第三十八話
イリアが開いた扉を潜り、俺達は再び果て知れずの廊下を歩き始めた。前の部屋の階段と同じ青白い火が付いた松明で照らされている、石造りの廊下。勿論俺達はここに入る前、ケーヌ達に掛けた高濃度の酸素タンクを解除した。俺達の目的はあの二人を危ない目に合わせたくない為に気絶するだけ。もし酸素タンクを解かないと、あの二人は重度な酸素中毒で死ぬから。それこそ本末転倒だ。
「しっかし。これはまた、随分と長い道になりそうだな~もしかして俺、長い道を歩くしかできない運命なの!?呪なの!?」
「そんな呪は存在しない」
「しっかりしてください、レイさん!レイさんはメルシャーで普通の道で歩きました、他国の指揮官を攫った時もそうです!だからそんな運命じゃありません!」
余りにも退屈で少し冗談を言うつもりだったが、イリアとイジス両目から容赦ないツッコミを受けた……って言うかイジスのツッコミからは少し毒舌っぽさを感じるなぁ。無自覚?ともあれ、俺達はこんな会話を交わしながら廊下を進んだ。ちなみに、イリアとイジスは実体化していた。まさに『両手に花』っていう状態だ!数年間引きニートを続けた俺ながら、偉い!
「止まって!」
先頭に率いるイリアが突然、声を上げた。突然の出来事に対処できず、俺とイジスは一瞬戸惑ったけど、イリアが次に発した言葉で彼女が取った行動の理由を悟った。
「罠だ。恐らくは落とし穴の部類」
手軽く説明し終えたイリアはそこら辺に転がっていた小石を拾い、目の前の床に投げた。
――ゴロゴロ…
小石が固い床の上に転がり、その音は廊下内に響き渡った。しかし、ここは廊下と言うよりはトンネルに近い。そのせいで小さな音でも遠くまで響く。以前次元の狭間でチェイサー・ハウンドに追われた時から響き渡る反響音に少しのトラウマが……
でも今回はイリアとイジスも居るし、俺も昔よりも強くなった。しかも今回はモンスターの襲撃では無く、落とし穴の罠だ。イリアは俺達にこの先に進まない。となると、この先は罠に掛かるから。逆に言うと、俺達が現在に立っている所は安全だ。
次の瞬間、イリアが投げた小石はどこかに消えた。ここは青白い火に照らされたとは言え、視界はあんまり良くない。それでも何とか床に穴が開かれたことは確認できた。その穴まで近付いき中を覗いて見ると、漆黒の穴の底から無数の槍みたいの物が上向きに配置された。
「落ちたら即死だな」
「ありがとうございます、イリアさん!」
「気にする事じゃないさ。それより、ここからは私が先頭を率いる」
「……イリアの反応からすると、この先にはまだ罠が仕掛けられていた事か?」
「はい。私がここで確認できる罠だけで百を超えた」
「ひゃ、百ですか!?」
「はい。恐らく奥に進むと更なる数の罠が待ち受けている。だから私は実体化したままで進む。魔力が尽きそうな時は言ってくれ」
「分かった」
「ふふ、たまにはレイの前で格好いいところを見せないとね」
俺はイリアの提案賛成すべく、彼女に力強く頷いた。するとイリアは「任せてください」と言わんばかりの笑みで答えた。
イリアの≪全方位探索≫でこのダンジョン内に設置された罠を全て見つけ出せるチートスキル。しかもイリア曰く、スキルと魔法の決定的な差は魔法を使用する際に魔力を消費することに対して、スキルの使用はその代償となる魔力消費はない。あるとしたら、それは発動する為の条件だ。つまりイリアはノーコストで常時≪全方位探索≫を使用可能。そのスキルで集まった情報を≪マッピング≫と≪念話≫で俺とイジスに伝わる。
それなら何故イリアはわざわざ実体化した?っと言う疑問が浮かべると思う。一番の理由はこの三つのスキルを駆使して伝えた情報は大体の位置しか示せない。あと何歩歩けば罠に引っ掛かるのかは脳内マップを集中することしか確認できない。この危険地帯で一つの事に集中し過ぎると周りに潜む危機を察知できなくなる。次に二つ目の理由はあくまで推測で俺個人の願望でもある。即ち、イリアは俺の前に自分の良いところをアピールしたいっと言う願い。
それから俺達三人はダンジョンの奥に進んだ。順調までは行かなかったけど、大きな問題に出くわした事も無かった。ただ一々罠を避ける為、時間は相当掛かった事もあり、何より体力がやばい。そして俺達は現在、ダンジョンの中層ぐらいの位置に居て……
「さて質問だ、レイ。お前は罠を避け続け、安全けど長い道を進むか?それとも大量なモンスターと戦い、リスクは高いが目的地まで短い道を選びたい?」
「何だよ、いきなり?」
「私達がこの先に進むと道が二つに分かれた。その一つは大量のモンスターが集まった部屋、モンスターハウスが有る。もう一つは捻くれた道に無数の罠が設置されている。さて、どれにする?まぁ、答えは聞くまでも無いけど……」
「勿論モンスターハウスの道だ。これ以上歩いたら俺の精神が持たん。ここまで貯めてきたストレスを一度発散したい」
「私も賛成です。それに、倒したモンスターの肉も非常食として使用できます」
「そっか。なら付いて来て」
俺とイジスの意見に従って、イリアは目の前の岐路で左に曲がった。俺とイジスも彼女の後ろに付いて、同じ道で曲がった。さーて、散々罠を避け続け、クソ長い道を歩いて貯めてたストレス、容赦なく発散させてもらうぞ!