第四十三話
ディメンション・ウォーカーと疑わしき敵の水と雷のコンボ技を紙一重で躱した俺達は暫く風の足場で空中に滞在した。空中に居る為、俺は足場維持の代償、魔力を使い続けている。しかもイリアとイジス、二人を担ぐ状態にいるから、あまり動き過ぎて、更に体力を消耗したくない。そして事態を悪化するかのように、さっきまでの戦闘と罠回避の疲労が無情に集中力を削れていく。それでも、今の俺が考える最良の手を二人に伝えた。
「駄目です!レイさんの作戦はリスクが高過ぎる」
「やるしかないだろう?今の俺じゃノーリスクであの化け物を倒せる自信が無いんだ」
「それでもっ!」
「心配しないで、イジス。私が必ず成功させますから」
「……イリアさんがそう言うのなら、信じますけど。でも万が一の時はダンジョン攻略を諦めて、地上に戻る事で良いですか?」
「ああ、もしこの作戦が通じないとなら、ここは俺達にとっては早いって事さ。その時は大人しく撤退する」
「約束ですよっ!」
珍しくイリアでは無く、イジスがこんな心配症に成るなんて。普段ならこの場合はイリアが俺の無茶な作戦を心配して、止めようと提案する筈なのに。こんな強気に俺の無茶を付き合うイリアは初めて見なぁ。でもイジスはが心配する理由も分からなくも無い。受けた傷と疲労が限界まで溜まっていた事は尚更だけど、今の俺の魔力量はもうすぐ底に尽きそうだ。長期戦は出来る限る避けたい。
「すぅ~、はぁ~」
俺は目を閉じて、荒れる呼吸を落ち着かせ、緊迫した脳と心を何とか冷静さを取り戻せた。自ら視覚を遮断して、聴力と≪気配感知≫、≪魔力感知≫を研ぎ澄ませた。
――僅かな波の音、天井近く宙吊り状態の何かの気配、俺達三にの魔力と気配、鉱物が炭化した匂い……
クソ、居ない。いや、未だだ。必ず出現する時に何かの兆しがある筈だ。もっと、もっとだ!もっと研ぐ済ませろう!スキルでの気配察知が出来なくても、音で判断しろう。
背中に背負っている即席の革袋からを手探りで一つ小さなモンスターの骨の欠片を取り出し、二つの指で挟んだ。指に力を込めて…弾く!
テッ、テッ、ポツン!
――反響する波の音に骨の欠片が壁にぶつかる音が混じった。
集中しろ、この音を無駄にするな。
――第一反響、第二反響、第三反響……
やっぱり第二反響以降は聞き取れ辛い。やもえぬ、聴力強化。よし、これで。
――第四反響、第五反響、第六ッ!?
第五と第六の反響の交差点に僅かに音がずれた……
「レイ!後ろに――」
「此処だろう!」
イリアの警告が来たのと同時に、第七反響目はその位置にだけ、まるで空間が切断されたかの様に途切れた。間違えない、こいつが異次元の扉を開く所の空間は途切れているのだ!
そうと確信した俺は出せる最高のスピードでそこまで走った!クソ、夜目のスキルを持ってもはっきり姿が見えない。それでも相手は西欧竜と同じ長い首と巨体のシルエットぐらいは見えた!
「イジス、ブレスが来る!」
「はい!≪リパルス・バリア≫」
イジスの掛け声と共に、俺の前には半透明のバリアが現れた。ブレスのチャージが終えたディメンション・ウォーカーはその口を開けた。そこから真っ赤の炎の壁が俺達に凄まじい勢いで迫って来た!一瞬、横に跳んで回避しようとしたが――
「怯えるな!相手に体当たりする勢いで突っ走れ!」
「ッ!?どうなっても知らんぞ!」
――イリアに止められた。そのまま、煉獄の波に突っ込んだ。熱い!死ぬほど熱い!強化魔法を全身に掛けなかったら死んでた。一秒一秒が一時間みたいに長い。体はもう長く持たない……もっと、速く!もっとだ!体はどうでもいい!体に使う強化魔法の八割りを足に集中しろ!残ったのを肺に回せ!
本来なら高速で移動する風圧から身を守る為に掛けた強化魔法。でも今は前方にイジスが張ったバリアが居る。それが全部の風圧を消せる。どの道、この煉獄の中で熱さ対策の強化魔法なんて無意味!考えるべきことは一刻も早く脱出する!肺が灼熱の空気を吸って燃えていなければ、即死は無い!
「うおおおおお!」
雄叫びを上げて、俺はようやく煉獄の波の中から脱出した!そこから脱出するまでの所要時間は四秒、でも俺は五時間近くと体感した。ブレスを放ったディメンション・ウォーカーはその前足を動いた。薙ぎ払いか!?ちッ、攻撃面積が大きすぎて何処に避け――
「足を止まるな!」
「ああ、もう!分かったよ!」
そうさ。俺達はこの賭けに乗ったんだ。今更逃げる訳、無いだろう!?再びイリアから勇気を貰った俺は薙ぎ払って来る前足を無視し、ディメンション・ウォーカーの本体の方へ加速した。自身へ向かって来た小さなを追撃するべく、前夫を薙ぎ払いはもう当たらないと悟ったディメンション・ウォーカーはその手の軌道を変えた。でも、俺達の方が一方速かった!
――ドォォン!
イジスのバリアがディメンション・ウォーカーの巨体と激突した!その爆音が鳴ったと同時に、薄い緑色の半透明なバリアが噴き出す鮮血で真紅に染めた。≪リパルス・バリア≫、即ち拒絶する結界はその名の通り、触れた敵または攻撃の勢いをそのまま返す結界。つまり、迫って来る攻撃の速度と強さが高ければ高い程、返すダメージもそれに応じて強くなる。
そして、この結界はもう一つ使い勝手のいいところがもう一つあった。それは俺達が今見せた様、敵を攻撃を待つのではなく、こっちから敵にぶつかる事で同じ効果を発動させる。
――ごぉぉぁあああ
悲鳴に成らない声を上げたディメンション・ウォーカーは胸元が大きく抉れてた。衝突の慣性でバランスを崩し、後ろに倒れかけている。
「今だ。私を投げろ、レイ!」
「ああ、頼んだぞ。≪フォルテッザ・ディ・テンペスタ≫、≪ブラスカ・アヴァンツァー≫!」
冥獄鬼の鎧骨を纏った右手をカタパルトみたいに、嵐の鎧をイリアに掛けて、風魔法の推進力を加えた右腕を振り下ろした!砲弾の如くに飛んだイリアは間もなくディメンション・ウォーカーの巨体に接近した。本来であれば激突する羽目になる筈だったけど、嵐の鎧でその衝撃を緩めた。
タイミングを見計らって、イリアが勢いを失いかけた頃に、彼女の足の下に風の足場を生成した。それ片足で蹴ったイリアは右手を前に出したまま、再びディメンション・ウォーカーへ接近した。そしてその手がディメンション・ウォーカーに触れた瞬間、イリアは技の名を告げた……
「≪スペル・ディスターション≫」
あと少し戦闘シーンが続くので、ご了承ください。