第二十六話
その日の夜、俺は昨日と同じ部屋に泊まっていた。昼頃のあの事件以来、村長のローランさんは自分の家の中に籠った。俺が訪ねてもドアを開けず、ただ「あの部屋はお主に貸す」という返答が貰っただけ。そして現在はイリアとイジスが実体化して、三人で向き合い形に座った。
「やはりレイはあの二人の事が気になるのか?」
「うん。ローランさんがあのジェラールって言う大男に叫んだ時、何か怒りというよりは悲しい感じだった。気のせいかな?」
「いいえ、それは多分気のせいじゃありません。実際の所、私とイリアさんもそう感じた」
「やっぱりそうか……あのジェラールのステータスは確かに〝リルハート帝國第二騎士団団長〟という称号が有ったな。イリア、リルハート帝國は?」
「人間大陸にある数々の国の中でも相当古参の国で、軍事力はもちろん、政治力や他国への影響力も随一の国だ。それと、世界各地に散らばった冒険者ギルドの本部が居る国でもある」
「中々良い国じゃないか。冒険者ギルドの仕事は俺が持っている知識と合っているか?」
「はい、レイの認識に合ってる。冒険者の仕事は様々な種類がある。その中の半数以上はハイリスクハイリターンの仕事だ」
「レイさん、貴方まさか……」
俺とイリアのやり取りから何かを悟ったイジスの質問を笑顔で答えた。イリアに頼み事がしたいから、彼女の方に向けた。その頼みを言えようとする瞬間、イリアから一つの地図を念話の形で貰った。このは……
「仕事が早いな、イリア。まだ何も言ってないのに」
「ふふ、私を誰だと思っている。一番レイの考え事を知っているのは私だから」
胸を張って、そう宣言したイリアに苦笑しつつ――
「ありがとう。二人とも、ちょっと付き合ってくれる?」
「「はい!」」
二人の回答を得た俺は密かに部屋を出た。イリアの地図を頼りに、俺は村から出て、村の西側のとある場所までやって来た。そこには何人かが見張っていた。その内の二人は俺の接近に気付き素早く腰にぶら下げた剣を引き抜いた。
「何者だ!?」
「落ち着けって。ほらこの通り、敵意は無い」
剣を構えた二人の兵士に対して、俺は両手を上げて、ゆっくりとその二人の前まで歩いた。
「お前は、昼の……何しに来た!?」
「だからそう警戒するなって、俺はお前らの隊長に会いたい。ちょっとあいつに話したい事が有る」
「お前みたいな来歴不明な奴を『はい、こちらです』って言えるか!」
「何事だ」
「「ウィルさん!」」
俺と兵士二人の〝交渉〟の最中に割り込んだのは茶色のローブを着たおっさんだった。見た目は50代の中年。少し長い金髪、鋭い目にはっきりとした眉。そして、一番の特徴は左目から左頬まで走る大きな傷跡。彼の出現でその場の雰囲気が一瞬、重くなった。
「貴殿は……ここに着た目的は?」
「お前らの隊長、ジェラールを探している。彼に話したい事が有る」
名前:ウィル・ステール
Lv:87
称号:帝國戦術魔導師
スキル:限界突破、真偽の魔眼、交渉、指揮[+士気上昇 +戦局分析]、杖術、槍術、魔力付与
魔法;風魔法、火魔法、光魔法
ウィルと話している隙に、彼のステータスを覗いた。ジェラールのステータスに及ばないけど、それでも俺より高い。スキルや使用可能の魔法と称号はかなり不釣り合いなステータスだ。戦術魔導師は何なのか分からないけど、多分は魔法使いとあんまり変わらない筈。それなのに、物理系のスキルが二つもある。つまり、この人は短距離から中距離、長距離での戦闘はほぼ全部対応できる。敵に回したら厄介だな。
「……分かりました。でもジェラール団長は現在不在です。話したい事なら私がする」
「ウィルさん!?」
「良い、この者の言葉に偽りは無い。それで、貴殿の返答は?」
『レイ、ここは受けるべきだ。でも、慎重にな』
「…分かった」
「そうか。ならついて来い。貴殿らは周りの見張りを続けろ」
「「はっ!」」