第四十四話
「≪スペル・ディスターション≫」
イリアがその一言を発した直後、紫色の血管らしき線が一瞬で敵の巨体を張り巡らされた。そして、その血管が一斉に光り出して、爆発した。それと伴って、大量の鮮血が破裂した血管から噴き出した。悲鳴を上げる間も無く、後ろに倒れた。ディメンション・ウォーカーが倒れたことを確認して、俺はイジスを抱いたまま、イリアの元へ駆けつけた。
「お疲れ様、イリア」
「うん!作戦成功だね」
「えへへ~」
「本当、あの炎のブレスに入った瞬間は終わるかと思ったよ~そう言えば、イリアのその技は何なんだ?」
「…知らないのに、作戦を組めたか?」
「いいや。大体の効果は分かっているけど、具体的に何があったのかは……」
「呆れた。どんだけの無茶を。まぁ、今更だけど」
「それで、何をした?」
「奴の魔力回路を破壊した。その反動により、破壊された魔力回路から溢れ出す魔力が体内を無尽蔵に駆け巡った。行き場所を失った魔力はやがて持ち主の体から抜け出す為、無理矢理出口を作った。簡単に言うと、相手の魔力量が多ければ多い程、ダメージを叩き出せる。あ~、あと魔力回路を破壊された者はもう二度と魔法を使えない」
「待て待て待て!魔力回路?何それ?」
「ん~簡単に言えば、血管みたいん物です。但し、その中に流れるのは魔力だけどね」
「そう、イジスの言う通り。魔法を扱える者にとっては不可欠のだ」
「物騒な技だね。ところで、さっきので殺った可能性は?」
イリアの説明を聞き終えた頃、未だ起きない巨体を見詰めながら、そいつの生存状況をイリアに確認した。
「それは無いと思う。種族は不明とは言え、≪時空渡り≫の使用とその体型、恐らくは竜族だ。一、二を争う生命力の持ち主たる竜族がこの程度の攻撃を倒せるのは考え難い」
「どちらにせよ、この隙に仕留める方が得策です」
「そうだな」
イジスの助言を受けて、俺は骨の鎌を構えて、巨体の首ら辺まで跳んだ。いくら冥獄鬼の鎧骨で生やした鎌と言えど、こいつの肌(鱗?)に守られた太い首を一撃で切り落とすのは無理がある。だから一度ある程度の高さまで足場を作って、力を蓄えた。
「悪いな。特に恨みは無かったけど、ここで消えて貰う」
一応形式上は俺達がこいつの縄張りに侵入した事に成るから、いくら攻撃されたのも、俺達のせいだ。せめて苦しまない様、一瞬で終わらせよ。心の中で目の前の敵に謝りりつつ、鎌が生えてる右手を高く上げて、足場を勢いよく蹴った。それと同時に鎌を振り下ろす――
「なっ!?」
――大量な鮮血が三度噴き出した、振り下ろした鎌と共に。でも、敵はまだ生きてる。
「こいつッ、自分の手を犠牲に!?」
「レイさん、早くそこから離れてください!」
「ちッ!わか――」
そう、ディメンション・ウォーカーは振り下ろした鎌を片手でその軌道を自分の首元からずらした。つまり俺は斬ったのは首じゃ無く、ディメンション・ウォーカーの片腕だった。仕留めなかったディメンション・ウォーカーから距離を取り陣形を立て直そうとする瞬間、振り向いたら一つの壁が俺の前に突如現れた。
――ドォォォン!
「「レイ(さん)!」」
クソォ、イッテェな。天井から降って来た瓦礫を退かしながら、立とうとした。しかし――
「く!」
――俺は立つことが出来なかった。霞む視界の中でイリアとイジスがこっちに駆け付けた事は何となく確認できた。
「大丈夫ですか、レイさん!?」
「ああ、≪思考加速≫のお陰でギリギリ強化魔法が間に合った」
「それなら良いだけど……その足でろくに動けるの?」
「左足の骨が折れただけだ、まだ一本は残っている。今はそいつに集中しよう、治療は後にしてもかまわない」
「……分かりました」
「そうですね。相手の命も虫の息だけど、何故か徐々に回復している。殺るなら今の内よ」
「元からそのつもりだ。正直、俺の魔力はもう残り少ない。だから、次の一撃に賭ける。いや、次の一撃で仕留めて見せる」
「それにしても、何故私達がここに居るのに、攻撃して来ないの?」
「恐らく≪スペル・ディスターション≫で視界を奪われただろう。例え竜族であろうと、目は生物共通の弱点、一番柔らかい部分の一つでもあるから。となると、聴覚も奪われたと見て良い」
「視覚と聴覚が無い状態でレイさんの攻撃を凌いだのですか?」
「ああ、とんでもねぇ化け物のは確かだ。イリア、そいつが俺の攻撃を躱す方法は分かるか?」
「多分は魔力感知だろう」
「なるほど。なら二人とも、俺のサポートをよろしく」
「「はい!」」
イリアとイジス、二人の心強いサポート返事を聞いて、俺は一直線でディメンション・ウォーカーに疾走した。その際、俺は必要最低限の魔力を消費し、とある魔法を行使した。
――うおぉお!
イリアの推測通り、接近する俺の魔力に反応したディメンション・ウォーカーは残った左手で俺を叩き潰そうとした。瀕死の状態なのに、さっきまでの速度より早くなってないか!?その一撃ですでにボロボロになった地面を更に壊した。その風圧で部屋中に吹き荒らした。ディメンション・ウォーカーの上斜め後ろに居る俺はチラッとイリアとイジスの方へ向くと、物陰の後ろに隠れてて見えない。でもまぁ、イジスが有るから大丈夫だろう。俺の魔力を見失ったディメンション・ウォーカーは動かくまま、周囲を警戒していた。
――グォォ!?
「別に驚く事じゃないさ、≪風の幻影≫」
さっき俺が使った魔法は風の塊を作って、魔力探知する敵の注意を自分から逸らす、いわば俺の影武者な存在だ。
「今度こそ終わりだ!≪風魔の死鎌≫!」