第二十九話
リルハート帝國軍の野営地から出た俺はテバス軍が現在待機してる場所まで移動中。ここは極度砂漠に似てる荒野。あんまり早く移動すると容易に感知される。とは言っても、遮蔽物が少ない荒野で遅く移動すると、太陽が上ったらもう隠密行動は無理に等しい。出来れば、目的の指揮官だけを狙うつもりだ。付き加え、足場が良くない荒野で普通50キロ先まで走って、夜明け前に敵地に辿り着くのは距離的に無理だ。だから俺は敵に覚り辛いよう、足元と踏んだ地面に僅かの≪圧縮強化≫を掛けて、しっかりとした足場を作った。やっと距離を半分ぐらい詰めた時に、イリアから念話を飛ばしてきた。
『でもお前は良くあんな使い方を考えたもんだね』
『ん?≪意識連結≫のスキルの事?』
『そうですよ!レイさんはどうやってそのスキルの使い方を?』
『いや、あれのヒントをくれたのはイリアだぞ』
『私?』
突然話の話題の中心になったイリアはきょとんとっとした声を出した。実体化したら、さぞや可愛い顔をしているだろうな……イカン、考えが脱線しちゃった。ここは一度冷静に成れ…
『うん。最初に出会った時はまだ思えてる?その時、俺はイリアに思い切り思考を読まれたから』
『そ、それはレイが変な事を考えるから!』
『変な事?レイさん、貴方は一体何を考えていました!?』
『ま、まあ。昔の事は置いといて……コホン!その時、イリアが俺の思考を≪意識連結≫で読んだと知り、使えるなぁと思った。それに、人間の言う生物は言葉を発す前は必ず、脳にそれと関係するモノを浮かぶから』
『……なるほど。それでお前は私に≪意識連結≫でその二人の意識を繋がるようとしたか?』
イリアの話に喰いついたイジスはもの凄い勢いで俺に問いかけた。そう言えば、イジスはまだ俺が彼女達に対した考えを知っていないんだ……何とか彼女の注意をその事から逸らすことに成功した。
『そう言う事』
『二人?イリアさんが連結したのはレイさんに詰問された彼だけではないですか?』
『ああ、もう一人の意識にも連結しようと頼んだ。だって、万が一俺が問いかけられたあいつは上手く行けないとしても、もう一人保険が有る方が良い。それに、もし俺の問いかけに複数の人物を考えたら誰が誰なのか分からないじゃないか?』
『分かりました。つまりレイさんはその二人が思い浮かばれた同一人物を探していますね!』
『そう。問いかけられていない人から情報を取れない、なんてことは想像もし無かっただろう。ましてや思考が読まるスキルの持ち主に出くわす事も予想しなかっただろう』
『確かに。他人の思考を読み取れるスキルは複数あるけど、それらは断片的な事しか読めないから……ほぼ使えないスキルと認識されている。もっと効率よく、同じことが出来る精神系の魔法があるから尚更だ』
『へぇ、結構危険な魔法もあるもんですね。私も知らなかった』
『イジスが知らないのも不思議ではない。精神系の魔法は私達が封印された後に発見された魔法の一種だから。でも精神系の魔法を一人の人間に扱える代物じゃないわ。精神系の魔法は基本的に、相当の量の魔力を消費するし、使用者の精神か脳にも負担が掛かるから。上級な例だと…精神支配や思考読みなどの消費と負担は桁違いだ』
そんな事を話しながら走った内に、時間が過ごし、いつの間にか敵地の近くまでやって来た。そこはリルハート軍の野営地に似てて、即席のテントに篝火、数名の兵士と小隊長らしき人物が周りに巡回している。
俺はその野営地の近くにいる大きな岩の岩陰に隠れてる。特に準備する物は無いが、念には念を入れて……
『イリア、この周辺の敵情報をお願い』
『了解。≪マッピング≫ ……スキャン完了。敵位置の捕捉…完了。敵情報のロード…… 特定人物、テバス軍現地指揮官――セノルズ・チェヴリツァにロックオン』
イリアが≪マッピング≫のスキルを使用始めた途端、無機質な機械っぽい話し方でスキルの進行状況を報告した。彼女の言葉の後を追う様に、念話で周りの地図が表示された。次の瞬間、地図上に次々と赤い点が浮かべた。よく見たら数え切れないほど赤点の中に、明らかに他の点と違って、画鋲みたいな形をしているアイコンが一つ、敵地の真ん中にいる。しかもそのアイコンの傍に赤い点が二つ。ここだと…
『…テントの中、か。こりゃ、面倒だな』
『あの二人が騒ぎ出す前に無力化して、指揮官を狙う。難しいけど、不可能ではない』
『マジで?』
『はい。先ずは…』