第百九十二話
『と・に・か・く!奴の攻略方は――』
予想外のことで危うく昇天しかけたけど、そのお陰で何とか精神を持ち直した。そして恥ずかしさのあまりに念話で続けたせいで鼓膜がヤバイ事になっていたけど、それのお陰で何とか昇天しなかったのは否めない。まぁこの際に念話の騒音が鼓膜にダメージを与えるかどうかも定かじゃないけどな……
「ふぅ~」
「おっ、終わったか?」
「……時々思うんだけどさ、案外優しいというか気が利くんじゃないか」
「あぁ?嫌味か?」
「ちげぇよ。ほら、俺が尊さで昇天しかけた時も攻撃を止めて、今まで待ってくれたんだろう?」
「そりゃあ援軍を呼ばれても困るからな」
「え、援軍?」
「惚けるな。さっきまで誰かと通話してただろう」
「…………」
「どうやってか知らねぇが、おめぇはさっきから誰かと通話しているのはとうに分かってんだよ。それらしいマナクリスタルを使わず、声を発せずに誰かと通話できる技術。是非とも教えてもらいたいところだ」
「教える訳ねぇだろうっ!」
「おっと!優しいって言ったじゃん!?」
「うん、言った。でも優しいから殺さないなんて一言も言った覚えはないぞ」
「薄情者っ!?」
確かに俺が隙だらけの時に攻撃せず、待ってくれた事は感謝している。でも、感謝しているからと言っても殺せない訳じゃない。と言う訳で、早速ボーガン使いの顔面に≪火の銃弾≫を打ち込もうとしたけど、上手く頭を傾けて魔法を躱せた。
『お待たせ。フェニックスはいつでもいけるみたいよ』
『……本当にこの作戦でいけるのか?正直もう不死と戦うのはこりごりなんだ』
『ああ、これで最後だ』
『はぁ……分かった。それなら魔力の出し惜しみは無しだ』
『……せめて魔力枯渇にならないにして』
イリアのツッコミは無視して――
「≪風魔の死鎌≫」
――風魔法のブーストが乗せた≪縮地≫のスキルでボーガン使いの懐に潜りこみ、お馴染みの暴風の大鎌で奴の下半身を斬り裂いた。
「チッ!まだそれほどの魔力が残っていたのか」
「いいや、今でも尽きそうだ!」
そして瞬く間に身体を一回転させて、大鎌による斬り上げでボーガン使いの右腕を斬り落とした。下半身の次に右腕を失っても出血死やショック死しない件については気にしないでおこう。
「うぐっ!何をする!?」
『今よ、フェニックス』
『……承知した』
イリアの合図と共にフェニックスは大蛇を炭化させた業火を再燃させた。
「ああ、安心しろ。ただ戦場を変えるだけ……だっ!」
上半身と左腕しか残っていないボーガン使いの首を掴み、炭化したであろう大蛇の屍が有った方向に投げ飛ばした。抵抗できるはずもなく、フェニックス製の露天式焼却炉(大蛇のモンスター入り)に放り込まれたボーガン使いはすぐさまに獣みたいな悲鳴を上げた。
『なぁイリア、あいつが燃え尽きるまで何分掛かると思う?』
『体積が成人男性の半分以下でその火力だ。十秒もかからないと思う……あっ』
そうこう言って内にボーガン使いの悲鳴が聞こえなくなった。分厚い炎壁に遮られたせいで確認しようがないが、無言でフェニックスの炎に焼かれる苦痛を耐えられる筈もない。それなら、無事に灰になったと考えていい。
『これで第一段階成功って感じ、でいいのかな?』
『ああ、予定通り灰になって、今でも再生しそうだ』
『……ここまでくると最早生物かどうかも疑わしいぐらいだ』
「ああああ!流石はフェニックスの炎!クソ痛ぇな、おい!」
『そうね……フェニックス、お願い』
イリアが念話で待機中のフェニックスに指示した直後に、炎壁の向うからボーガン使いの叫び声が聞こえた。それを無視したイリアは淡々と魔法を唱えた。
『≪術式奪取≫』
「ん?な、何だコレは!?てめぇなにをし――離れろ!くっ、何なんだこれらは!?」
魔法が唱えられた途端、ボーガン使いの叫び声が段々と悲鳴に変わっていく。まぁ無理もない。業火に焼かれた痛みを耐えながら蘇生した直後に、黒焦げ(一部炭化した)大蛇の肉片がいきなり磁石に吸い寄せられた鉄みたいに自分の身体にくっ付いたら慌てない方が無理だ。
順を追って説明しよう。先ず俺がボーガン使いの下半身を消し飛ばした主な理由としては奴の体積を削るためだ。そして体積が減ったボーガン使いをフェニックス製の露天焼却炉に投げ入れて、灰になるまでに奴を身体を破壊する。
イリア曰く、ボーガン使いの不死性は自分の細胞の再生能力を無理矢理スキルか魔法で活性化させて、≪超速再生≫をも上回る再生速度を手に入れた。対する大蛇は遺跡の地下にあった「心臓」から魔力を吸って、その魔力で破損した身体を再構築するものらしい。
そしてボーガン使いがフェニックスの炎に対抗する為には己の再生速度を限界まで引き上げる必要がある。もし奴の再生速度はフェニックスの炎の破壊を上回れないのであればそのまま焼死されて一件落着になるが、やはりそう簡単には行かず、奴はフェニックスの炎に負けを取らない再生速度を見せた。そのタイミングを見計らって、イリアがフェニックスに炎の性質を治癒能力のあるモノに変換させた。
その結果として、今まで限界まで引き上げたボーガン使いの再生能力が歯止めが効かず暴走し始めて、死亡した筈の大蛇が虫の息ぐらいの状態で復活した。そこでイリアは大蛇の魔力を吸う術式を上書きして、魔力の代わりに周りの物体を吸い込む効果に変換した。
暴走した再生能力と吸い寄せられる大蛇の肉片で巨大な肉風船になり果てたボーガン使い。その風船から怨念らしき声が漏れてて、時折に数箇所が破裂して大量の鮮血を噴き出した。
『人造の大蛇と人間が融合した成れの果て……ある意味この肉風船は一種の人造キメラになるのか』
『人造キメラって……そんな物まであるのかよ、この世界は』
『あるわ。特に神代戦争の時は生物兵器としての使用例が多い。まぁその殆どは知能を失い、ただ命ずるがままに敵を殺す兵器になる』
『そっか……』
『ああ、だからレイ、アレを終わらせてやれ。大丈夫。二つの個体の今みたいに無理矢理繋ぎ止めた場合は素材となった者の能力も殆ど引き継いていない。だからもう、復活もできないし、再生したい』
『分かった。すぅ……≪激震裂:弌撃≫!』