第百九十話
「≪風魔の死鎌≫!」
セツが地下遺跡の最奥で破壊した大蛇の心臓によって再戦の火蓋が切られた。その瞬間に最速で暴風の大鎌を生成し、目の前のボーガン使いに目掛けて振り下ろした。
「――!」
何かを呟いたボーガン使いは至極当然のようにサイドステップで≪風魔の死鎌≫の軌道の外に移動した。しかもその角度では攻撃の余波である暴風の影響も少なく、あいつのボーガンにとっては絶好な反撃のチャンス。勿論それを許すつもりはない!
「ふん!」
足元に風魔法を掛けて、そこから生じる勢いで身体を回転させた。鎌の先に重力魔法を使って無理矢理鎌の軌道と角度を変えながら鎌を振る速度と威力を増やす!奴が持っているボーガンは矢に雷の魔法を付与することでスピードと貫通力を大幅に上げる。生半可な方法ではその矢を防ぐどころか、軌道を逸らす事さえ不可能。使い手の技量次第で一撃一殺の凶器になれる。
だけど、放たれる一撃がどれだけの威力を秘めていようと、所詮当たらなければ問題は無い。そしてそれを放つのはボーガンであり、連射性能を誇るサブマシンガンから始める銃器ではない為、一発撃った後には必ずリロードする時間が必要だ。しかも狙いを定めるのに必要な時間も少なからず要る。これらのことを踏まえると、隙が少なく攻撃後の硬直が短い連続攻撃でリロードも照準を合わせる時間を与えないのが現状考えうるベストな攻略法。
勿論装填済みの一発は食らう覚悟だが、奴の不死性に比べれば格段に劣るものの、超速再生のスキルを持つ俺にとっては脳や心臓と言った重要な器官に当たっていなければ大した問題は無い。
薙ぎ払い。袈裟斬り。逆袈裟斬り。袈裟斬り。薙ぎ払い。……
感覚的に独楽になった俺は≪風魔の死鎌≫の軌道を微調整しながらボーガン使いに怒涛(?)の攻撃を仕掛けたのにも拘らず、平然とそれらを躱し続けるボーガン使い。連撃の中に数回か奴の腕や胴体に掠った事はあるけど、どれも掠り傷程度で、重症になれなかった。
攻撃が殆ど当たらない俺に対し、ボーガン使いは装填済みの矢で俺の太ももを撃ち抜いた。でも太ももなら≪超速再生≫で何とか動きへの影響を最小限に抑えつつ、奴のボーガンは狙い通りの状態になった。今まで接近戦を見せていないのは接近戦が苦手だと仮定すると、今奴が一番したい行動は俺から距離を取ってボーガンのリロードをする。
しかもこれまでの攻防で、「こいつの不死性には何らかの制限がある」という仮説が俺の中で立証しつつある。もし本当に不死身ならそもそも俺の攻撃を避ける必要はない。最初からダメージ覚悟の特攻で簡単に俺達を全滅できた。そうしなかったのはつまり、奴の不死性には蘇生できる回数に制限があるか、もしくは回復できるダメージ量に制限があるかの二択に間違いないだろう。
「チッ!」
おおっ……!いい感じにフラストレーションが溜まって来たな。流石に今の舌打ちは聞き逃さなかったぞ。反撃が出来ず、逃げの一手に徹したボーガン使い。相対するは一撃をまともに食らったら重症になりかねない大鎌による連撃を繰り出している。そりゃフラストレーションも溜まるわ。
「っ!」
俺から距離を取るために地面を蹴って、上空へ逃げた。まぁ、その状況を打破するには最善の行動だけど、最善故に予想しやすい。
「逃がすか!」
そう叫びつつ、予めに準備した三つの魔法を発動させた。先ずは勿論奴に追いつくための風魔法とボーガン使いの妨害目的の重力増加。二つの魔法の発動と共に、明らかに動きが鈍化したボーガン使いに風魔法の推進力で急接近する俺は速やかに≪風魔の死鎌≫を構え直した。
「くっ!この程度の重力で……!」
増えた重力の影響で辛うじてボーガンに矢を装填出来た彼は両腕が震える程重力魔法に抵抗ながらもこの絶好の反撃チャンスを見逃さすつもりがなかった。普通ならこのスピードで突っ込んで、雷矢による反撃を避ける術は無い。そう……普通なら。
「今っ!」
彼がボーガンの引き金に掛けた指を動かそうとする瞬間を魔眼で見極めて、そのタイミングで重力増加の魔法を解除した。その代わりに準備しておいた三つ目の魔法、重力を軽減する魔法を発動した。
「うわっ!?」
その結果は言うまでもなく……これまでの超重力を抵抗したボーガン使いの両腕は勢いよく真上に挙げられた。
「流石に自身以外は再生できないだろう!」
「くぅ……!」
ボーガン使いの両腕、もといその先に握られたボーガンに向け、≪風魔の死鎌≫を振り下ろした。結果を言うと、狙い通りにボーガンを粉々に壊せたし、ボーガン使いの両腕も攻撃の余波に巻き込まれて血潮になり果てた。ここまでは予想通りの展開だった。が、俺はボーガン使いの不死性を、その再生力を侮っていた。
「がっ!?」
ボーガンと一緒に潰せた彼の両腕は気づいた瞬間にはもう再生されて、俺の右手首を握りつぶした。
「この状況で得物を失うのはまずい」と本能が告げて、激痛で≪風魔の死鎌≫を手放してボーガン使いに殴り掛かろうとする衝動を何とか堪えた。まぁ、アドレナリンの大量分泌で多少ながら痛みが軽減できたお陰でもあるけど……それ程の量のアドレナリンが分泌されてもなおこうして冷静に分析できたのは並列思考のスキルのお陰なのかな?
まぁ、そんなこと今はどうでもいいか……
「残念だが俺は野郎に手を握られて嬉しくはねぇ!……ふんっ!」
「ぐぁあああ!……俺も、そんな趣味はねぇよ!」
確かに俺は接近戦がお望みだけど、流石に片手が封じられてはまともに攻撃や回避するもままならないし、ボーガン使いは俺の手首を潰せても離すつもりは無いみたいだ。
仕方なく二人の前腕を残った左手に握られた≪風魔の死鎌≫で消し飛ばした。再生力が高い俺達にとって、これぐらいの傷は大したハンデにならない。しっかし、冥獄鬼の鎧骨ごと俺の手首を握り潰したこいつの握力はどうなってるんだ!?近接でも問題なく戦えるじゃん!
「――おっと!?」
ちょっと待って!このボーガン使い、キッレキレな動きで殴り掛かって来たぞ!?クソ、こうなったら大振りの大鎌は逆に不利か……!
「≪激震裂:弌撃≫!」
中途半端に再生した右手でボーガン使いの胸元を殴って、強制的に戦場を上空から地上の砂漠に変えた。本来人間は胸骨を粉砕された上、そのスピードで地面と激突したら生存の確率は皆無だがなっ……!
「≪雷の激鎚≫!」
地上に落ちたボーガン使いに追撃のドロップキック(雷魔法付き)を見舞った。