第二十二話
時間の都合上、少し短めです。
時は当日の夕方、イリアの情報通り、俺達はその小さな村に着いた。赤紫の空が幾つか輝く星々に飾られた。こんないささかロマンチックな夕方の空の下に歩いていたのは俺一人だけだ。イリアとイジスは俺の魔力保存の為、一時実体化を解いた。
「本当にここなのか?」
『はい。少人数だけど、確実に人間が住んでいる』
イリアが表示されたマップの座標と同じ所に着て、確かに村があった。正確に言うと、戦後の村がいた。
所々の家は歴史を感じる程、酷く風化した。家の壁や柱に僅か染み付いた血痕もあった。一応隠れているかな?姿が見えないが、確かに人間の気配があった。この村に漂う死の気配。もしイリアから貰った≪気配感知≫のスキルが無かったら、「こんな所に住まう人間なんていない、あるのはグールーかゾンビだけ」と言われたら絶対信じる。もはやこの村に活気と言えるものは皆無。
『流石にこれは予想外の展開だ。さて、どうする?』
『私は宿か、何処な休息が取れる場所を探すのを推薦する』
『でもイリアさん、こんな状態の村に休息を取れますか?ここ、賊の野営地だったかも知れませんし…』
『それでもやるしかないわ。このまま連続で旅したら、レイの体が持たない』
『それは分かりま――』
『しっ!静かに。人間の気配が一人、ここに接近中。レイ、警戒して』
イジスの言葉に割り込むまで俺に忠告したイリアの口調は相当高い警戒を帯びたものだ。相当な脅威を察したのか、それとも…どっちにしろ、イリアが高度警戒した相手はもうする左の曲がり角から姿を現す。緊張感が高まる中、気付けば、そいつは既に俺から数十メートル前まで歩いて来た。
『ッ!?こいつ、何時の間に!?』
暗闇に隠された姿は徐々に月の光で照らされた。イリアに警戒されたそいつは少し猫背な老人だった。
『この爺さんが』
「ほう…」
イリアから念話を受けた途端、老人は何かに感服された声を漏らした。
「小僧、お主は何故この村までやって来た?」
「え、俺ですか?俺はちょっと武者修業の旅の途中にいまして…国から国へ旅する者です」
「ふむ、冒険者や軍に属する者では無さそうじゃ。お主は宿屋を探すつもりじゃろう」
「はい、そうです」
「お主はこの村の事は聞いとらんのか?」
「いえ、何も……もしかして、俺は何かの掟を破ったのか?」
「ははは、そう心配するでない。こんな殺風景な村ですまなかったな。ほれ、付いて参れ。儂が宿屋まで案内するぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
事前にイリアと打ち合わせた事情が上手くいった事に対し、俺は密かに内心で喜んでいた。こうして、俺は内心の喜びを隠して、周りに警戒しつつ、老人の後ろに付いて行った。