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異世界無双ハーレム物語  作者: 時野ゼロ
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第二話

「うっ……」


 気づけば俺は俯せの状態で煉瓦やコンクリート類の硬い地面の上に倒れている。身体を起こそうと、両腕に力を入れた瞬間――


「つっ!……ガハッ」


――上半身、より正確には胸部と肩辺りが激しい鈍痛に襲われた。


 予想外の痛みに両腕の力を失い、僅かに地面から浮かべた上半身は硬い地面とぶつかり、肺の空気を吐き出された。痛い……痛いだけど既存の痛みに地面とぶつかった時の痛みを上書きされた。どうやら俺は何らかの理由でここに捨てられて、身体の痛みはその時に負った傷によるものだと考えるのが妥当だろう。痛みを無視すれば指や手首は動かせるから骨折はしてないと思う……多分。


 まぁ……事の発端はさっきの頭痛と謎の光に違いない。でも今の俺にはそれ以上の情報を持っていない。そもそもここは何処なのかも分からない。


「……見えないか」


 身体を起こすのは無理でも、何とか頭だけでも動かして視覚や嗅覚、聴覚などを活用して周りの情報収集を試みた。が、未だに完全に収まらない頭痛のせいか、視界がぼやけてはっきりと見えない。匂いや音の類もなく、ただここに何らかの弱い光源がある事だけは分かった。


「仕方ない……」


 身体を動かそうとも動けない。まぁ、全身を襲う鈍痛や頭痛を一切無視すれば動けなくはないが……後々の事を考慮して断念した。そんな俺に残された選択肢はここで、身体の痛みが引くまで動かない一択だけ。内心で溜息を吐きつつも野良犬などが来ないようにと祈った。


 一体どれだけの時間が過ぎたんだろう?30分……それとも一時間?ロクに考える事も出来ずにただボーっと、硬くて冷たい地面の上に倒れている内に体中の痛みが殆ど感じなくなった。まだじんじんと痛む箇所はあるものの、最初の痛みと比べれば大分収まっていた。僅かに手足を動かして具合を確かめ、動いても大丈夫と判断した。しかも長時間この場所にいるお陰で目の周りの薄暗さに慣れてきた。


 何とか立ち上がった俺は取り敢えず近くの壁に手を付いて、足に負担を掛けないよう壁にもたれる形で周囲を見渡した。


 そこで目にした物は無機質な灰色の壁と床。そして、壁は無数の孤立した四角い独房みたいな部屋を作っているらしい。そして俺が確認できる道は現在三通り存在する。この薄暗い空間内でこの作り……まさに『迷宮』だ。それにしても、この素材は何だろう?見た事無いけど、感触的に煉瓦よりのセメントっぽかったし……まさかこれが『石煉瓦』って奴か?ともあれ、少なくともここは俺が知る家周りではないのは確実だ。


「まさか……異世界転移?」


 そう言えば、多くの異世界モノのアニメやラノベの主人公も同じように見知らぬ場所で目覚めた所から物語が始まった。あまりにも現実離れした結論に辿り着いた自分に反論したかったが、残念ながら現に俺が体験したことをそれ以外の理由で説明出来ない。でもそれらの主人公って、自分自身を召喚した王や権力者との謁見の場から始まるのが定石。


「はぁ……我ながら随分とハードモードからスタートしているな……」


 ともあれ、ここが迷宮の中であれば、昔から知られている『迷宮の抜け方』ていう方法を使えば何らかの出口に辿り着ける筈だ。そう自分に言い聞かせながら記憶の奥底から昔に読んだラノベの知識を引っ張り出した。


「えーと、確か……」


 曖昧な記憶から引っ張り出したその確か……『先ず迷路の入口に立ったら右手か左手を壁につけ、離れないようにしながら歩いていく。そうすると、必ず出口に着くというものだ。』だったっけ?


 勿論この空間は謎が多すぎて、その法則が当て嵌まらない可能性も十分にある。それでも、ここで何もしないよりはマシの筈。そう決心した俺は僅かな痛みと連日徹夜の疲労に苦しめられた身体を鞭打ち、右手で体を支えながら歩いた。


 壁に沿って歩くこと約十五分ぐらい過ぎて、俺はとある広場みたいな部屋に入った。取り敢えず疲労を回復させるために、この部屋の隅っこに座り込んだ。休んでいる間に何もしないのは流石に時間の無駄だ。状況確認も兼ねて、俺は隅から部屋全体を観察した。


 観察結果だけで言うと、何となくではあるが俺が居る場所の構造が分かってきた。まず、ここは謎の光源ですら部屋全体を照らせないほどの広さを持っている。次に、この部屋には二つ、別の所に繋がる道が有る。一つ目は長い廊下らしき空間に繋がる戸口。そして二つ目が、今俺の目の前に有る扉。その扉は人間一人が問題なく出入り出来る2メートル強の扉。光が足りないからあんまり詳細は分からないけど、手触りの感覚からすると、相当丈夫な扉だ。


「これ、鉄かな?普通のゲームならここは何かの宝、もしくはそれなりに質が良い物が入ってそうだけど……でもここは流石にそのような仕組みではない、よね?……悩んでも仕方ない。よし、入るか」


 こう自分に言い聞かせて、俺は謎の扉を開いた。丈夫な扉だから相当重そうと勝手に思い込んだけど、軽く押すだけであっさりと開いた。


「さぁ~て、鬼が出るか蛇が出るか……ん?何かがこっちに来る!?」


 開いた扉に入ろうとした瞬間、奥から何かが俺の方に走ってくる足音が聞こえる。相当長い通路だろうか、足音が色んな所で反響し、具体的な数が分からない。でも相当な数が居るのは確かだ。そしてもう一つ確かな事が有る、それは……そいつらは人間じゃない。流石に危ないと悟った俺は、戸口の方へ走った。


「――!?やっべ!」


 扉から出て来たのは大型犬より大きな狼っぽい生物。最初は「一匹だけか」と油断したけど、そいつが出てきた後も足音が止まない。目の前の狼は群れで活動していることを知り、事の重大さを知った俺は咄嗟に戸口から出て、全力で逃げ出した。





 もう大分走ったけど、狼達の追跡はまだ続いてる。普通に考えて、どれだけ俺が離れた場所から走ったところで、狼が追い付かない訳がない。しかも俺は数年間も引きこもり生活をしていたから、体力は当然平均以下。とすると――


「遊んでいるのか?クソッ」


 無我夢中で走ったからもう自分が何処に居るのかが分からない。


「ちょっと、休憩……はぁ、はぁ、はぁ」


 俺は何とか道添にある小部屋に隠れた。暫くすると、狼の足音が段々俺から遠ざかっていく。破裂しそうな心臓を無理矢理鎮めた。長年部屋の中に引きこもってゲーム漬けの生活を送ったせいで情けないほどスタミナが無い。


 クソ、こうなれば少しでも身体を鍛えるべきだったと、小部屋内で息を潜めながら後悔する俺であった。


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