第四十一話
「何でだよぉぉ―――!」
暗闇に踏み入れた俺達はようやく最後の部屋に入って、ダンジョン制覇も目前まで来たと思いきや……絶賛自由落下中という状況に成った。盲点だった。ここまでの道のりであれ程の罠を潜り抜いたんだ、何故俺は最後の部屋も当然罠が敷かれているっていう事に気付かなかった!
「やばいぞ、レイ!このままじゃ私達、落下の衝撃で死ぬぞ!」
「分かってる!この下に毒沼とか、剣山とかは!?」
「無い!」
「ちっ!≪エーリアル・フロート≫!」
俺は落下速度を減らすため、上昇気流を作った。これなら……
「この程度では足りません、もっと威力を上げてください!」
「嘘だっろ!」
「レイ、ここの引力は外の倍ぐらいだ!嵐じゃない限りは無効だ!」
「馬鹿を言うな!それ以上の威力を出せたら、地面と激突する前に、風圧でズタズタに引き千切れて死ぬぞ!」
「大丈夫、私達は一旦実体化をを解くから!レイは冥獄鬼の鎧骨を発動して!」
「イジスの結界は!?」
「無理です!私の結界で包んてこの速度で落ちたら、岩盤まで貫きます!」
「クソッ!どうなっても知らねぇぞ、冥獄侵食。続けて…≪ウナグランデ・テンペスタ≫!」
二人の指示通りにスキルと魔法を発動した。先ずは全身を骨の鎧で包んで、以前チェイサー・ハウンドに使った全力版の大嵐を唱えた。
「くっ!」
まるで台風の中の落ち葉みたいに、上も下も知らない程に飛ばされて約十分、俺はようやく暗闇の底に落ちた。風の威力で結構ダメージを受けたけど、冥獄侵食を纏った陰で受けたダメージを最小限まで抑えたから骨は折れていない。まぁ、何もせずに落下して死ぬより
はマシなんだけど……
「重傷は無いみたいね」
「他人事みたいに言うなよ、イリア」
俺が無事着地し鎧を解いた直後、さりげなく実体化したイリアとイジス。
「仕方ないですよ、レイさん。あれを遣る以外、私達が生存出来る保証はありませんから」
「……それはそうだけど」
「そう凹むな。先ずはここから登る方法を探せば?多分私達、六キロ以上の高さから落ちたから」
「六キロ……」
自分で体感したとは言え、いざ数字で表すとなると、随分と驚く数値だな。しっかし、良く生き延びたな~
つい無意識に落ちた穴を上向い形で見詰める俺は視線を目の前の二人に戻した。そこで俺はイリアは俺と同様に上向くの状態にいる事に気付いた。でも彼女は俺が開けた穴では無く、高く宙吊り状態の何かを見詰めていた。そんな彼女はふいっと、俺とイジス微笑むながら言葉を発した。
「さ、あと一息だ。頑張って上に上がれる方法を見付けるよ」
~
それから俺達はモンスターハウスの時と同じ、イリアのスキルを頼りに進んでいる。たったの違いはモンスターハウスに一切の明かりが無く、完全なる暗闇の中である事に対し、ここは微弱であるが、光はある。何せここはマップ上も分かるが、結構の広さを誇る空間だ。そんな高く吊り下げられた微弱な光源は無いに等しい。
「伏せてください!≪リパルス・バリア≫」
「ッ!?」
キィィ――ン
何時の間にか俺の後ろに両腕を高くかざしながらバリアを張ってたイジス。次の瞬間、甲高い音と共にイジスの結界何かとぶつかり、火花を散った。直後、凄まじい風圧が俺達に襲い掛かる。そして――
ゴォォォオオオン
――俺達が立っている所以外の床が抉れてた!そして横には野太い棒か何かが謎の水飛沫と一緒に降って来た。一体何に襲われた!?全身から冷や汗が噴き出す程の存在感の化け物がこんな近くまで迫って来たのに、俺とイリアが全く反応できなかったぞ!慌てて脳内マップを確認したけど、俺達の後ろに何かが有るのは確かだ。しかし次の瞬間、マップ上の表示も深海数千メートルの水圧以上の殺気は嘘のように消えた!
「何だよ、今の――」
「レイ、前だ!」
「ッ!?≪フォルテッザ・ディ・テンペスタ≫!」
イリアが警告した瞬間、目の前が眩しく光った。直感で身の危機を感じて、咄嗟に暴風の障壁を作り上げた。その直後、俺達の視界は真紅の炎に覆い隠した。暴風の障壁は炎の侵入を拒んでいるが、周囲からの熱気だけで普通の人間を数回殺せる。
「また消えた…」
イリアはそう呟いたと同時に視界を覆い隠す炎も同じく消えた。俺達は無事にいれるが、周囲の床は無事では無かった。抉られた場所もあるし、熱で溶けた場所もある。今でも尚燃えている所も多々ある。足場は少し心配するが、未だ鎮火しない炎のお陰で視界は大部良くなった。
「ん?これは……」
先まで気付かなかったけど、最初に降って来た何かは俺の足元に転がっていた。障壁内にあるから、そのせいで燃えなかった。それを観察するべく、顔を近付いたら――
「これ、血か!?」
――凄まじい鉄の匂いが俺の鼻腔を襲った。あの液体は血だったのか!
「これは指ですね」
「指!?このサイズで?」
「はい。私の結界に触れて千切ったと思います」
「この指……まさか。いや、でもそれ以外は――」
「イリア、如何した?」
「いや。これはあくまで仮説だけど…もし本当だったらっ!?」
「この気配!何処だ!?」
消えた筈の気配と殺気が再び現れた!でもその気配はあまりにも大きくて、正確な位置までは感知できない。マップ上も俺達の近くに居るって表示されたけど…あれ程の巨体を見失うはずが――
「上か!?」
考えた事と魔力の塊が頭上に現れた事が一致した。あいつの姿を確認するべく、上を向いたが、そこにはバチバチっと数千、数万の雷を一つの大きな玉に凝縮だれた青白い塊だけが見えた。そして次の瞬間、その塊は二倍の重力で俺達の方に落ちて来た!
「しまっ」
「やばいっ」
「間に――」
コンマ数秒の出来事だった。上向きで見た光景はコンマ数秒後で白に塗り潰された、ダンジョン内を響き渡る爆音と共に……