第十九話
「ネクロス、カーディガン?それがあいつから譲れたスキルなのか?」
「そうらしい」
「それでは、レイさんの魔力に余裕ありますか?」
「それなりに休んだから、大丈夫だけど…どうして?」
「今から人界に行くつもりですよ?今のレイさんの服だと絶対に怪しまれます!」
そう指摘された俺は視線を自らの服装に落ちた。そう言えば、今まで激しい修羅場を二つも乗り越えた服なんて無事にいれるほうがおかしい。愛用しているパーカーはズタズタで長ズボンもボロボロだ。よく見ると、パーカーの下のTシャツも所々破れている。
「確かに、この状態で町に言ったら絶対怪しまれるな」
「でしょう!ですから、私は今からレイさん専用の服兼防具を作ります」
「そのための魔力か。良いよ、好きに使って」
「でしたら。レイさん…あの、その、服を脱いでいくれますか?」
イジスの声は最後の方に途切れそうなほど小さかったけど、俺はそれをちゃんと聞こえた。
「……はい?」
「だ、だってぇ裸に成れないと…その、サイズは測れません…から。この頼みを言う私も恥ずかしいし、男性の裸なんて見たとありませんから」
凄く恥ずかしながら自分の発言を説明するイジスの顔はトマト並みに赤い。頭上から煙が出てるけど…錯覚だよね?
「い、イジス。大丈夫だ、私がレイのデータを≪意識連結≫で伝えるから」
「イリアさん、ありがとうぅ~!」
助け船を差し出したイリアにイジスは涙目で抱き締めた。そんなイジスを慰めるように、イリアはその頭を優しく撫でた。
「イジスと言えども、良い服を作るためには暫く掛かるから…レイはその間で新たに手に入れたスキルや魔法を試すと良い。その分、イジスもお前の戦い方に似合う服を作れるし」
「そうだん。ん、そうしよう」
「ああ、それからもう一つ。あんまり魔力を使うなよ。次元の歪みの位置は既に特定したけど、大分前に戻らないといけない。そのためにはチェイサー・ハウンドの大群を突破する必要がある。あの数と戦うのは無理だ。戦いながら逃げるしかない。大丈夫、あいつらは次元の歪みの向こう側まで追いかけ来ない、一応ここの番人みたいな存在だから。加え、イジスも服を作る分の魔力を消費するから。レベルが上がったから油断禁物よ」
「分かってるよ。それじゃ、服の方を頼む」
「ちょっと待ってください。レイさんは何かの要望がありますか?出来る限り応えますから」
「そんな悪いよ」
「いえ、大丈夫です」
「ん~強いて言うと、色調は黒にして欲しい。他はイジスに一任する」
「それだけですか?後で後悔しません?」
「まぁ、あんまりマニアック過ぎない物なら。それに、俺はイジスの事を信じるから」
「でしたら、私もその期待に応じる傑作を作らないといけませんね。腕が鳴りますわ!」
「期待してるよ」
「はい!任せてくださいっ!」
満面の笑みで答えるイジス。これなら心配なさそうだ。さて、俺もやるか。
~
それから暫く経て…
「レイさ~ん、出来ましたよ~」
「おう、早いな。どれどれ…」
イジスに呼ばれて、俺は練習を止めて、イジス達の方へ戻った。そこには、イジスとイリアが出来立ての服を自信満々に持ってきた。俺の要望通り、造った服を黒一色に統一した。先ず俺の目に入ったのは…
「あれ?これって、今俺が着てるのと同じじゃないか?」
そう、それは今俺が着ているパーカーと同じ物だ。強いて言えば、新のパーカーの色はより一層黒くなって、所々にプリント基板上のプリント回路みたいな赤い線がある。俺の中二心をくすぐるデザインだ。実に良い!
「私は出来るだけレイさんが馴染んだ服装の方が良いと思いまして、現在着てるパーカー?をモデルにしたんです。ここの線は魔力を通す為の物です。嫌でしたら隠します」
「いいや、かっこいいから大丈夫」
「良かった。次のこれらもレイさんの服をベースに造ったのです。試しに着てください。あっ、靴もあります」
俺は二人から服を貰い、柱の物影で着替えた。イジスが作った服を着て、第一の感想は…めっちゃ、気持ち良い!良いと言うレベルを超えた肌触り、熱過ぎず、寒過ぎず、しかも伸縮性ばっちり。もう俺の宝物として保存したい!着替え終えて、二人の所に戻った。
「まぁ!良くお似合いです!」
「あ、ありがとう」
「……」
イリアは特に感想を言ってないけど、小さく「かっこいい…」と呟いたことは聞き逃さない。俺はイリアと目があって、苦笑で「聞こえたよ」と返事したら…イリアは顔を赤くして、目を逸らした。
「では、この服一式に着けた能力を説明しますね」
「そんな事出来るの!?」
「勿論です、魔力回路さえ刻めばできます!先ず、Tシャツは魔力自動回復と防御力上昇。パーカーは腕力上昇とTシャツと同じの防御力上昇。靴と長ズボンは共に移動速度上昇と脚力上昇の二重掛けです。加えて、全部の服は火炎耐性と氷結耐性、そして自動修復や体力回復がつています」
「チート過ぎだろう!」
「気に入らなかったですか?」
「いや、そうじゃない。ただ、強すぎるじゃないか?」
「言ったでしょう。期待に応じた傑作を作りますって」
「こんな凄い服一式をあんな短時間で……ありがとう」
「いえ、気に入って貰えて幸いです」
舐めてた。スキルを見て、イジスは結構凄いと思ってけど……まさかここまでとはな。感服した。それから俺はちょっと試しに準備運動をして、冥獄鬼の鎧骨を使っても問題ない。骨の鎧はちゃんと服の上に顕現する。よし、これなら心配ない。そして、俺達は神殿の門に集合した。高速で移動する為、イジスとイリアは俺が抱いている状態だ。今更だけど、美少女に手作りの服を貰って、更に両腕で美少女二人を抱えてる、まさに〝両腕に花〟の状態!
「レイ、体調の方は?」
「ばっちりだ」
「イジスは?」
「大丈夫です」
「よし、じゃここから出よう」
「おう!」「はい!」
作家のファッションセンスの無さにご了承ください。