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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第三話

 狼達から身を潜めるため、慌てて廊下のとある小部屋に入った俺は約30分休憩を取った後、その部屋の探索を始めた。……いい響きに聞こえるが、実際はさっき扉を開いたせいで狼の群れに追われた事実が少しトラウマになって、積極的に探索する事はできなかった。一応狼の追撃から逃れるという目的は達成しているから時間の無駄にはならなかった。


 ともあれ、自分のトラウマと奮闘しつつ、頑張って探索を続けた甲斐はあった。先ず一つ目は探索中に幾度も微風が頬を撫でる感覚があって、その風は小部屋の奥の壁から漏れている事を確認できた。


 続けて二つ目の発見は、小部屋の壁の一箇所に見るからに怪しい、丸い突起物があった事。


「スイッチ……だよね?」


 うん……おかしいな、この光景はどこかで見た覚えがあるな……確かどこかの誰かさんがとある扉を開いたせいで、現在進行形で狼らしき生物に追われた気がする。……デジャヴかな?


 閑話休題。さて、このスイッチらしき丸い突起物は小部屋の奥から漏れている微風と関連しているのはまず間違いない。恐らくだが、部屋の奥には隠し扉の類の物があって、そしてこの突起物はそれを起動するボタン。


 普段ゲーム内なら好奇心に促されて、躊躇なくこのボタンを押すが、流石に扉を開いたせいで命の危機を感じた前例とこれ以上追跡者を増やしたら今度こそ逃げられない確信が相まって好奇心による衝動を抑えた。


「さて、そろそろ居なくなったら嬉しいんだが……」


 この小部屋に逃げ込んで休息を取る際に重りになって扉を抑える意も兼ねて、扉に背もたれの形で座った。扉越しでも分かる狼達の足音と唸り声。何故かは知らないが、どうやらあいつらはこの部屋に入れないみたいだ。まぁ、そのお陰で十分な休息とトラウマとの奮闘の時間があったから文句は言えないけど、奴らが扉の外で待ち構えているせいで俺もここから出られない。


 淡い期待を抱き、俺は呟きながらそっと扉に耳を当てた。が、扉の向こうから聞こえてくる、まさに俺の不安を煽るような音は未だに健在だ。しかも、遠くの方からズドン……ズドン……と、絶対狼ではない大きくて重い足音も聞こえる。


「……無事にここから出られそうにないな」


 あまり聞きたくない……と言うよりかはツッコミどころ満載な足音が交っていることは一旦無視しても、安全にこの小部屋から脱出できる光景が全く思い浮かばない。こうなったら、俺に残された選択肢は突起物ボタンを押して、部屋の奥の隠し扉がどこか安全な場所と繋がっているように願うしかない。


「どうか……安全なところに……そうでないとしてもせめて俺を狙っているモノから距離が離れた場所に……!」 


 そう言った祈りを口にしつつ、俺は壁の突起物を押した。すると――


――ゴゴゴゴゴ……


――案の定奥の壁の一部が開き、その奥に隠された通路が露わになった。


…………


……



「何もない?」


 隠し扉の真横、つまりその向こうから死角になっている所で身構えた。が、暫く時間が経ってもそこから何かが出てくる様子はない。


「すぅ……行くか」


 一度深呼吸して覚悟を決めて隠し扉を潜った。そこにはさっきの部屋や狼に追われて無我夢中で走った廊下と同様に、謎の光に照らされている通路が続いている。しかし、それらしき発光体が全く見当たらない。まっ、それは一旦置いといて……


「この通路は何処まで続くんだ?いくらなんでも長すぎないか!?」


 体感でかれこれ一時間弱が過ぎてるにも関わらず、全く同じ景色の通路が続く。所々に休息を挟んでいるとは言え、確実に一キロぐらいは歩いた。もはや何処かで軸が歪んでいないかっと、疑った時も多々あった。


 まぁ、狼たち他の生き物、トラップの類と出くわしていないのは良い事なんだけど。この状態が続けば狼の群れに追われた以上の問題と直面しなければならない。それは即ち……食料と飲み水の確保。


 最後に水分を摂取したのはここに飛ばされる前、自販機で缶コーヒー買った時。単純計算だと最低でも2時間、水を飲んでいない。しかも食事に至っては昨夜、ソロでレイドボスを討伐した直後に食べたカップ麺、約一日何も食べていない。我ながら随分と省エネな身体だと感心したいところだが、狼達との逃亡劇を繰り広げた事でそろそろ身体が限界を迎えるのもおかしくない。


「……遂に幻覚を見始めたって訳じゃないよね?」


 どれだけの距離を歩いても全く同じ景色が続くという精神と肉体の疲労と空腹感、時間感覚の喪失は大きく俺の精神と正気を削っていた。「ここから脱出できないならいっそここで自害する」なんて冗談か本気かも上手く判別できない決断が幾度も俺の脳内に過った。が、死への恐怖を始めとした幾つかの原因でその考えを断念させた。


 「後少し歩けば、きっと出口に……」っと、何度も何度もそうやって自分を言い聞かせながら足を無理矢理動かせた。自害を断念した時点……いや、あの隠し扉を潜った時点では既に後戻りできないと知っている。立ち止まりも後戻りも許さず、頭を上手く回せない俺はただひたすら心身ともにボロボロの身体に鞭を打つ。


 もはや意識が朦朧としている俺の視界に、巨大な黒一色の巨大な立方体が飛び込んできた。一軒家よりも大きいそれを目にした刹那一瞬幻覚かと思ったが、例えそれが幻覚でも構わない、救われたとの思いで接近した。


「…………」


 俺の接近に反応したのか、正方形の物体の正面に扉らしき穴が開かれた。まさにホラー映画で次の得物を誘うお化け屋敷を連想させる光景だ。


「……まっ、神でも悪魔でも良いか」


 そう呟いて、俺は開かれた四角い穴()を通って、正方形の物体の中に入った。


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