその持ち感、全体の配色まではその美しさに貢献していた。
―― 一人ぼっちな少女。虐めされて、血まみれの服を着た少女。無理やり泣きながら離された二人のシルエット。
「ッ!?」
剣を引き抜いた直後、凄まじい目眩が俺を襲う。思わず頭を押さえ、両目を瞑った状態で膝についた。閉じた筈の視界が突如、走馬灯の様に流れるイメージによって塗り潰された。
「「レイ(さん)!」」
「大丈夫だ。少し目眩…だけだ」
「…本当に大丈夫なのか?」
「レイさん、まさか傷口がまた開いたのですか?」
「特に異常はないよ?一体どうしたの?」
「だってレイさん、泣いていますから…」
「え?」
イジスに指摘されて、俺は自分の目を辺り触った。そして、そこはイジスが言った通り、濡れていた。しかも、俺の頬まで垂れてた程に……
「…本当だ。何でだろう?」
「剣を抜けたちょぐごの出来事を詳しく説明して、レイ」
「そうと言っても…ただ目眩が起きて、何か変な走馬灯みたいなイメージが見えただけで」
「イメージ?それは何のイメージなのか分かる?」
「いや、それが全然――」
『それは先代魔王の記憶の断片だよ、マスター』
「ッ!?誰だ!?」
「レイ、いきなり如何した!?」
「二人とも、聞こえないのか?」
「何か?」
俺の質問を聞いて、イリアとイジスも何か不思議そうにお互いを見た。どうやら、この声は俺にしか聞こえないらしい。それ以上の問題はこの声の主は敵か味方かが分からない点だ。一応口調から敵意はないけど。謎の声の事を考えて、夢中になった俺はとあることに気付いた。
「あれ?あの剣は?」
「あれ、さっきまでレイさんが握っている筈なのに?」
「初めまして、マスター!先ずはダンジョンクリアおめでとう~」
大罪ダンジョンの最深部に相応しくない明るくて、元気いっぱいな声が俺達の後ろから聞こえた。声の元を辿り着いて、後ろへ振り向くと、一人十代後半の姿をした少女がそこに立っていた。彼女の身長は俺より低く、約160センチぐらい。整った五感に黒いロングストレイト、瞳の色と同じ色である水色のドレスを纏ってた。そして、彼女の一番の特徴はおでこから小さな黒い角二つ、生えていた。
「マスターの質問を答える前、先ずは私の自行紹介からしましょう。私の名はレヴィアタン、このダンジョンに封印された大罪悪魔の一人。以後よろしくお願いしますね、マスター」