第三十話
~第三者視点
レイはイリアの作戦の準備が整えた後、≪マッピング≫からの情報を頼りに、巡回するテバス軍の目を潜り抜いた。流石に十数人の目を潜り抜くのは相当大変で、スピードが遅いけど、レイは確実に目標のテントまで着々と近づいている。
数十分が経て、レイはようやく目標のテントの裏側まで辿り着いた。幸い、そこにはそこそこ大きな岩や低い灌木が幾つかあった。レイはその中の一つの後ろに姿を隠した。近くに巡回する兵が居ないことを確認したレイはイリアに念話した。
『ここまでなら……』
『そうね。では、接続開始……終わったわ』
『そっか』
イリアから作戦成功の合図を貰ったレイは素早く隠れ場所から出て、テントの裏を冥獄鬼の鎧骨の刃で切り裂いて、その切口からテントの中に入った。
テント内の三人は既にトランス状態にいた。レイはその三人を次々に気絶させた。いくらトランス状態にいても、万が一目覚めると厄介な事に成りかねないから念には念を入れて。目標はあくまでも指揮官のセノルズ・チェヴリツァだけであるため、兵士ではないから。一応この二人の命は取らなかった。当のセノルズにはまだやってもらいたい仕事が有るから生かしている。
そのまま気絶していたセノルズを背負って、レイは静かにテントを出た。今回の目的地はリルハート軍の元では無く、この二つの地点離れている山脈地帯にある。
~レイの視点
『もうここまで来れば良いだろう。イリア』
『接続解除』
目的の山麓に着いて、俺はイリアのスキルを解除するように頼んだ。イリアのスキルから解き放たれセノルズの意識は戻り、目が覚めた。一瞬、自分は何処に居るのか困惑していたけど、目の前にいる俺に攫われた事を気付いたセノルズは腰に結んだ剣を引いた――
「なっ!?」
「悪いな。ここに来る途中にお前が持ってた武器を全て捨てた」
――筈だった。
そう。俺はここに来る途中、イリアに彼が持っていた武器や暗器を見つけ出し、それら全部を捨てた、たった一つだけを残して。自分に抗う術がない事を悟ったセノルズは俺を睨みながら言葉を発した。
「…貴様、私に何をするつもり?」
「そう警戒するなよ。ただお前に協力したい事が一つあってね」
「協力、したい事?」
「そっ!お前がここに着た理由は大凡把握している。それを踏まえての頼み事だ。どう、理解した?」
「ッ!?貴様、フロッテ王国の人間か?」
「いや、違うな。まっ、俺の身分は一旦置いといて……俺はお前にフロッテ王国に連絡を取れたい」
「何馬鹿な事を言うか、貴様!」
「どうせ、お前らはここで戦をするつもりだろう?なら敵陣に自分のスパイを送り込む筈だ。もし、俺はそのスパイ達の正体が分かって、そいつらお前が率いる部下達の命を今すぐにでも奪うことが出来ると言うのなら……如何する?」
「なっ!?は、張ったりだ!」
「ほう~信じられないか?でも現在、お前は自覚していない内に攫われた。俺にそれほどの力が有るって事を証明するに、十分だろ?」
勿論そんなの嘘だ。俺はテバス王国のスパイ何て知らないし、今すぐにこの地にいるテバス軍を殲滅させる力もそのつもりも無い。結構危険な駆け引きだけど、今の彼は俺の実力を知らない。それに加えて、彼は数分前に攫われた、しかも無自覚の状態で。そんな彼に、俺が圧倒的な力が有ると言う大嘘を信じる可能性が非常に高い。
「…ない」
「ん?何て?」
「…私からは出来ない。私にフロッテ王国に連絡を取る手段は無い」
「本当か?」
「本当だ!嘘なんてつけないよ!」
「なら本国への連絡ぐらいはできるだろう?指揮官のお前が本国に連絡を取れないなんておかしいな話はないよな?」
「く…」
「出来るじゃないか。なら本国に連絡し、フロッテ王国に連絡が取れる者に要求しろ」
「……」
「如何した?早くやらないのか?」
「…分かったよ!」
半ギレの口調で言い返したセノルズはゆっくりと太ももの外側に着けたポーチに手を伸ばした。